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55 背中

 シンはトロールに襲われている村に急行した。


 トロールたちは家畜を食べたり、穀倉を荒らしたりと好き放題をやっていた。幸い住民の避難は完了しているようだが、巨大なトロールに展開している国王軍は為す術がない。剣や槍が通じないのである。マスケット銃でもトロールには掠り傷だ。兵士たちは数人掛かりでトロールの堅い皮膚を突破できるまで延々攻撃し続けるしかない。


 群れから離れ、略奪に興じているトロールならそれで倒せる。しかし瑞希の指示だろう、壁役、投石役と分担して集団行動しているトロールもいて、国王軍は苦戦を強いられていた。狭山も王国軍の中で必死に銃を撃っていたが、時間稼ぎくらいにしかなっていない。


「火の力に地の支配! 雷よ、焼き尽くせ!」


 火の指輪から雷が放たれ、周囲のトロールたちはバタバタと倒れた。しかし魂を砕くまでには至らず、すぐに元通りトロールとして転生する。昨日の戦闘でかなり数を減らしているとはいえ、トロールはまだ五十体以上いる。多少の攻撃は焼け石に水だった。


 やはり、トップを潰すしかない。ユニコーンに乗ったままシンはトロールの群れを突破して、敵陣の中央へ向かう。少し広くなったところで、瑞希と羽流乃が戦っていた。


「どうしたの? その程度? 人間って壊れやすくて不便ね!」


「クッ……! まだ負けませんわ!」


 瑞希にほとんど傷がないのに対し、羽流乃は火傷や切り傷だらけである。瑞季は数体のトロールに羽流乃を囲ませ、集中攻撃していた。


 瑞希たちはまだシンに気付いていない。シンは瑞希の背後から雷の呪文を放つ。


「アハハハッ! 気付いていないと思った?」


 瑞希は即座に振り返り、炎の竜巻を放つ。炎の竜巻はシンの雷をかき消して、シンを飲み込もうとする。シンはユニコーンから飛び降りて、すんでのところで竜巻から逃れた。


 ユニコーンを消されたことで、全身を焼かれるような痛みがシンを襲う。シンは苦痛を無視して立ち上がり、瑞希に飛びかかる。


「地の力に火の支配! 鉄よ! 俺に剣を!」


 シンのテンションは過去最高潮に盛り上がっている。今なら魔法を複数使うこともできそうだ。シンは剣を振りかぶり、さらに魔法を重ねる。


「火の指輪! 燃え上がれ!」


 火の指輪から炎が吐き出され、剣を覆う。魔法の炎を帯びたこの剣なら、瑞希にも通じるはずだ。地の指輪も使って体を羽根のように軽くし、シンは瑞希に挑む。


 右手にはめた、火の指輪と水の指輪。左手薬指の地の指輪。これがシンの全戦力だ。これらを全て活用しなければ、シンに勝ち目はない。


「私に同じ事ができないと思った!?」


 瑞希は地面から巨大な斧を引きずり出し、シンと同じように炎で覆う。シンは重力制御を活用して瑞希と一歩も引かずに武器を打ち合う。


「羽流乃! ここは俺に任せてくれ!」


「くっ……ふざけないでください……! 私はこのトロールと一緒にあなたも……!」


 立っているのもやっとという有様の羽流乃は、瑞希と戦うシンに刀を向ける。シンは必死の懇願を続ける。


「頼む……! 俺の背中を任せられるのは羽流乃しかいないんだ!」


 前世では、そうだった。ずきりとシンの胸が痛む。飛行機の中で、シンは羽流乃に言われていたのだ。「無事に帰ったら、女として守ってほしい」と。あのときのシンの力ではどうしようもなかったのだが、シンは羽流乃を守れなかった。


 今、シンが守れなかった羽流乃は記憶を失ってこの世界にいる。そしてシンは、また羽流乃の力に頼らざるをえない。


「……ッ! 今回だけ、ですわよ!」


 前世でそうだったように、羽流乃はシンの背中に立って刀を振るい始める。昔のことを思い出したわけではないだろう。ただ羽流乃は状況的にそうせざるをえないと判断しただけだ。それでも、かつてのように羽流乃が背中を守っていてくれるのはありがたい。万の味方を得た気分だ。


「不思議ですわ……! シン君が後ろにいると、体が軽くなる……!」


 羽流乃は後ろを気にせず戦えるようになったため、本来の力を発揮できるようになっていた。他のトロールたちはシンに近づけなくなり、王国軍も羽流乃の動きに連携してトロールを追い散らし始める。シンの周囲からトロールは一掃された。


「こっちですわ! 私の首がほしいなら、掛かってきなさい!」


 羽流乃はさらにトロールを追撃してシンから離れるとともにトロールたちの目を引きつける囮の役目も果たす。シンと瑞季の周囲に邪魔な他のトロール一匹もいなくなる。事態はシンと瑞季の完全に一対一の状況に持ち込まれた。

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