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9 いきなりの対決

「無礼なのはあなたたちの方よ。私たちのムスカに土足で上がり込んできて! 私たち『マモンの使徒』は、全ての帝国権力のムスカからの退去を要求します! これが、ムスカの民意です!」


 立ち上がって要求してくる重信に、割れんばかりの拍手の雨がが降り注ぐ。どうやら、記者たちはほとんど全員重信とグルだったようだ。シンたちはまんまとはめられた形である。


「……この記者会見はムスカに迫る危機について説明するためのものだ。関係ない話がしたいなら出て行ってくれ」


 相手にしたら負けだ。シンは感情を抑えた抑揚のない声で重信に退席を命じ、会場の脇に控えている衛兵たちに目配せする。衛兵たちは実力行使しようと動き始めるが、周囲の記者たちが重信を守るように立ち上がった。


「我ら、『マモンの使徒』こそが正義だ! 帝国は信用できない!」


「帝国は武力で俺たちを弾圧するのか! 俺たち市民を守るのが兵隊の仕事だろうが!」


「ムスカは帝国の支配を認めない! これはムスカ市民の総意だ!」


 罵声と怒号が飛び交い、衛兵たちは思わずたじろぐ。そこで重信が声を張り上げた。


「静まりなさい! 我々に武力で争う気はないわ! 我々はあくまで、ムスカの意思を代弁しているだけなのよ!」


 記者たちは一気に静まり返る。シンは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。見え見えの三文芝居だが、やらせておく他ない。ここで衛兵を動かせば、暴動になる。


「私たちはただ、声なき声を届けているだけ。私たちは民主主義に従っているだけなの。神代シン、紅羽流乃。そんな私たちを拘束したりはしないわよね?」


 不敵な笑みを浮かべ、重信は言質を取ろうと確認を求める。シンは無表情で答えた。


「行儀よくしてるのならな。先に言っておくが、会見の内容と関係ない話は聞かないぞ?」


 シンたちもいきなり実力行使する気はなかった。だが、重信たちが帝国の平和を脅かすのなら別だ。元同級生でも容赦なく血祭りに上げる。これまでも、そうしてきた。


「説明したとおり、ムスカには危機が迫っています。こちらには、あなたの相手をしている暇はありませんわ」


 羽流乃はぴしゃりと言い切る。この場で論戦などする気はない。重信ら不穏分子の処遇は、邪竜の件が片付いてからだ。羽流乃はじっと重信に視線を向けて威圧するが、重信は不敵に笑う。


「ムスカの危機ね……! そんなの、嘘っぱちじゃないの? 私たちを追い出したいがためのでっち上げ! そうでしょ!?」


 とんでもない発言が飛び出し、シンは一瞬唖然とする。まさかこんな場面でちゃぶ台返しを喰らうとは。考えるより先に口が動きだす。無表情で、冷たく、突き放すように。相手のペースに乗せられるな。


「馬鹿を言うな。データは全て示している。嘘だと思うなら自分で調査し直せ」


 冷静なシンの反論に対し、会場の記者たちはガソリンでもぶちまけられたかのように燃え上がる。


「データなんていくらでもねつ造できる! 我々を弾圧するための陰謀だ!」


「王家は我々を謀っているのだ! 貴様らのせいで我々は、平民に身をやつしているというのに!」


「邪竜は存在しない! 存在しているのは魔王だけだ!」


「わけのわからん種なし相手に腰を振る売女風情が! 偉そうに女王面をするな!」


 報道は公正中立が原則だろうに。シンたちへの恨み節が混じってしまっている。よくもここまで汚い言葉を並べられるものだ。怒りで血管が切れそうになるが、シンは抑えてドスの利いた声で告げる。


「いい加減にしろよ。俺はおまえらの文句を聞きに来たんじゃないんだぞ」


 一瞬だけ、指輪の魔力を解放して見せてやる。ヒッ、と悲鳴が小さく上がり、皆静かになった。


「とにかく、騒ぎを起こすのは金輪際やめろ。邪竜が復活したら、ムスカは滅茶苦茶だ。それはおまえらの本意ではないだろ?」


 シンは諭すように言う。人々の負の感情が渦巻くほど、邪竜は復活に向けて加速する。『マモンの使徒』とやらは、火薬がたっぷり詰まった樽の上で跳んだり跳ねたりしているようなものだ。記者たちは黙って聞いていたが、重信だけは着席することもなく未だにニタニタと笑っていた。


「百歩譲って邪竜がいるとしましょう? なら、なぜあなたたちはムスカから退去しないの? 強い魔力を持つあなたたちがいたら、邪竜とやらの復活は早まるんじゃないの」


「邪竜はいつ復活するかわからない。そのときに、ムスカを守れるのは俺たちだけだ」


 だが、周囲の安全は保証できないので避難してもらうしかない。揚げ足を取ろうと待ち構えている相手と問答している時間が無駄に思えて仕方なかった。いい加減、イライラはマックスだがブチ切れるわけにもいかない。


「何言ってるの? 私だって守れるわ」


 重信は強欲の指輪をはめた手を掲げて見せる。シンは失笑するしかない。


「全然、魔力を集められてないじゃねーか」


 そもそも、シンたちの指輪と同じように大量の魔力が宿れば、重信ごときに耐えられるわけがない。重信が邪竜と戦うなど、自殺行為だ。


「虚勢を張るのはやめなさい。みんな、指輪のすさまじい魔力を感じているはずだわ」


 しかし、重信は自信満々に言い放った。その目には一点の曇りもない。周囲の記者たちも「そうだそうだ」と気勢を上げる。会場は異様な雰囲気のまま、誰も矛を収めようとはしなかった。

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