プロローグ
拙作 『主人公になれなかった僕のワールド・オーバーライド・オンライン ~Lv.1 無職から始まる最強への道~』 https://ncode.syosetu.com/n7777fl/ とのクロスオーバー番外編です。
時系列的にはワールド・リバースドの本編終了後、ワールド・オーバーライド・オンラインのⅠ章終了後の話になります。
ワールド・リバースド 『強欲の魔王マモン』編 であり、ワールド・オーバーライド・オンライン 『業田静香』編 でもあります。
平間雅雄。私の大好きな人。決して私に逆らわない。私が意地悪すると、捨てられた子犬のような目で私を見てくれる。女の子の格好をさせると。私よりかわいい。誰にも渡したくない、かわいいかわいい私の玩具。
その雅雄が、私に逆らった。隣にいるいけ好かない頭がハッピーセットのキ○ガイ女と一緒に。
あろうことか私の雅雄は単細胞の勘違い男女と融合して、私を殺そうと剣を振るってくる。ゲームの世界とはいえ、あってはならないことだ。二人の融合体──薔薇の剣士は、二本の剣を手足のように操り、私を殺そうとした……
死ぬって、どんな感じなんだろう。痛いのだろうか。苦しいのだろうか。それとも、むしろ気持ちいいのか。その答えを、業田静香は味わっていた。
ただひたすらに何も感じない。重力に任せて落下しているような感覚があるばかりだ。空気の流れさえ感じられないので、それすらもあやふやである。しかし事実として静香は、魔法少女とかいうふざけた存在であるメガミに底なしの穴へと突き落とされた。だから体は落下感を訴えている。
(死んでいる、とは限らないのかしら……。地獄行きって言われただけだもの……)
頭の片隅でこんな思考を展開できる時点で、死んでいるというわけではない気がした。なら自分はどうなっているのだ? すぐに答えが目の前に現れた。
周囲一面に広がっている炎。炎の海の向こうには、うっすらと町らしきものや草原やら海が見える。炎をくぐった先が地獄なのか……?
見立て通り、何の感覚もなく落下していた静香はどんどん炎に近づいていく。炎のベール越しに透けて見える向こうでは浜辺で巨大なイカの化け物──クラーケンと対峙する一組の男女が確認できた。
あれは勇者とモンスターとでもいうのか? まるでファンタジー、つい先ほどまで静香がプレイしていたワールド・オーバーライド・オンラインの世界のようだ。地獄だとは、少し考えにくい。しかし静香が辿り着く先は間違いなく地獄だった。
「あああああああっ!」
静香は炎の海に衝突し、燃え上がる。全身を焼かれ、静香は叫びながら激痛にのたうち回った。着ていた服が炭化しながら焼けただれた皮膚に張り付き、じわじわと血液が流れる。耐えがたい苦痛だ。
やがて口の中にも炎は侵入して肺を焼き、静香は声を上げることもできなくなった。まぶたが焼き切れ、静香は目を閉じることさえできず自分の体が醜く焼かれるのを直視するしかない。白い肌は密かに自慢だったのだけど、見る影もなく赤くただれて血液やら何やらを垂れ流す。
それでも静香は死なず、意識が途切れることもなかった。頭がおかしくなってしまいそうな痛みと熱を、静香は手足をばたばたと動かしてやり過ごそうとする。全く無駄な努力だった。
(メガミさえ……あの女さえいなければ!)
静香に刃向かった雅雄。雅雄を誑かしたあばずれゴリラ、香我美ツボミ。ワールド・オーバーライド・オンラインの中では二人に負けたが、そんなことは問題ではない。機会を伺い、もう一度数を揃えて襲撃すればよかっただけだ。
メガミが実力行使をしてきたから、静香はこんな目に遭っている。
(私にもっと、力があれば……! メガミを殺せるだけの……!)
心の中で静香は怨嗟の言葉を吐く。一応、交番から盗んだ拳銃という、自分に調達できる最大限の力は用意していた。でも、全然届かなかった。元々、拳銃があったとしてもメガミが隙を見せなければ通用しないとは予想していた。だが同時に、どうせメガミはどこかで隙を見せるとも考えていた。静香はメガミが100%の本気を出してくるとは思っていなかったのである。静香は甘かった。
怒りも後悔も、静香の中から外に出ることはない。地獄の炎は、ほどなくして静香を焼き尽くした。




