19 レベルアップ!
魔法で首なしナイトの群れをほとんど全滅に追い込んだシンたちだったが、すぐに移動することはできなかった。今度は『ゾンビライオン Lv.99』やら『スカルコンドル Lv.99』やらが出現して攻撃を始めたのだ。
シンは魔法を乱射して一方的に殲滅していくが、とにかく数が多い。どこかの誰かを彷彿とさせるチキン戦法だ。神だとか天使だとかいう存在は思考パターンまで似るのだろうか。シンのMPは多少減ったが、それだけである。
「アンデッド系ばっかだな……。なんか意味があるのか?」
戦いながらふとシンは疑問に思う。麻衣は即座に答えた。
「それしか作れんのやろ。一応この世界も本物や。まともなモンスターをこんなに増やそうと思ったら魔力と手間が掛かるで」
粗悪な魂を、粗悪な肉体にはめ込んだ粗製濫造アンデッドしかヤスさんは作れないのだ。多分、レベルも強制的に上げているので額面通りの強さにはなっていない。ヤスさんは、それなりのモンスターを大量召還できたミカエルより遙かに格下である。このモンスターたちが本当にヤスさんの頼みの綱なのか?
「きっと、全部時間稼ぎなんじゃないでしょうか。あの子が回復するのを待ってるとか」
冬那の言葉が真実であるように思われた。気付けば小一時間ほども戦い続けている。今さら遅いかもしれないが、相手の目的が時間稼ぎだとするなら一刻も早くこの場を切り抜けねばなるまい。シンはノリノリで魔法を使う。
「さ、こんなさっさとクソゲークリアしちまうとするか! 『フレイム・エクストリーム』! 『ゴッド・サンダー』! 『ブリザード・インフェルノ』!」
炎やら雷やら氷が荒れ狂い、必死の人海戦術も虚しくアンデッドたちは一撃で全滅した。どうやら持てる手札は全て投じていたようだ。新手が現れる気配はない。おそらくヤスさんはマモンにも同じように追っ手を差し向けている。そのことも影響したのだろう。
シンの背後で唐突に派手なファンファーレが鳴った。振り向くと羽流乃、麻衣、冬那の前にウインドゥがポップしていた。
『紅羽流乃はレベルアップした! ちから+5 がんじょうさ+5 すばやさ+4 きようさ+3 かしこさ+2……』
『呼子麻衣はレベルアップした! ちから+3 がんじょうさ+3 すばやさ+10 きようさ+9 かしこさ+8……』
『黒海冬那はレベルアップした! ちから+5 がんじょうさ+7 すばやさ+5 きようさ+8 かしこさ+8……』
……
ファンファーレも、ウインドゥのポップも止まらない。消しても消してもやかましくポップしてくる。経験値が多すぎたのだ。麻衣と冬那はあっという間にLv.99まで到達してウインドゥポップが停止したが、元のレベルが低かった羽流乃のウインドゥだけはいつまでも止まらない。
『紅羽流乃はレベルアップした! ちから+5 がんじょうさ+5 すばやさ+4 きようさ+3 かしこさ+2……』
シンは元からLv.99なので経験値が入っても成長することはない。羽流乃がウインドゥを消し終わるのを待つ。
「つ、疲れましたわ……!」
最後のウインドゥを閉じ、『紅羽流乃 Lv.99 無職』となった羽流乃は息をつく。ステータスウインドゥを覗き込んだ麻衣は率直な感想をもらした。
「Lv.99の無職って、もの凄い引き籠もりニートみたいな感じやな……。絶対童貞やで。いや、女やからメンヘラ処女か」
「三十年くらい部屋に引き籠もってそうですね……」
「ぶち殺しますわよ!?」
冬那にまで言われ、羽流乃は涙目で怒る。わりと本気で傷ついているらしい。よく見れば無職だったせいか、麻衣や冬那に比べてステータスはそれほど上がっていない。レベルが上がっても装備が更新されるわけでもないので、しょぼい初期装備のままだ。
「まぁ、町に行って就職すれば問題ねーだろ。剣や鎧も買えばいいし。先を急ごうぜ」
先ほどの戦闘でお金も大量に稼げた。このパーティーなら楽勝でこのゲームをクリアできるだろう。シンたちは丘を降りて街道の向こうに見える一番大きな町──【ブレイバーズシティ】を目指した。そこに、強大な魔力の反応がある。
「待ってろよ、葵……!」
○
足が遅いアンデッドばかりで助かった。Lv.43でしかない静香でも、逃げるだけなら容易である。どうにかアンデッドたちを振り切った静香は徒歩で【ブレイバーズシティ】へ向かった。【はじまりの村】か【はじまりの町】のセーブポイントから飛べば早いが、町中に衛兵が張っているというのがオチだろう。
プレイヤーは町中で戦闘することができない。この世界の出口は【ブレイバーズシティ】にあると思われるが、どうやって侵入し、障害物を排除するか。
静香はすぐに理解する。
(……いや、そんなの簡単じゃない? この世界なら余裕でできるわ!)
やがて静香は【ブレイバーズシティ】城門前に辿り着く。何食わぬ顔で普通に入ろうとするが、武器を持った衛兵がわらわらと出てくる。やはり手配されているようだ。
だが、関係ない。この世界でも、静香は魔王なのだから。静香は『Lv.99 魔王』のスペシャルバーストを発動して衛兵を蹴散らし、堂々と城門を突破する。
「私は魔王マモン……! この世界を滅ぼす者よ! 命が惜しくないなら掛かってきなさい!」
魔法で市街を破壊しながら、静香──マモンは悠々と領主の館へと向かう。思った通り、プレイヤーの冒険者ではなく魔王なら、制限なんて関係ない。さぁ、リアルワールドへの出口まであと少しだ。雅雄もツボミもメガミも死ぬより辛い目に遭わせてやる。




