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37 先生

 シンは噂のことに目を瞑って買い物をすることにした。幸い、商店街の人々は一応お客様ということでシンを見ても逃げたりしなかった。断じて逃げたら喰われそうなので逃げなかったわけではない。

 シンは見掛けた元クラスメイトに挨拶しつつ、商店街を歩く。シンは彼らと話をしてみる。




「見てくれよ、シン! 家を買ったんだ! それから……結婚するかもしれない!」

「ギルドで俺が提案して、今度西の方に開拓団を送ることになったよ。もちろん責任者は俺だ!」

「ほんと、この世界は天国みたいだよ! 俺がみちると結婚できるなんて!」

「私もそう思う! ここは天国だわ! 先生、大好き!」




 教え子に手を出した教師が若干一名いるのは置いておいて、みんな順調そうで何よりだ。というか教師にも転生した者がいたのか。早くもこの世界の中心として活躍を始めている者も多かった。


 やりたいことを全力でやって、きちんと結果を出している。素晴らしいことだ。行き場を見つけられず彷徨っていたシンを罵った者は、気まずそうに店の奥に引っ込んでいたが、今はいいだろう。きっと時間が解決してくれる。


 商店街を挨拶回りするシンを、麻衣は茶化してくる。


「シンちゃん、やっぱり前世の愛人捜してるんやろ? 転生者ばっかりに会って……」


「いや、俺、恋人とかいなかったし」


 羽流乃、麻衣、冬那と仲が良くてハーレム野郎呼ばわりされていたが、もはや遠い過去の話だ。前世の記憶がない今の羽流乃、麻衣を見ていると悲しくなるのであまり思い出したくない。


 ただ、冬那の行方だけは気になっている。もう転生の祭壇からこちらに来るような気配はないとのことだが、冬那の所在は依然掴めていない。人間以外に転生したか、転生することができずに消えてしまったか、そもそも現世で死ななかったか。まだ現世で生きているのだと思いたい。


「またまた。三人くらい囲って喘がせてたんやろ?」


 麻衣は品のない方向に話を展開するが、いきなり「ヒエッ……!」と悲鳴を上げてシンの背中に隠れた。何事かとシンは身構えるが、目の前にいたのは既知の人物であった。


「中村先生……! こちらに来ていたんですか!」


 シンと一緒に転生してきた中に中年以上の大人はいなかったので、大人の転生者はいないものだと思っていたが、そうではないらしい。魂が強い者は普通に転生しているとのことである。かつての担任教師の姿を見て、シンは少し安堵した。


「ええ。どうにか無事に。神代君も元気そうで何よりです」


 中村マイケル先生は怯える麻衣を気にすることなく、いつものように青白い顔に柔和な笑みを作ってシンに応える。シンは先生の全身をまじまじと眺めながら尋ねた。


「先生はこっちでは何やってるんですか……?」


「神父ですよ。神の教えを伝道するために、旅をしているのです。王都にはしばらくぶりに戻ってきました」


 中村マイケル先生は黒い礼服を着て十字架を胸からぶら下げていた。元々海外出身だった先生にはよく似合った格好である。


 先生が敬虔な十字教徒であることは知っていたが、転生して神父になったというのは驚きだった。RPGにおける「僧侶」のように、パーティーの回復役というわけでもあるまい。葵や羽流乃たちのように強力な転生者なら、世の中を動かせるようなことを他に何でもできるだろう。何故神父なのか。


 シンの顔から疑問を察したのか、先生は答えてくれた。


「教室でそうしていたのと同じように、私は迷える子羊を救済しているだけですよ。まだ見ぬ子羊を救済するために私は旅をしているのです。王都にも子羊は大勢いますので、定期的に戻っているというわけです」


「なるほど……」


 いろいろな生き方があるものだなあ、とシンは感心する。ちなみに麻衣は何故かシンの背中に隠れて震え続けていた。下品な話をしていたので先生に怒られるとでも思ったのだろうか。よくわからない。


「それでは失礼いたします。私を待っているも酔える子羊がいるもので……」


 そう言って中村マイケル先生は去っていった。先生の姿が見えなくなった後、羽流乃は訊いてくる。


「彼は前世の知り合いなのですか?」


「ああ、そうだよ」


 今の羽流乃には全く前世の記憶がないことを再認識し、少し悲しくなる。担任教師として、中村マイケル先生には何かと世話になっていたのだ。


「それでは彼を説得してくれませんか? 彼も私と同じ一族らしいのですが、頑なに一族入りを拒み、教父を続けているのです」


「それは無理だろ。先生、何か生き生きしているし」


 中村マイケル先生は何故か教室でシンたちを教えているときより元気になっていた。……問題児たちから解放されて、重荷を下ろしたような気分なのかもしれない。瑞希の自殺事件に担任としてかなり悩んでいたようなのだ。そっとしておきたいとシンは思った。

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