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14 出会い

 間宮がカルル一世に初めて会ったのは、カストルポルック近郊の山岳地帯においてである。当時、天候不順の影響から山岳地帯では魔族の侵入が相次いでおり、平地と山岳地帯の境目であるカストルポルックの周囲にまで魔物が現れる始末だった。


 黄金の国からの転生者として強大な力を持っている間宮は全く気にしていなかったが、当地は大騒ぎになっていた。領主のレオン・テッセは軍を率いて必死に魔物を追い散らして回っていたが、焼け石に水である。山岳地帯の領主たちは防備を固めるだけで魔物を討伐しようとせず、むしろあの手この手で積極的に平野部へ誘導していたのだ。中央政府が頼りにならないため、やむを得ない措置だった。


 そこでカルル一世が自ら王国軍を率いて親征が行われることとなった。旅の途中だった間宮はその現場に出くわし、面白そうなので見物することにした。戦国時代の農民は山に登って弁当を食べながら合戦を見物したというが、そのノリである。間宮も一応剣くらいは持っていて、魔法で戦うこともできるので万が一襲われても問題ない。間宮は近くの小高い丘からシルフィード王国軍とオーガの群れが争う様を眺める。


 小型トロールという具合のオーガは臆病な性格で、普段は森の奥から出てこない。でっぷりと太った体型に小さな角という外見はどこかコミカルで強そうな感じは全くないが、人語が通じず人肉を喰らうれっきとした魔物である。人間とコミュニケーションのとれるエルフやワーウルフといった亜人とは全く違う。


 とはいえオーガはせいぜい人間と同程度の体格で魔法の類も火器も使えないし、闘争心が薄くて少し怪我すればすぐに逃げてしまう。食糧不足で山から出てきたとしても、本来は人間の敵になるような存在ではない。しかしシルフィード軍はオーガに苦戦していた。


「何、こいつら? 鈍くさいわね……。この世界の軍隊って、こんなものなの?」


 観戦しながら間宮は思わずぼやく。シルフィード軍の戦いぶりは酷いものだった。散発的に槍隊がオーガに挑みかかっては、何の変哲もない棍棒を振り回されて慌てて逃げる。逃げる際に槍を捨ててしまう兵士も多数だ。


 鉄砲隊も援護しようとはするが、地形が悪すぎた。まばらに木が茂る林では充分に射線が確保できない。胸の辺りまで伸びている下草も厄介だった。オーガが伏せれば、姿が見えなくなるのだ。


 鉄砲はほぼ役に立たず、不利を承知で肉弾戦を挑むしかない。しかし木や草が邪魔で槍も充分に振るえず、槍衾を作ることもできない。結果、オーガに慣れない個と個の勝負を挑むしかなく、腰が引けた情けない様子を兵士たちは見せているのだった。


 何もない平野部での戦闘ならシルフィード軍が圧勝しているだろう。遮蔽物がなければろくに火器も防具もないオーガたちは鉄砲の火力で一方的に虐殺されて終わりだ。こんな山の中で戦っていること自体が失敗なのである。ヨハン家の権威を維持するため、無理して山狩りをしているのだろう。


 事態を打破するには、貴族の指揮官が戦闘用の魔法を使うしかない。日用のためにしか魔法を使わない兵士たちでは無理だ。ところが本営の方を見てみれば、貴族と思しき指揮官たちはまごまごしているばかりで一向に前線へ出ようとしない。間宮はあきれるばかりだ。


「何こいつら……。キン○マついてないんじゃないの?」


 ヨハン家に忠実な臣下は前王とともに討ち死にし、優秀な臣下は前王の死後に各地でシルフィード王を名乗って独立していた。ヨハン家の人材は払底しているというのが現状である。戴いているのが幼君でこれでは、ヨハン家は終わったと思われるのも当然だ。


 もう観るのやめようか。間宮は腰を上げかけるが、次の瞬間には驚きのあまり固まっていた。本営の中心に座していた少年──カルル一世が自ら前線へと向かい始めたのだ。仮にも王を名乗っているのでそれなりに魔法を使えるのだろうが、あまりにも無謀だ。


 周囲の家臣は慌てて止めようとするが、カルル一世は振り切って駆け出す。カルル一世は兵士たちとオーガが戦っている現場に辿り着き、魔法でかまいたちを作り出してぶつけた。たちまち数体のオーガが吹っ飛ばされる。


 だが、そこまでだった。強い魔法はそれだけ魔力を消費する。カルル一世に攻撃魔法を連発できるだけの魔力はない。腹を空かせて興奮しているオーガたちは魔法による攻撃を受けたにもかかわらず、逃走せずにカルル一世のところへ殺到する。カルル一世はオーガの棍棒を避けようとして転げる。


 もう見ていられない。間宮は丘から飛び降りてカルル一世のところまで走り、オーガを炎の魔法を放って蹴散らす。それを見た兵士たちはどうにか戦意を取り戻し、剣を抜いてオーガと戦い始める。オーガたちは押し返され、とりあえずは安全になった。間宮はカルル一世に手を貸し、立たせる。


「何無茶してんのよ! あんたみたいな子どもが、戦えるわけないじゃない!」


 間宮はカルル一世を強く叱責するが、カルル一世は強い視線を返す。


「それでも余はやらなければならないのだ……! 余の力不足で、こうなっているのだから……! そうでないと、身罷られた父上に、顔向けできない……!」


 涙目になりながら舌足らずな声でカルル一世は訴える。間宮は打ちのめされた気分になる。こんな子どものくせに、必死に国王としての責を背負おうとしているのだ。


「は、離れろ! 陛下に何をするのだ!」


 押っ取り刀で家臣たちが駆けつける。怒りのあまり間宮は彼らを怒鳴りつける。


「あんたらが情けないから、こういうことになってるのよ! ちょっとはまともに働きなさいよ!」


「あ、いや、そう言われても……」


 家臣たちは間宮の剣幕にうろたえ、黙ってしまう。本当に無能なやつらだ。イライラする。


「私が力を貸してあげる。行くわよ」


 間宮はカルル一世を守るように前に出て、剣を抜く。傭兵として戦国乱世に殴り込みをかけるのも、悪くはない。この後、間宮は指揮官としても才能を発揮し、崩壊寸前だったヨハン家は少し勢いを取り戻すことになる。

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