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50 死

 炎の竜巻を受け、シンは思い切り飛ばされる。熱と暴風はシンの体を引き裂き、焼いた。シンは地面を転がり、血反吐を吐く。


 激痛に身悶えながらも、シンは頭の中でどこか冷静に考えていた。直撃を受けたなら、こんな程度では済んでいない。確実に自分は死んでいるはずだ。なぜ、俺は生き残っている。


 苦しみに耐えながら立ち上がり、シンは理由を知った。瑞希の前に斑夫が仁王立ちして、拳を瑞希の腹に埋めている。斑夫は炎の竜巻をまともに喰らい、正視に耐えない状態になっていた。


 おそらく、斑夫もシンが接近したのをチャンスだと思ったのだ。だから瑞希を攻撃しようと前に出て、炎の竜巻の直撃を受けた。結果、シンは斑夫という盾に隠れて助かったというわけである。


 斑夫はその場に崩れ落ちる。瑞希は斑夫に抉られた腹部が重傷なのか、後退して脇腹を押さえた。シンは斑夫の元に駆け寄る。


「おい! しっかりしろ!」


 シンは斑夫を抱え起こす。斑夫は虫の息で、全身を痙攣させていた。斑夫は最後の力を振り絞り、シンに話しかける。


「べつに……おまえを助けたわけじゃないんだぜ」


「んなことはわかってるよ! 大丈夫……なんだよな!? 転生するだけなんだよな……!?」


 シンは混乱しつつも斑夫に尋ねた。この世界には死がないはずだ。アスモデウスの力で転生することなく消されたトロールを目の当たりにしていながら、シンは楽観的に考えようとする。


 息も絶え絶えといった様子で、斑夫は言う。


「無理だな……。一撃で魂がぐちゃぐちゃだ。ゴブリンにも、人間にも転生できない……」


 指輪を取り込んでいた瑞希の魔法は、強い魔力を持つはずの斑夫の魂を一撃で粉砕してしまったのだ。シンは絶句する。


「ロビンソンさん、俺が死んだ後も協約は守ってくれよ」


 斑夫の呼びかけに、ロビンソンは「もちろんだ」と答えた。


「最後に……シン。俺はおまえのことが嫌いじゃなかったぜ。おまえの正体が何であろうが、おまえはおまえだろ? 迷うことなんかねぇんだ。余計なお世話かもしれないが、偽物とか、偽善とか、気にするな。前の戦いは楽しかったぜ。ロビンソンが約束を守るか、見張ってくれ。あとは……頼む」


「斑夫! 斑夫~!」


 斑夫はこときれた。その瞬間に斑夫の体は無数の蝶となってシンの手からこぼれていく。シンの絶叫がむなしく響いた。斑夫は死んだ。もう二度と甦らない。


 シンは涙を拭きながら立ち上がる。


「山名……! 斑夫は関係なかっただろ! おまえ、どうして……!」


 瑞希は斑夫にやられた傷を押さえながら、シンを嘲笑う。


「関係ない? 下等なゴブリンの分際で私と葵の邪魔をしたんだから、当然の報いだわ!」


「ふざけるなよ、おまえは、俺が必ず……!」


 シンは指輪の魔法を使おうとするが、体が言うことを聞かない。いい加減、限界が来ているのだ。シンは魔法陣を展開したまま膝をつく。


 対する瑞希も、シンが思っている以上に深傷のようだった。どうやら斑夫の拳だけでなく、シンの魔法も命中していたらしい。立っているのがやっとという様子だ。


「みんな、引き上げるよ!」


 瑞希は生き残ったトロールを連れて森の中に戻ってゆく。緊張の糸が切れたシンは立っていることができず、その場に倒れる。意識は残っていたが、指一本動かすのも億劫だ。これ以上戦うことはできそうにない。



「シン!」


 葵は慌ててシンを抱き起こす。気付けばシンたちは、王国軍に囲まれていた。そんな風に遠巻きにしてないで、シンたちを助けてくれれば斑夫は死ななかったのに。


 王国軍の中から羽流乃が前に出てくる。羽流乃は険しい表情で葵とシンを見下ろす。葵は羽流乃に訴える。


「シンがまずい! すぐに衛生兵を!」


 羽流乃は葵に命令されたにもかかわらず動こうとせず、じっと葵を見るばかりだ。たまらず葵は叫ぶ。


「羽流乃、聞いてるの!?」


 羽流乃は重い口を開く。


「……陛下。我々は、全て見ておりました」


「……!」


 葵は、その一言で全てを察した。羽流乃は刀を抜き、葵に振り降ろす。葵はシンを抱えて後ろに飛び退き、羽流乃の一撃を避ける。


 羽流乃は苦しげに言った。


「私は陛下がアスモデウスの生まれ変わりであるなら……その首を頂戴せねばなりません」


「僕は……!」


 話しても無駄だった。葵はシンを抱え、箒に飛び乗る。


「逃がしませんわ!」


 羽流乃が剣を腰だめに構えて突進してくるが、葵は間一髪で離脱する。王国軍は容赦なくマスケット銃を撃ち込んでくるが、空を飛ぶ葵には当たらない。


 王国軍の中にも、葵と同じレベルで空を飛べる魔法使いはいない。葵は森の中に逃げ込み、王国軍の追撃を振り切った。

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