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11 カストルポルック

 翌日、予定通りグノーム王国軍はカストルポルックへの進軍を開始する。王国軍は二日掛けてカストルポルックへ到着し、城壁で囲まれたこの町を包囲した。


 山間部と平野部の境にある丘陵地帯の都市、カストルポルックさえ攻略してしまえばグレート=ゾディアックまで平野が続き、遮るものは何もない。いわばカストルポルックは首都を守る最後の砦だ。それだけに防備は堅い。深く広い空堀と厚く高い城壁の内側には代々シルフィードの宰相を歴任しているテッセ家の跡継ぎ、レオンの率いる軍勢五千が詰めてグノーム王国軍を迎え撃たんとしていた。


 苦戦が予想される中、包囲を受けたカストルポルックは戦う前から白旗を掲げ、門を開いた。いよいよ出番かと気を引き締めていたシンは肩すかしを食らった気分である。


 グノーム王国軍は都市の内部に入城する。穀物庫の食料は手つかずで残っていて、兵糧の目処はついた。葵、麻衣、シンらは政庁に案内され、臨時の王座に座らされる。


「麻衣様、これを」


 鎧を着込んだ若者──レオンは麻衣に風の指輪を差し出す。場内はざわめいた。


「なるほど、あなたが持っていたのですか……」


「ええ、父にも知らせていなかったことです」


 羽流乃が納得がいったという表情を浮かべる。レオンは幼少の頃、謀殺された王子の遊び相手を務めていた。まだ子どもだったレオンが王宮より風の指輪を持ち出し、今の今まで保管していたのである。


「私はロタール様を殺して王座を奪ったヨハン家がどうしても許せません……! どうか王都のヨハン家を倒し、ロタール様の敵を討ってください……! お願いします!」


 レオンは目に涙を浮かべながら麻衣に平伏する。麻衣は座り心地悪そうにそわそわしていた。ここで葵が静かに言う。


「指輪が手に入ったから、とりあえず目的は達成だね。いったんここで兵を引くっていう手もあるけど……」


 グレート=ゾディアックは川と海に囲まれ、さらに巨大な城壁を備えた難攻不落の要塞都市だ。レオンたちシルフィード貴族に対しては半ば裏切りだが、無用な犠牲を避けるためにここで遠征を終えるというのも現実的な選択である。カストルポルックを拠点にまだ麻衣に服していないシルフィード貴族たちと交渉して寝返らせ、グレート=ゾディアックを孤立させてから改めて遠征軍を送り込んで攻城戦を行う。犠牲は最も減らせるだろう。


 しかしシンは首を振った。


「いや、ここまで来たんだ。最後までやった方がいいんじゃないか?」


 今のところ、ミカエルの介入はないし戦いらしい戦いもない。このままいけば簡単にグレート=ゾディアックを落とせるのではないか。


「そうですわ! 我々はまだ手柄を立てておりません!」


 羽流乃をはじめとした貴族たちは口々に賛同する。麻衣も言った。


「ウチもシンちゃんの言うとおりやと思う。今、勢いに乗ってるうちに攻めるべきや!」


「いよいよ麻衣様が戴冠される日が来るのですな!」


 シルフィード貴族がはしゃぎ、グノーム貴族も上機嫌で言った。


「麻衣様が女王となればシン殿はグノームとシルフィード、両国の女王の婚約者ということになりますな! そうなるとシン殿にも即位してもらってはどうですか! グノーム=シルフィード二重帝国の皇帝として!」


「おお、それは名案ですぞ!」


 シルフィード貴族も賛同し、場は大いに盛り上がる。グノーム=シルフィード二重帝国皇帝。なんだかよくわからないが、非常にかっこいい。シンも言われて悪い気はしなかった。


 盛り上がる出席者を見て葵は小さく嘆息する。全てが順調すぎるくらいに予定通りだ。今さら止まることなどありえない。葵は告げる。


「兵士たちも疲れているだろうから、この町で一日は休息をとろう。気を引き締めてよ?」




 三日後、グノーム王国軍はグレート=ゾディアックに到着していた。


「あれがグレート=ゾディアックか……」


 遠くに見える長大な城壁を見て、シンは武者震いする。カストルポルックの城壁も結構すごいと思ったが、グレート=ゾディアックの城壁はそれ以上に高く分厚い。その上弱点となる城門の近くには天守と見間違わんばかりの高い櫓まで配されていた。


 また城壁の前を川が流れており、天然の堀となっている。川が流れているのは北側と東側だけだが、西にも広い堀を掘って水を引き込んでおり、南側は海で蟻一匹這い入る隙がない。特に北側、東側は川の支流がいくつも流れる湿地帯となっていて、大軍が陣を張るのも難しいという地形だ。


 ではどこから攻めるかと考えると、カストルポルックから続く街道は西側を通っていて、こちらが唯一大規模な攻撃が可能な面となる。人工の堀は東側、北側を流れる川よりは狭く、西側は比較的攻めやすそうだ。


 無論敵側もこの点は認識していて、街道を遮るように城門の前に即席の砦を築いていた。二重の空堀を掘って土塁を積み上げ、上部には馬防柵。内部には多分数百人程度の兵士が詰めている。


 砦を見てわかった。今まで通過した町とは違う。降伏する気なんかない。いよいよ、戦いになる。


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