表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
番外編 主人公になれなかった僕のワールド・オーバーライド・オンライン vs 転生魔王のワールド・リバースド ~Lv.99 魔王です~
250/276

28 再起失敗

 激しい銃撃戦で周囲には黒煙が漂い、戦況は全く見えなくなっていた。アスモデウスのマスケット銃が射撃のたびに真っ黒な煙をもうもうと吐き出しているのだ。ほとんど煙幕のようである。


 おそるおそる塀の影から雅雄は顔を出し、様子を伺ってみる。断続的に銃声が響くばかりで、何もわからない。


「勝てるんだよね……? 魔王になれたんだから」


 半ば独り言のように雅雄は確認をとるが、羽流乃は険しい表情を見せる。


「微妙ですわね。決め手がありませんわ」


 アスモデウスの魔力は相手の雑魚の命を吸い取るか、使い魔のヤギに草木やら死肉やらをたらふく食わせて生贄に捧げるかでチャージされる。しかしマモンは使い魔等を召喚する戦法は使わないし、ヤギを放牧してもこの作られた世界では餌がない。アスモデウスは魔力をチャージすることができず、すなわち切り札の『命の剣』を使えないのだ。


「ジリ貧やな。火力で負けそうや」


 麻衣は冷静に分析する。冬那も同意した。


「そうですね。ただ、葵先輩が何か考えてないわけがないです」


 冬那の読み通り、マスケット銃の煙幕を隠れ蓑にして、アスモデウスは行動を起こす。


「『地の人形』!」


 アスモデウスは自分のコピー人形を作ってマモンを攻撃させ、自分は雅雄たちの方にこっそり戻ってくる。アスモデウスは雅雄とツボミの前に立ち、二人の手を取った。


「このままじゃ勝てない……! 君たちの力を貸してほしい!」


「え……?」


 雅雄とツボミの手にそれぞれ指輪が出現した。雅雄の右手薬指には青薔薇の刻印が刻まれた指輪。ツボミの左手薬指には黒薔薇の刻印が刻まれた指輪。


「その指輪があれば、異世界の君たちの体を召喚できる。頼んだよ!」


 アスモデウスは手短に説明して、すぐに戦場へ戻っていった。雅雄はまじまじと自分の手にはめられた指輪を見つめる。理屈ではなく、感覚でわかった。念じればこの指輪が働き、雅雄はこの世界にワールド・オーバーライド・オンラインでの肉体を呼び出すことができる。つまり雅雄は、戦うことができる。


 これがアスモデウスの策だった。足りない火力を雅雄たちに提供させる。今のマモンであれば、薔薇の剣士のスペシャルラッシュが当たれば倒してしまうことが可能だろう。雅雄とツボミがいれば、勝てる。


 隠れているだけの時間は終わりだ。雅雄も戦えるのである。若干精神が高揚しているのが自分でわかった。雅雄とツボミは示し合わせたように立ち上がる。


「行こう、雅雄!」


「……うん!」


 ツボミに負けていられない。勢いよく物陰から飛び出そうとして、雅雄は尻餅をついた。目の前を、何かが通過した。雅雄は頬に熱いものを感じて手をやる。掌が、真っ赤に染まっていた。


「あっ、あああああっ!」


 雅雄の頭はパニックを起こす。何が起きたかなど自明のことだ。それでも脳が認識を拒否しようとするが、今も頬からしたたる赤い血がそれを許さない。雅雄の頬を、弾丸が掠めたのだ。遅れて傷口に痛みと熱を感じ、この出来事が現実なのだと残酷に雅雄に突きつける。


 もう少しずれていたら、雅雄は死んでいた。雅雄の頭を恐怖が支配する。Lv.1で剣を振り回すしか能がない体と入れ替わって、雅雄は何をする気だった? あの銃撃戦の中に飛び込むのか? そんなことをしたら雅雄は間違いなく死ぬ。


 だって雅雄は主人公でもなんでもなくて、ただのモブなのだ。今までもメガミに、シンたちに守られるだけで何もできなかった。雅雄はヒーローになれない。都合よく銃弾が雅雄を避けてくれるわけがない。

 こんなところで座り込んでいては危険なのに、動くことができない。足が痙攣したように震えて、立つことができなかった。


「あ、う、あああ……」


 独りでに涙と鼻水が流れだし、止まらない。下腹部がコントロールを失って、下着から尿があふれた。本当に情けない。自分で作った水たまりから立ちこともできず、雅雄はただただ震え続ける。


 目聡いマモンはこういうときだけしっかり雅雄の方を見ていた。


「あらあら、雅雄。おもらしして泣いてるなんて、赤ちゃんみたいでかわいい! すぐにおしめを変えてあげるから、いい子にしてるのよ」


「ヒィッ!」


 わざとだろう、銃弾が雅雄の周囲に着弾する。雅雄は泣きながら身を縮こまらせるしかない。


「雅雄!」


 ツボミが雅雄を守るように覆い被さる。やめてくれ。マモンに狙われるだけだ。マモンはツボミには容赦しない。慌てて羽流乃、麻衣、冬那が前に出る。


「アカン! こっちに隠れるんや!」


 ツボミは麻衣に誘導され、雅雄は羽流乃と冬那に抱えられて再びブロック塀の影に退避する。この期に及んでも雅雄は自分で立ち上がれず、座り込んだままだ。股間に張り付く下着の感触が冷たくて、気持ち悪くて、惨めだった。


「うううっ……」


 雅雄はひたすらに涙を流し、嗚咽を漏らし続ける。全く言い訳の余地がない粗相だった。立ち上がろうとするたびに心がくじける。どうして自分はこうなのだ。


「大丈夫だよ、雅雄。戦おう、一緒に」


 ツボミが手を差し出してくれる。落ち着いている様子で、ツボミは柔和に笑いかける。ツボミはみっともない姿を見せている雅雄とは違う。今はツボミの優しさが心に刺さった。雅雄はツボミの手を振り払う。


「君は、僕とは違うからそんなことが言えるんだ……!」


 心ない言葉は自分の胸に突き刺さり、さらに雅雄は涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ