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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
番外編 主人公になれなかった僕のワールド・オーバーライド・オンライン vs 転生魔王のワールド・リバースド ~Lv.99 魔王です~
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1 ぶらり低レベルの旅

 ワールド・オーバーライド・オンライン。それは神様が作った、新しい神様を選考するためのVRMMORPGだ。中世ヨーロッパを思わせる仮想世界で、実物そのもののアバターに入り込んで、世界を侵略する魔王の討伐を目指す。


 神様のミスでゲームに紛れ込んでしまった『平間雅雄 Lv.1 無職』と『香我美ツボミ Lv.4 無職』は今日も元気に身の程知らずにもゲーム攻略を目指し、この広い世界を冒険していた。




「……まさか最前線を目指すっていうだけでこんなに時間が掛かるなんてね」


 街道で出現したモンスターを倒した後、剣を腰の鞘に収めたツボミは嘆息する。長いストレートの髪と、装備している〈ダークレザーマント〉が風にたなびいた。


 端正な顔立ちなツボミは物憂い表情をしていても絵になる。くりっとした目や尖らせている唇が子どもっぽい印象も与えるけれど、女子にしては背が高くて全体としてはスレンダーな美人系であるツボミにはむしろちょっとしたスパイスだ。


 マントの下に隠れていた銀のスケイルメイルもかっこいい(制作者の長船君がかなりデザインにこだわったのだ)。凜々しさと美しさが同居している。


 思わず目を奪われそうになりながら、雅雄は苦笑する。


「仕方ないよ。僕らのレベルだと無理したらすぐに死んじゃうんだから」


 ダンジョンよりは弱くても、街道にだってモンスターは出る。Lv.30台のモンスターは一般的なプレイヤーからしたらクソ雑魚ナメクジでしかないが、雅雄とツボミにはとんでもない強敵だ。【名もなき村】近辺で戦っているモンスターとは比較にならない。雅雄とツボミは一度戦うごとに酷く消耗してしまう。


 地道に素材を集めて作った隠蔽スキル持ち装備を活用して戦闘はできるだけ避けているものの、動けば隠蔽スキルは無効だ。歩いている最中にいきなり街道脇の草むらからモンスターが飛び出してきたりすると、逃げるか戦うかしかない。


 無論逃げていては目的地から遠ざかる一方なので、よほど相手の数が多い場合はともかく、基本はバトルである。結果、ツボミのレベルはいくらか上がったが、鈍行列車で行く各駅停車の旅を余儀なくされていた。


「このペースだと今日中に【オークの砦】に辿り着くのは不可能だね。どうしようか。う~ん……」


 静香に勝って意気揚々だった昨日の今日で壁に直面し、精神的に参っているのだろう。ツボミはうなり始める。雅雄は地図に目を落として現在地を確認する。


「もう少ししたら村があるみたいだから、今日はそこまでにしようか」


 雅雄は提案する。昨日の勝利で途方もない夢を見たけれど、今日の雅雄たちに必要なのは実現可能な小さい目標だった。世知辛いがこれもまた現実だ。二人で立ち向かっていくと決めたのだから、こんなにすぐ挫折するわけにはいかない。


 ツボミも同じように思ったのだろう、努めて明るい口調で言う。


「今日、結構戦ったからいっぱい素材が手に入ったよね! 村に着いたら、いったん【ブレイバーズシティ】に戻って長船君と山口さんのところに行くのはどうだろう? きっと彼らがボクらにいい装備を作ってくれるよ!」


 希少な生産職プレイヤーである長船君たちなら普通の素材からでも、それなりの装備やアイテムを作れる。ツボミは無理矢理にでもはしゃごうとするが、今日に限ってそれは難しい。事情を知っている雅雄は苦笑いを浮かべるしかない。


「残念だけど今日は無理なんだ……。長船君、今日はリアルの方でデートなんだって」


 今日、学校で休み時間にばったり遭遇した長船君に、雅雄はたっぷりとその話を聞かされていたのである。なんでも、二人で隣町の映画館に行くのだそうだ。元気がいいことである。


 生徒会室が燃えた事件(多分犯人は静香)のせいで今日は午後から休校なのだが、外出は禁止だったはずだ。浮かれまくっている二人は、完全に失念している。……まあ、ツボミも普通に雅雄の家に来て遊んでいるのだけれど。


 映画館で手を握ってもいいのかとか、女の子的にゲーセンはどうだろうかとか、そんな話を延々訊かれた。雅雄にわかるわけがないのに、相当のぼせて頭が茹だっていたのだろう。


 ツボミはちょっとショボンとするが、すぐに顔を上げる。


「そうなんだ……。じゃあ、ボクらもリアルでデートするっていうのはどうかな?」


「えっ、ええっ!?」


 思わず雅雄は素っ頓狂な声を上げてしまうが、ツボミは平気な顔で続ける。


「いつも家でゲームだから、たまには外に出るのもいいだろう? 帰ってもまだ時間はあるし」


 ツボミは屈託ない笑顔を見せている。雅雄をからかっているわけではなさそうだ。デートだなんてさらりと言えてしまうのもツボミらしい。いつものことだが、雅雄なんかよりよっぽど男前である。


「う、うん……」


 雅雄ははにかみながらも、うなずく。しかし、のんびりと会話を続けるわけにはいかなかった。後方から来た十人ほどの一団に、雅雄たちは囲まれたのである。雅雄たちは静香に勝てたのだと、どこか油断していた。逃げたり隠れたりする暇さえない。即座に雅雄とツボミは剣を抜いて構える。


「女みたいな男と、男みたいな女で、クソみたいな低レベル……! 間違いねえ、こいつらだ!」


 雅雄はなめ回すように四方八方から視線を浴びせられ、たじろいだ。遅れて「女みたいな男」というワードが耳の中でリフレインして、脳裏には雅雄を女装させて喜ぶ静香の顔が浮かぶ。雅雄のトラウマにどストライクだった。雅雄はその場で固まる。


「君たち……! なんのつもりだ!」


 それぞれの得物を手にした集団に対し、ツボミが負けることなく鋭い声を発する。リーダーらしき一人が、ニヤニヤしながら言い放った。


「なんのつもりかって? わかってるだろ? 俺たちは敵討ちに来たんだよ。業田さんのな!」

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