8 旅の夜
夜、王族専用の天幕を張ってシン、葵、麻衣は同じベッドで寝る。王宮においては麻衣は別の部屋だったが、シルフィード領内ではそうもいかない。シンの側室扱いではなく葵と同格の王になる存在ということで、同じ天幕となった(シンは全員別の天幕にしては、と提案したが却下された)。
ちなみにここまでの旅程は、魔法のじゅうたんですっ飛ばしてきた。よって、シンたちが野営するのは今日が初めてである。
いつものようにベッドに寝転がった後、葵に背を向けたら麻衣と目が合った。
「……」
「……」
お互いに一瞬沈黙した後、麻衣はサッとシンから目をそらし、顔を赤らめる。慌ててシンは逆側を向く。布団に半分顔を埋めた葵がニヤニヤしていた。
「君は相変わらずシャイだねえ。麻衣とずっと、こうしたかったんじゃなかったのかい?」
「そ、そ、そんなわけないだろ!?」
シンの言葉を麻衣は本気にする。
「そ、そうなんか……? シンちゃんは、ウチのことなんかいらへんのか……?」
「い、いや、そういう意味じゃなくてだな……」
しどろもどもになるシンを面白がってか、葵は大嘘をつく。
「君とシンは前世で相思相愛だったんだよ」
「おい! 葵!」
たまりかねたシンは抗議するが、葵はどこ吹く風だ。
「嘘は言ってないだろう? 友達以上恋人未満ってやつ。ま、君の場合それが複数いたんだけどね」
「……」
そこは本当のことなのでシンは何も言えない。葵とシンのやりとりも耳に入っていないようで、隣で麻衣はしょんぼりする。
「そっか……。ウチには前世の記憶がないから……。ごめんな、シンちゃん」
「い、いや、麻衣が気にすることじゃない。仕方ないことだ」
シンはフォローするが、葵は茶々を入れる。
「本当に仕方がないのかな? この世界に転生するとき、罪人は記憶を浄化されるんだよね? 何か悪いことしちゃってるんじゃないの?」
「おまえなぁ、いい加減にしろよ」
シンは説教モードに入りかけるが、葵は追求をやめない。
「君の目から見て、麻衣は100%全てにおいて潔白な女の子だったのかい?」
「いや、それは……」
シンは口籠もる。麻衣は参謀担当として、前世でシンが暴れるのを手伝ってきた経歴がある。シンは真面目に正義のためにやってきたつもりだったが、麻衣はどうだっただろう。わりと遊び半分だったのではないか。
「ま、まぁ、俺も悪かったし……」
葵はシンの答えを聞いてニンマリ目を細めた。
「ほら? そうだろ?」
「そっか……。きっとウチは前世で悪いことばかりしてたから、人間に生まれることができなかったんやな……」
麻衣は落ち込む。シンは励まそうとする。
「そ、そんなことはない! 前世の麻衣だって友達思いのいい子だったよ」
シンの言葉に麻衣は目を輝かせる。
「じゃあシンちゃんは、前世のウチのことが好きやったんか?」
「そ、それは……」
どう答えるべきだろう? 変に否定するとまた麻衣が落ち込みそうだし、かといって好きだと断言するのも……。
シンが迷っていると、葵が後ろから抱きついてきた。
「好きならこうできるよね、シン?」
「おいバカ、やめろ……!」
葵はシンの首筋に息を吹きかけ、舌を這わせてくる。葵の甘い吐息と絶妙なくすぐったさに、シンは身悶えた。
「せ、せやな。好きなら、何でもできる……!」
麻衣も何を勘違いしたのか、前から抱きついてシンの胸に顔を埋める。葵より一回り小さい麻衣は子どものようにかわいらしくて、娘に抱きつかれるパパの気分だ。それでいて発情したメスのように潤んだ目でシンを見上げるのだからたまらない。
「い、言っておくけど何もしないからな!」
「け、結婚するまで手は出さんってことやな! さすが真面目なシンちゃんや!」
麻衣はさらにぎゅっと抱きつく。バクバクと麻衣の心臓が鼓動を早めているのがわかって、シンは目を白黒させる。結局シンは葵と麻衣にサンドイッチにされて朝まで眠れずに過ごした。




