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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
番外編 主人公になれなかった僕のワールド・オーバーライド・オンライン vs 転生魔王のワールド・リバースド ~Lv.99 魔王です~
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22 ログアウト

「ここは……?」


 雅雄は鈍い頭痛を感じて体を起こす。最初に静香と遭遇した路上だ。隣でまだ覚醒していないツボミも横たわっている。どうやらワールド・オーバーライド・オンラインから強制ログアウトさせられて、リアルの世界に戻ってしまったということだろうか。


 体も向こうの世界のそれではなく、メガミが封印して守ってくれていた現実の肉体だ。ツボミの髪はゲーム上での長髪から現実のショートに戻っているし、服もかわいらしいスカート姿になっている。雅雄も〈ショートソード〉や〈ダークレザーコート〉を失い、普通の服装だ。


 しかし雅雄はすぐに気付いた。雅雄は道の真ん中でぼんやりしているが、車の往来はもちろん歩行者さえ見当たらない。鳥の鳴き声一つせず、ひたすら静寂だけが支配する世界。この空間は現実世界でないのだ。多分、現実に被害を及ぼさないようにメガミが戦うための特殊な空間である。


 葵もヤスさんも姿が見えない。二人とも体を封印されたわけではなかったので、ここには出なかったのか。とりあえずツボミを起こして、どこかに隠れよう。そこまで思考したところで、雅雄は顔を上げて硬直した。すぐ前に静香がいたのだ。


「雅雄、やっとお目覚め? 現実の肉体っていいわね。余計な魔力を使わなくていいんだもの……! これでこっちでも本気を出せるわ」


 静香は魔法使いのローブを身に着け、杖を持っていた。ワールド・オーバーライド・オンラインでの肉体を現実に持ち出すことに成功したのだ。


「さ、私が味わった痛みと屈辱を返させてもらわないとね……! まずは逃げられないように足を潰させてもらうわ」


「ヒッ……!」


 雅雄は思わず情けない悲鳴を上げる。静香は拳銃を懐から取り出し、雅雄に向けたのだ。魔法使いの格好をしているくせに文明の利器に頼るらしい。雅雄の足に狙いを定め、躊躇なく静香は引き金を引く。




「危ねえ!」


 為す術なく銃弾に貫かれる寸前に、雅雄は救出された。精悍な顔つきの少年が、雅雄を抱き上げてその場から退避させたのだ。少年はお姫様だっこで雅雄を抱えたまま、まじまじと雅雄の顔を見つめてくる。


「あ、ありがとうございます……」


 どうにか雅雄はお礼を言った。早く降ろしてほしいが、その気配は全くない。雅雄は変な汗を掻きながら少年から顔を背ける。


「シン君、また新しい女の子に手を出してるのですか?」


 いつの間にか現れた金髪の美少女が呆れ声を上げる。それに対し少年──神代シンは言った。


「違うな、羽流乃。こいつ、男だぞ。助けたときは女だと思ってたけど……」


「え!? こんなかわいい顔してるのに、嘘やろ!?」


 小柄なショートボブの少女がコウモリのような翼を広げ、ちゃっかりツボミを抱えて退避させつつ、うさんくさい関西弁で騒いだ。シンは雅雄を降ろし、とんでもない行動に出る。


「麻衣もよく見ろよ。こいつは男だよ」


 一瞬、雅雄は何をされたのかわからなかった。気付けば目の前の少年は雅雄の股間をむんずと掴んでいた。そのがさつな行動から想像もつかないほどに優しく、シンは雅雄の股間を揉みしだく。一呼吸遅れて、雅雄は悲鳴をあげて飛び退いた。


「うわああああっ!」


「そんなに嫌がることねえだろうよ。男同士だし」


 シンは憮然とした表情を浮かべるが、意味がわからない。男に揉まれて喜ぶ男がどこにいるというのだ。男同士でもこんなことはしないだろう。


「先輩、そっちの趣味もあったんですか……?」


 本気でシンの行動が不可解だったらしく、ポニーテイルの少女は首を傾げる。


「いや、冬那、俺はそういうんじゃない。おまえも知ってるだろ? でも日頃おまえたちとばかり絡むことが多いからな。たまにはこういう男子のノリが恋しかったんだよ!」


「初対面の人にすることではないですわ。かわいそうに、怯えてしまって……」


 羽流乃は嘆息する。雅雄は青ざめてその場で立ち尽くすばかりだ。やたら男の体に触りたがる男が雅雄は苦手だった。酢豚に入ったパイナップルよりおぞましい。本気で身の危険を感じる。


「……! やめろ! 雅雄に何をするんだ! 離せ!」


 ようやく目を覚ましたツボミは雅雄を見て暴れ始める。麻衣はあっさりとツボミを離し、ツボミは雅雄のところに駆け寄る。


「無事かい、雅雄!?」


「う、うん……。大丈夫だよ」


 どうにか雅雄はうなずく。この状況を大丈夫と呼んでいいのだろうか。雅雄はどうにか思考を纏めようとするが、パァン! と鼓膜をつんざく銃声が響いて頭が真っ白になる。見れば、静香がシンに対して発砲していた。


「いきなり何するんだよ。危ねえな」


 シンは世間話でもしているかのように言った。もちろん弾は当たっていない。するりと身を翻し、避けていたのだ。静香がいるのに緊張感のない連中だと思っていたが、ただただ緩んでいたわけではない。静香の銃など、彼らはちっとも怖いと思っていなかったのである。不意打ちされても余裕で対応できている。


 ようやく雅雄は、彼らが葵が当てにしていた仲間なのだと気付いた。人間などではなく、地獄の大魔王。彼らはそれぞれ、ゲームの世界からそのまま現れたような格好をしている。静香と同様にワールド・オーバーライド・オンラインで肉体を手に入れて、この世界に出てきたのだろう。


 静香はシンたちをねめつけ、不愉快そうに鼻を鳴らす。


「私のかわいい雅雄にベタベタ触らないでよ。今さら竿役なんてお呼びじゃないわ。さっさと地獄に帰ってくれない?」


「ああ。あんたを倒したらな」


「面白いこと言うわね。うんことそれにたかるハエなんかに、私が負けるわけないじゃない」


 臆することなくシンは言い放ち、静香も真正面から応じる。この人たちなら静香に勝てるのではないか。神様もメガミもいないのに、最終決戦は始まろうとしていた。

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