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17 ラファエルの来襲

 グノーム軍がグレート=ゾディアックに着陣してから一週間が経過した。進展は全くない。城門前に築かれた砦を攻めあぐみ、完全に膠着状態となっている。


 指揮官たる間宮はかなり有能だと、認めざるをえない。正面攻撃は城壁の支援を受けた射撃で撃退される。砲撃や投石は風の魔法で逸らされてしまう。大盾を含めた攻城兵器は風魔法と火矢のコンボで全滅した。塹壕を掘ってじわじわ近づこうとすれば夜襲を受けて壊滅する。大坂冬の陣における真田丸のような堅牢さだ。というか歴史マニアの間宮は、まさに真田丸を参考に砦を築いたのだと思われる。


 こちらも大坂冬の陣にならって大砲をグレート=ゾディアック市内に撃ち込んではいるが、あまり効果は見られない。たまたま淀殿の侍女に命中したりとか、そんな偶然は起きないのだろう。


 そもそもこの世界の砲弾は風魔法で逸らすことができる。要人の周囲には当然、相応の魔力を持った貴族がついているだろう。ラッキーパンチもまずありえない。一般市民の厭戦気分を煽れればいいのだが、効果があるのかないのか、外からはわからない。


「まぁ、じっくりやるしかないさ」


 葵はそう言って鷹揚に構えていたが、シンの焦りはつのるばかりである。一応城門は全て封鎖して兵糧攻めの状況にはあるが、南の海は封鎖し切れていない。グノームに味方しているシルフィード貴族の軍船はうろうろしているが、寄せ集めで練度は低い。グレート=ゾディアックから艦隊が出てくれば敗走してしまう可能性は十二分にあった。


「今、東の貴族にも呼びかけて寝返り工作してるところだから、余計なことをせずに待つことだ」

 葵の言うとおり、寝返り工作がうまくいくことを祈るしかない。




「……ここで兵士の皆さんにインタビューしてみようと思います。まずは王国軍第三騎兵隊のカスペルさんです」


「全く状況に変化はないよ。あの砦を潰せないんじゃね……。いつまで続くのやら、みんな不安に思ってるよ……」


 ラジオ中継のために従軍していた西村が、騎兵隊員にインタビューしていた。騎兵隊員は心底うんざりしている様子で語る。攻城戦ということでずっと出番のない彼は、かなりいらついているようだ。ここ数日は大きな攻勢に出ることもできず、状況は皆同じでもある。


 見回りしていたシンはインタビューしているのを聞いて、自分の中でまた焦りの虫が騒ぎ出すのを必死に抑える。落ち着け。俺が焦っても仕方ない。


 なお二次元三兄弟のラジオに限らず、報道規制は一切行っていない。大本営発表を行えば同級生からの評判は間違いなく下がるし、心情的にもそんなことはしたくないので規制する気は一切ない。本国も心配させているのだろうということに思い当たり、シンはいっそう心を痛めた。



「頃合いですね……」


 旅の行商人になりすまして王国軍の様子を探っていたラファエルはつぶやく。攻城戦がうまくいっていないことで、兵士たちの間で先行き不安が広がり始めていた。いったいいつまでシルフィードで戦えばいいのか。これまでが楽な行軍だっただけに、余計気落ちしているようだ。


 王国軍はご丁寧に、ラジオで状況をグノーム本国にまで伝えていた。本国でも王族不信が広がっているだろう。好機だ。やつの帰る場所もなくなる。


 ラファエルは仕掛けることを決断する。この状況で自分が現れて神の言葉を伝えれば王族の権威は失墜し、軍の士気は崩壊するだろう。やつらを殺すだけなら騙し討ちで簡単にやれるが、それではラファエルの気が済まない。やつらはこの世の全ての絶望を味わうべきだ。


 そしてもう一つ、大きな要素がある。近くにミカエルの魔力を感じるのだ。ラファエル同様、ミカエルも王国軍の中に紛れ込んでいると見て間違いない。いざとなれば、ミカエルの助力も得られるだろう。


「全ての魔王に死の救済を……!」


 もはや負ける要素はない。王国軍から距離をとりながら、ラファエルはニヤリと笑った。



 真っ昼間に、全くの突然だった。当然太陽が沈んで月が出て、空は雲に覆われ辺りは真っ暗になる。天体が動いている以上、単に天候が悪くなったという話ではない。何者かが、とてつもなく強大な魔法を使ったのだ。


 皆が何事かと空を見上げた。雲を切り裂き一筋の光が降り注ぎ、翼を広げた天使が現れる。


「迷える子羊たちよ……。私は大天使ラファエル。神のお言葉を伝えに参りました……」


 シンは天使を見て驚く。中村マイケル先生──ミカエルではない。別の天使だ。葵が懸念していたとおり、天使は複数いたのだ。


「今すぐ魔王の血族を皆殺しにしなさい。彼らには、死の救済が必要です……。彼らの支配を受け入れてはいけない……」


 魔王の血族というのはシンと葵のことだろう。大掛かりな演出をうけて、王国軍に動揺が広がる。出兵を主張していた貴族たちまでひざまずいてしまう始末だった。やつらと戦うのも覚悟の上ではなかったのか。


 シンは指輪の魔法を使う。


「風の力を炎で覆う! 光よ、全てを照らせ!」


 シンが作り出した魔方陣からまばゆい光が放たれる。幻術の類を打ち破る魔法だ。たちまち月や雲はかき消され、元の晴天に戻った。本当に昼を夜にしたわけではなく、幻術でそう見せかけていただったのである。


「忌々しい魔王の力を操るとは……! 本当におぞましい! やはりあなた方には救済が必要のようだ!」


 王国軍本営のど真ん中に降りてきたラファエルは本気で怒っているという顔をする。


「勝手なこと言ってるんじゃねーよ! 葵、行こう!」


「……うん!」


 シンと葵は前に出る。シンの最終目標がこの世界から現世に帰ることである限り、天使とは相容れない。天使が出たなら、倒すのみだ。

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