47 共闘
シンは三つの指輪を一気にはめる。無数の声がシンの頭を埋め尽くすが、苦痛を無視してシンは指輪の力を発動する。
「地の力に火の支配! 鉄よ! 俺に剣を!」
シンの右方に魔法陣が現れ、シンは魔法陣の中から一振りの剣を抜く。魔王の力で鍛えたトゥハンドソードだ。
「行くぞ!」
「おう!」
斑夫の掛け声に合わせて、シンは瑞希に斬りかかる。
「甘いわ!」
瑞希の周囲から火柱が上がる。斑夫はバックステップでかわし、シンは地の力でジャンプして上から瑞希に剣を見舞う。剣は瑞希の肩口にヒットするが、固い岩を叩いたかのような感触だ。刃が通らない。
すかさず瑞希は拳で反撃してくる。シンは後ろに引いて避け、入れ替わりに斑夫が殴りかかる。体格に勝る斑夫は瑞希の頬に打ち下ろしの右を決める。
瑞希は微動だにしなかった。瑞希は斑夫の腕を無造作に掴み、力を入れる。斑夫の骨がみしみしと軋み、斑夫は苦痛に膝をつく。
「大地のケモノに水の手綱! 命を司る使い魔よ! 力を貸せ!」
いったん引いていたシンはユニコーンを召還し、瑞希に突撃させた。ユニコーンも瑞希を倒すことはできず、そびえ立つ壁に阻まれたかのように瑞希の体に乗り上げる。しかし斑夫の腕を握っていた手はゆるみ、斑夫は脱出に成功する。
「物理攻撃は全く効果がないようだな!」
斑夫は叫び、シンも応える。
「だったら魔法を使うまでだ!」
葵が火の指輪を手に入れてくれたおかげで、シンも魔法で攻撃できる。シンはいったん剣とユニコーンを消し、魔法を発動させる。火の指輪と地の指輪が輝いた。
「火の力に地の支配! 雷よ、焼き尽くせ!」
火の指輪から雷撃が迸り、瑞希を貫く。さすがの瑞希もこれは効いたらしく、苦悶の表情を見せる。チャンスを逃さず、斑夫も前に出た。
「地獄突きィ!」
斑夫は帯電した貫手を瑞希の腹に叩きつける。瑞希は苦痛に顔を歪めるが、倒れるまでは至らない。
「調子に、乗るなァ!」
瑞希の周囲に風が巻き起こり、斑夫は空高く飛ばされる。反射的にシンは前面に氷の壁を張るが、瑞希は炎の竜巻を放ち、シンは後方に飛ばされる。
葵は土の壁を作り、素早くシンを壁の内側に回収する。斑夫も葵が魔法で重力を操作し、土壁の内側に軟着陸させた。
「シン、大丈夫かい?」
「……なんとかな」
炎の竜巻は氷の防壁がかなり勢いを弱めてくれたため、シンは軽い打撲と火傷で済んだ。しかしシンの魔法でも倒せないとなると、いよいよ打つ手がない。
葵は土壁から顔を出し、瑞希を説得しようとする。
「瑞希、もうやめてくれ! どうしてそこまでする必要があるんだ!? 僕のことは好きにしていいから!」
葵の悲壮な訴えに、瑞希が耳を貸すことはなかった。
「嫌がる葵を好きにしたって仕方ないわ。私はあなたの心がほしい……。だから邪魔者は殺さなきゃならないの。その男は、私があなたをわかってあげられなかった象徴だから」
瑞希は再び炎の竜巻を作り、シンに向けて発射する。シンたちは蜘蛛の子を散らすように土壁から退避し、事なきを得る。
「埒が明かないわね……。みんな、そろそろいいわよ!」
瑞希の呼びかけに応じ、跪いていたトロールたちが体を起こす。トロールたちはフゴフゴと息を吐きながら、シンたちに襲いかかってくる。
「クソッ! 葵、何か手はないか!」
シンと斑夫は二人でトロールたちの猛攻を防ぐが、長くは保たない。救援に来るはずの王国軍の到着もまだだ。葵は焦りの表情を浮かべ、命令する。
「このまま時間稼ぎを頼むよ! 必ず突破口はある!」
葵は懐から卵を取り出し、そっと口付ける。卵が割れて葵の使い魔である青い鳥が出てくる。青い鳥は混戦の中でトロールたちをかいくぐり、瑞希に近づく。
斑夫は葵の意図に気付いたのだろう、瑞希の前に飛び出し雷を伴った貫手で攻撃する。
「地獄突きィ!」
上手い具合に瑞希の注意は青い鳥から逸らされ、瑞希は斑夫に炎の竜巻をぶつける。斑夫は貫手を当てられず吹き飛ぶが、青い鳥は瑞希の手から地の指輪を掠め取った。青い鳥は主人の下へ戻ることなく、シンに指輪を渡す。
「シン!」
「わかってる!」
葵の言葉に応じ、シンは二つめの地の指輪をはめる。これで、魔王アスモデウスの力を使えるはずだ。
シンの両手に装着された地の指輪から魔法陣が広がり、シンの体が光に包まれる。
「世界を作るは地の力! 背負いし罪は命を育む色欲! 甦れ、魔王アスモデウス!」
シンを覆う光はいっそう大きくなり、周囲の者が目を開けていられないほどになる。無謀にもシンに飛びかかったトロールは光に触れた瞬間、転生することさえできず灰になった。巨大な魔力が指輪から解き放たれ、シンの体を変質させようとしているのだ。両陣営は固唾を飲んでシンを見守る。




