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プロローグ

 悲報が届き始めたのは午前十時過ぎのことだった。まずテレビに「○○航空の旅客機、レーダーから機影消える」とテロップが流れた。情報は次々と追加される。「○○航空2783便那覇行き」。「四国上空で消息不明」。「修学旅行生約150名が搭乗か」。「四国の山中で機体の残骸を発見」。そして、「乗客の遺体の一部を発見」。


 全てのテレビ局が同じニュースを流す。「機体トラブルで○○山中腹に激突か。乗員乗客の生存は絶望的」。



 気持ち悪い。おむつが濡れていて、気持ち悪い。ぼんやりと、働かない頭の隅で、冬那はそう感じていた。


 体が弱くて中一の半ばまでずっと入院していた冬那だが、ベッドから動けないなんていう経験はこれまでなかった。どんなにしんどくても、病室内に設置されたトイレに行くくらいはできたのだ。


 今は違う。冬那は両足を複雑骨折した上に骨盤まで割れて、背骨や首にも大きなダメージが残っているという状態だ。このまま、一生ベッドから起き上がれるかわからない。


 というかそもそも、ちゃんと意識が戻るかもわからないというのが現状だった。冬那は冬那の視点で、昏睡と半覚醒を繰り返している。体を動かすどころか声を出すこともできない冬那は、閉じ込め症候群に近い状態だ。


 たまに冬那が反応しているという理由でつけられているテレビだけは、冬那の貴重な情報源だった。冬那は知っている。羽流乃も、麻衣も死んでしまったということを。


(どうして二人が死んで、私は生き残ってるんでしょう……)


 冬那はそう思わずにいられない。どうせなら、病気の後遺症で早死にするのがわかっていた冬那が死ねばよかった。さらにいえば、冬那はもう一人の生存者にも同じように思ってしまう。


(どうしてみんなじゃ……神代先輩じゃなくて、あの人が……)


 今回の事故で、冬那の他に生存者はただ一人。彼女は無傷で古びた人形を抱いて飛行機の残骸に埋もれ、白雪姫のように眠っていた。病院に収容された今も、彼女──歌澄葵は意識を取り戻すことなく眠り続けている。


 シンが、羽流乃が麻衣が助かるなら何でもするのに。しかし、覆水盆に返らず。シンも羽流乃も麻衣も生き返ることなんて絶対にない。そして、冬那がベッドから起き上がれるようになることもない。


(私は、ずっとこのままなんでしょうか……?)


 冬那は暗闇に向かって問いかける。返事なんて、誰からもない。ただただ果てのない闇が広がるばかり。

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