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エピローグ

 『マモンの使徒』は壊滅した。ほとんどの構成員は一連の戦闘で死亡、再起不能に追い込まれ、数少ない生き残りは身柄を拘束してアズールに追放した。潜伏している者もいるかもしれないが、もう組織としての再起は不可能だろう。


 今回の事件は当然ながら帝国全土で大々的に報道されていた。おおむね、反逆者が騒乱を起こして鎮圧されたという受け止められ方だが、シンの同級生たちには少なからず動揺が走っている。


 それでも、シンたちは立ち止まるわけにはいかない。皇帝として、女王として、それぞれの責任を果たしていくのみである。


「大分片付いてきたな……」


 郊外の丘からムスカ市街を見下ろし、シンは安堵の息をつく。戦いが終わってからまだ一週間だが、復興は徐々に進みつつあった。今も嫁たちと一緒に視察の途中である。損壊、焼損した建物は撤去され、新たに建て替えられている。


「よかったわ。ほぼウチの仕業やからちょっと悪いと思ってたんや」


「転生者の皆さんががんばってくれているおかげですね」


 麻衣と冬那も喜んでいる。ハイペースで作業が進んでいるのは、毎日出現する転生者をこの地に送り込むようにしたからだ。行き場のない彼らは自分の居場所を作ろうと、毎日必死に働いている。『マモンの使徒』はムスカが転生者に乗っ取られるなどと主張していたが、皮肉なことに自分たちが暴れたせいで、その状況を招いてしまっていた。


 実際問題、人を投入しないとどうにもならないのだ。建物は時間を掛ければ修繕できるかもしれないが、地形はいかんともしがたい。


「港ができればこの地はもっと発展しますわね」


 海際の方に視線をやりながら、羽流乃はつぶやく。ベルゼバブの『生贄の嵐』は、ムスカの海岸を完膚なきまでに破壊していた。かつての港は丸ごと流され、周辺の崖地は崩れて人が侵入できる岩場になっている。うまく整地すれば、かなり大きな港にすることができそうだ。


「……これできっと、全員を救うことができます」


「ですわね。ムスカだけでも、かなりの人数を収容できるでしょう」


 冬那の言葉に、羽流乃もうなずいた。海際の崖地が崩れたため、連鎖的に背後の山も崩壊しており、平坦とはいえないが丘として整備できそうな感じになっている。ムスカは大都市に生まれ変わるだろう。


「これくらいでは満足できねーな。転生者はもっともっと来るだろ? だから次は、アズールのさらに奥の開拓だ」


 ムスカを整備できれば海路で人も資材も大量投入して、それが可能となる。連日現れる転生者を追放、処分してしまうのではなく、それなりの生活が送れるまでにする。さらにその先だって目指していく。重信が大義名分としていた民主主義だって、何十年掛かっても実現させてやる。シンの目標は果てしなく高い。


「どや? 業田静香や重信恭子より、シンちゃんの方が強欲やろ? ここらで手を打ったらどうや?」


 麻衣は中腰になって、シンの右手にはめられた強欲の指輪に語りかける。戦闘終了後に確保したのはいいが、どこかへ転移しようと魔力を放出するばかりだった。シンは自身の力で押さえ込み続けているが、さすがにしんどい。破壊することもできないので、どうにか封印しようと思案しているところだった。


 紫色のアメジストの指輪は怪しく輝いた後、シンの指から消える。また別の持ち主を探しに行ったのではない。空の指輪と同様に、シンの中に格納されたのだ。強欲の指輪は、シンを持ち主と認めた。


「これで一安心だな」


 シンは笑顔を浮かべる。無論、強欲の指輪がまた所有者を変えようとするなら、何度でも叩きのめし、服従させるだけだ。


「二度あることは三度あると言いますし、また他の指輪が現れるのではないですか?」


「そんな気がしますね。先輩だったら絶対呼び寄せます」


 羽流乃は胡乱な目でシンを眺め、冬那はうんうんとうなずく。


「俺のせいなのかよ!?」


「大丈夫や、シンちゃん。どんな相手が来ても、ウチらが力を合わせれば楽勝や」


 麻衣はシンの肩をポンポンと叩いて慰める。それはそうかもしれないが、いまいち納得がいかない。


「さぁ、そろそろ次に行きましょう。まだ視察が必要なところが何カ所かあります」


「ほらほら先輩、行きますよ」


 羽流乃はスタスタと歩き出し、冬那に背中を押されてシンも渋々ついていく。


「ったく、しゃーねーなぁ……!」


 シンは苦笑いを浮かべるしかなかった。でも、麻衣の言うとおりである。どんな相手が来ても、四人で力を合わせて世界を守り抜く。そうして、いつか誰かに王座を明け渡すその日まで、世界を背負おう。


 決意を新たにしつつ、シンはしっかりと地面を踏みしめて、自分の意思で歩いた。

 今回で終わりとなります。ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

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