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22 辺境

 シンは町を出たところで運良く東方へ向かうという商人と巡り会い、馬車に相乗りさせてもらえた。


「あんたも物好きだねぇ。いくら種なしでも、あんなところに行っても何もないよ」


「そんなことはないさ。東方に行けば、絶対に現状を打破できる! 俺は確信している!」


 御者台から商人に声を掛けられ、シンは威勢よく言った。


 ヒントはあの紅茶と急須だ。紅茶も急須もこの世界では馴染みがないらしい。ならばこの二つは、いったいどこから来たのか。


 おそらく、シンたちが元いた世界だ。どのような仕組みかは知らないが、シンたちはこの世界に生まれ変わった。ということは二つの世界をつなぐ道のようなものがあってもおかしくはない。飛行機に現れた化け物も、その道を通って現れたのだろう。紅茶と急須は、シンたちの世界から輸入されたのだと考えられる。


 魔法を使えない者たちの集落があるという情報も、それを裏付けていた。きっと、シンたちの世界から秘密裏にこちらに来た者たちの拠点に違いない。魔法の世界に興味を持つ者が出てもおかしくはないだろう。


 単なる種なしが紅茶や急須を作れるわけがないので、シンの推理が正しい確率は高い。ならば二つの世界をつなぐ道を使って、シンが元の世界に帰ることもできるはずだ。


 もうすぐ元の世界に帰れる。シンはウキウキした気分を押さえられず、ニヤニヤしながら馬車での旅を楽しんだ。




 馬車が集落に着いたのは日没の直前だった。シンは集落を見て呆然とする。


「だから言ったろ? ここには何もないんだって。俺は明日一杯で買い付けして明後日にまた王都に戻るから、一緒に帰るならそれまでに用を済ませておけよ」


 商人はそう言ってシンと別れ、シンは一人残される。


 目の前にあったのは、人力のみで建てられたと思われる不格好な掘っ立て小屋だった。掘っ立て小屋は数十軒あり、わびしい集落の外にはわびしい畑が広がるばかり。畑の脇には木製の鍬や鋤が置いてあり、やはり人力で耕作しているのだと思われる。


 落胆のあまりその場から動けないシンに、集落の人間が話しかけてくる。


「あんた、この村に何か用かい?」


 町の人々がまとっていた色とりどりの衣装と違い、白い麻の着衣を身につけた男だった。野良仕事で薄汚れている。一切の着色がないのは魔法を使えないので染料を調達できないからだろう。どんなにこじつけようとしても、シンたちの世界から来た人間ではなく、魔法を使えないこの世界の人間にしか見えない。


 望みがつながる可能性はゼロでない。シンは失望を顔に出さないよう、無表情を心がけながら訊いてみる。


「ここなら珍しいものが手に入るって聞いたんで。そういうのって、どこから来てるんですか?」


 同じようなことを訊いてくる商人が、おそらくたくさんいるのだろう。すぐに男は答える。


「ああ。ちょっと前に住んでた森の向こうの錬金術師が、たまにいらないものをくれるのさ。転生してくる前に使っていたものらしい」


「そうですか……」


 シンは落胆を隠せない。何のことはない。紅茶や急須の出所はこちらの世界に転生した魔法使いだった。誰だか知らないが、変わり者が東方の辺境に住んでいたというだけの話である。シンの願望が入り交じった推測は、大はずれだった。シンは帰れないし、生きる術もない。


「その錬金術師も、もういないよ。王都から使者が来て、向こうに帰ってしまった」


 圧倒的な敗北感だ。自然と涙が頬を伝っていた。男は突然泣き出したシンを見て慌てる。


「き、君、いったいどうしたんだ!?」


「ここに来たら、元の世界に帰れると思ったんです……。俺、転生者なのに魔法を使えないから……」


 シンは男にこれまでのいきさつを話し、男はシンを慰める。


「そうか……。大変だったな。今日は私の家で休むといい。私も魔法を失った身だ。遠慮はいらない……」

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