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24 敗戦処理

 予告通り、葵は広間に主だった者を集めて会議を始める。グノーム国内の貴族たちに加え、遠征軍についたシルフィードの貴族たちも参加している。シンの魔法で一緒に連れてこられてしまったのだ。エルフ族の長まで参加していた。


「じゃあ、これからどうするか話し合おうか」


 葵が会議の開始を告げると、さっそく出兵に反対していた貴族が声を上げた。


「私はそもそも遠征に反対でした。まず陛下をそそのかした者どもを処罰すべきでしょう!」


 これに対し、出兵賛成派から異論が噴出する。


「遠征が失敗したのは我々の責任ではない!」


「そ、そうだ! 侍女上がりの偽女王が悪いのだ! やつが魔王の生まれ変わりで魔族でなければ、天使様も我々に危害を加えようとしなかったはずだ!」


「陛下! 呼子麻衣を戦犯として処刑しましょう! 御聖断を!」


 出兵賛成派は麻衣をスケープゴートにしようとする。出兵反対派はこれに対し、あくまで賛成派貴族の責任を追及する構えだ。


「呼子麻衣の件を見抜けなかったのも貴様らではないか!」


「天使が来ても戦うと言ったのも貴様らだ!」


「ま、待て! それは殿下がいれば天使と戦って勝てると思ったからで……! 天使様に敗れる殿下が悪い!」


「そ、その通り! 出兵を決断されたのも殿下だ! 殿下に責任がある!」


 半分苦し紛れであるが、シンの責任も追及され始める。確かに最終的に戦うことを決めたのはシンだし、ラファエルに勝てなかったのもシンだ。


 シンはうなだれるが、ここで葵が発言した。


「あのさぁ、ここまで全員無事に帰ってこられたのは誰のおかげなのかなぁ? そこんとこ、わかってる?」


「「……」」


 広間にいた全員が黙り込む。葵の言葉は正論といえば正論だし、言外に「シンの責任を問うのは許さない」というメッセージが込められていた。かばってもらえるのは嬉しいが、では誰が代わりにやり玉に挙げられるのか。


 決まっている。麻衣だ。一人の貴族が咳払いしてから言った。


「コホン、我々は皆、だまされていただけなのです。呼子麻衣という忌まわしき悪魔に。なので、彼女を処刑しましょう。それでこの話は終わりです」


 そんな結論で終わらせてたまるかとシンは声を上げかけるが、ここまで隅っこの方で縮こまっていたシルフィード貴族がおずおずと手を挙げた。


「……悪魔の処刑には、私たちも異存がありません。しかし、私たちは国に帰れるのでしょうか?」


「「……」」


 またも広間は静まりかえった。グノーム国内の貴族たちは敗戦責任の論争ばかりをして、これからどうするかについて全く話し合っていなかった。葵は現状の説明を始める。


「……カストルポルックには守備隊を残してるし、遠征軍もほとんど無傷で帰ってこられたんだ。シルフィードに再侵攻するのは不可能じゃないさ。ただ、ラファエルをどうするか……。今のままじゃ勝ち目はないね」


 葵は言い切るが、そのとおりなので何も言えない。シンが一人で戦えば火力が足りず、アスデモウスの力を使っても多大な犠牲が必要となる。葵はさらに付け加えた。


「それに、向こうも逆にこちらに攻め込む準備をしてるみたいだよ」


 シルフィード王家の正当後継者を自称してグレート=ゾディアックを占拠しているヨハン家単体では、グノーム守備隊が詰めるカストルポルックを落とすこともおぼつかない。


 しかしシルフィード国内で中立を保っている貴族たちがヨハン家側につけば話は別だ。カストルポルックを陥落させ、国内を統一することも夢ではない。それどころか、逆にグノームに攻め込んでくることも考えられる。


「間諜の報告によると、ヨハン家は今各地に使者を送って自分の方につくよう説得してるって話だ……。一ヶ月もあれば軍勢が整って、カストルポルックに攻めてくるんじゃないかな……? それまでにどうするかってことだね……」


 麻衣を処刑するのなら、そもそもシルフィードの王位争奪戦にグノーム王国が介入する大義名分が失われる。カストルポルックの守備隊を引き揚げ、こちらについていたシルフィード貴族たちをヨハン家に引き渡すこととなるだろう。そうなると彼らには辛い運命が待ち受けている。売国奴扱いされて命の危険さえあるだろう。


 かといって麻衣を擁護するのも難しい。何せ、麻衣は人間ではないのだ。血統は「シルフィード王家はベルゼバブの子孫」と言い張ることができても、そこはいかんともしがたい。結論は出ず、ただ時間だけが過ぎていく。


「……いったん休憩しようか。三十分後に再開ってことで」


 葵は奥に引っ込み、シンもそれにならった。

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