27 再会
「シン君、ここは私に任せてあちらへ!」
「ああ!」
葵の存在を感知すると同時に羽流乃はマモンへと強引に突撃を掛けた。アサルトライフルのフルオート射撃でマモンは迎撃するが、ここで麻衣と冬那が飛び出す。
「ウチらも一発くらいは撃てるんやで!」
「少しは大人しくしてください!」
風の刃と放水車が撃ち出すような水流が、マモンを直撃する。ダメージはほとんどないが銃口が逸れて、マモンは羽流乃に接近を許す。気合の声とともに羽流乃は刀を打ち込んだ。
「チェストォ!」
「クッ!」
マモンはアサルトライフルを盾にして凌いだが、否応なく斬り合いに持ち込まれる。右手に剣を、左手に拳銃を呼び出してマモンは応戦するが、羽流乃の打ち込みの圧力で後退を余儀なくされる。しばらくは保ちそうだ。
シンはユニコーンを呼び出して飛び乗り、葵の元に駆ける。葵のそばまで来てシンはユニコーンから降りて、向かい合う。
「久しぶりだな……。元気だったか?」
「おかげさまで。三年ぶりかな……。八十年後に会うはずだったのにね」
葵は微笑む。三年前と同じように、柔らかい笑顔だ。でも少しだけ背が伸びて、大人っぽくなった気がする。
あまり感慨にふける時間はない。それでもシンは葵と、短いながらも言葉を交わし続ける。
「俺は、おまえが危なくなったらいつでもこっちに駆けつける気だったぜ」
「僕も、君が求めるならいつでも力を貸す気だったよ」
シンは笑った。シンの手にも、あの日以来ずっと地の指輪ははめられたままだ。二つの指輪は再会により輝きを増している。
「葵、この世界を守るために力を貸してくれ!」
「もちろんさ!」
シンと葵はどちらともなく歩み寄って抱き合い、口づけを交わす。柔らかい唇も、華奢な体も昔と変わらない。その温もりが、シンに力を与える。久しぶりの葵とのキスは、甘酸っぱい味がした。
「世界を作るは地の力! 背負いし罪は命を育む色欲! 甦れ、魔王アスモデウス!」
二人の地の指輪から魔方陣が展開され、まばゆい光とともにシンの体は変質を始める。唇を通して葵の魂は移動し、魔王の魂と体が揃う。放たれている光が収まるとともに、色欲を司る地の魔王アスモデウスは顕現した。
アスモデウスは黄色のマントを翻して黒い衣装とそれを覆う黄金の鎧を見せる。魂の抜けた葵の体を地中に隠し、戦闘準備は完了だ。重力を操作してアスモデウスは跳躍し、マモンの前に降り立つ。ピッタリ息を合わせて羽流乃たちは引いて、アスモデウスとマモンは対峙する。
「誰かのために戦おうとするとき、色欲は愛に変わる……! 僕の愛は地球を救う。君の横暴もここまでだ」
アスモデウスは見得を切り、マモンは冷笑を浴びせる。
「愛? それって性欲のこと? だったら私は雅雄を愛してるわ。山よりも高く、海よりも深く、とってもとってもね。ああ、早く雅雄とヤリたいわ!」
「ふうん。それで僕に勝てると思うなら、やってみなよ。『鉄の槍』!」
アスモデウスは十数丁のマスケット銃を空中に呼び出し、マモンに照準を合わせる。アスモデウスは一丁をひょいと取り上げ、自分でも構えた。
「一応メルヘンな魔法少女さんに備えて力を残しておく気だったけど、そうも言ってられないみたいね……」
マモンはニッコリと笑い、アスモデウスと同じようにアサルトライフル十数丁を出現させ、自分の背後に滞空させる。
「何度でも言わせてもらうわ。ロマンかなんだか知らないけど、古くさい骨董品なんか役に立たない。愛の力なんてのも無力よ。ただ強い方が勝つっていう、それだけ」
今度はアスモデウスが笑う番だ。
「ハハハッ、それでたどり着けるところなんて、たかが知れてるってことにどうして気付かないかな? 予告しよう。君は僕の前にひれ伏すことになる。人の心を動かせない力になんて意味はないさ」
「言ってなさい。その体を切り刻んで、大口を叩いたことを後悔させてあげる!」
マスケット銃とアサルトライフルの銃口が火を噴く。二人はそれぞれの銃を自在に空中で機動させ、全方位射撃を浴びせようとする。
「『金の盾』!」
主導権を握ったのはマモンだ。やはりアサルトライフルの発射速度は脅威である。アスモデウスは重力操作による跳躍で回避しつつ、要所要所で地面からせり上がる盾を呼び出し、致命傷を避ける。
「ほら、やっぱりあなたのがらくたより私のライフルの方が強いわ!」
「ただ撃ち合うだけならね! マスケット銃は、こういう使われ方もしていたんだよ?」
アスモデウスは空中のマスケット銃を動かし、マモンのアサルトライフルに直接ぶつける。重量なら小型軽量化が意識された現代のアサルトライフルより、マスケット銃の方が上だ。マスケット銃は鈍器と化してアサルトライフルを叩き落とす。
「ハッ! くだらないわね! これでどう?」
気にせずマモンはグレネードランチャーを呼び出し、銃撃を凌ぐため『金の盾』を展開したアスモデウスに撃ち込む。マスケット銃による打撃で弾幕が薄くなっていたので、アスモデウスは隙間を縫うように跳んで回避した。
ここまでは互角だ。さぁ、どうやって勝負を決めようか。




