エピローグ
長い寝たきり生活は思っている以上に葵の体力を奪っていて、葵のリハビリは半年にも及んだ。葵は中学校を卒業している年齢になっていたので、今さら元の中学校に戻ることはできない。葵たちの学年を担当していた先生たちも飛行機事故で全滅しているので、知っている人も残っていない。
どうにか冬までには歩き回れるようになって、葵は高校受験した。中三の内容なんて葵は習っていなかったが、歌澄家には相変わらず葵を塾や予備校に行かせるお金なんてない。葵の入院費だって神代家の援助を受けてようやく払えていたくらいだ。葵は独学でがんばるしかなかった。
(ちょっと前まで女王で、至れり尽くせりだったのになぁ……)
参考書類を買ったら、葵の少ないお小遣いは一瞬ですっからかんになった。入院費が高すぎたからとお小遣いはほとんどもらえないので、文房具だって大切に使わなければならない。けれども、この不自由さがどういうわけか心地よかった。
ブランクは大きいが、元々葵の成績は悪くなかった。逆風が吹いていても、努力していればなんとかなる。どうにか葵は最寄りの公立高校に合格することができた。
入学式の日、出発前に葵は制服姿の自分を鏡に映してみる。中学校のセーラー服とは違ってブレザータイプで、ちょっと大人っぽい。まあ、葵は実際大人なんだけれど。新入生のみんなより、二歳ほど年上だ。
「みんなに見せたら、きっと喜んでくれただろうな……」
前の世界での日々を思い出し、葵は少しだけ涙を浮かべる。でも、今この家には誰もいない。母は仕事があるからと朝早くに出て行ってしまった。祖母とも、これまで通り一度も会っていない。けれども新しく養子をもらったということなので、寂しい思いはしていないだろう。
学校で、なじめるだろうか。二歳も年上で、入院生活を送っていた葵を受け入れてくれるだろうか。葵には、冬那のようにシンがついていてはくれないのだ。
現実は非情だ。多分なじめないと思う。貧乏だし、いじめられるかもしれない。不安ばかりが葵の胸を渦巻く。行くのをやめようか。学費が高くて生活が苦しくなると母は言っていた。学校をやめても、きっと母は何も言わない。
ちらりと頭に浮かんだ考えを打ち消して、葵は部屋から出る。自分を奮い立たせるべく、葵は誰もいない部屋で声を出した。
「さぁ、学校へ行こう!」
みんなに約束したのだ。幸せに生きて、死んだら地獄に墜ちるのだと。何十年か後に、胸を張ってみんなに会おう。そのために、一生懸命に生きよう。立ち塞がるであろう現実を打ち壊そうとこぶしを握り、ゆっくりと葵は歩き出した。
これにて本編は完結となります。ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
普通の人が書かないであろうとした話を書こうとして大回りした挙げ句結局古典的な話になってしまったとか、掴みが弱すぎたのかなあとか、意外性のある展開があまりに少なかったかなあとか、一部のキャラがシナリオの操り人形になってしまっているんじゃないかとか、反省点は多々ありますが、筆力が足りないなりに書きたいシーンは書き切れたと思っています。
次は『主人公になれなかった僕のワールド・オーバーライド・オンライン』をなろうで投稿予定ですが、本作の後日談『強欲の魔王マモン』編も執筆する予定です。両方とも、一年以内に投稿開始できれば、というペースでのんびり作業を進めています。『ワールド・オーバーライド・オンライン』はもう一回くらいどこかの新人賞に応募しようと思っているので、どうにか一次を通ってくれれば。
感想等いただければ嬉しいです。重ね重ね、ありがとうございました。
2019/06/12
続けて拙作『主人公になれなかった僕のワールド・オーバーライド・オンライン』 https://ncode.syosetu.com/n7777fl/ とのクロスオーバー番外編をお楽しみください。




