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24 真っ白な世界

「終わったんだな……」


 羽流乃と分離したシンは、ミカエルの遺灰が風に舞って散っていく様子を感慨深く見守る。全ての天使は滅ぼした。もうシンたちの世界に天使の脅威はない。


 これで少しは気が楽になる……と思ったのも束の間、シンは強大な魔力を感知して身構える。感覚的にはミカエルの三分の一以下だが、天使といわれても信じてしまいそうなくらいに強力な魔力だ。


 サタンエル・サルターンがそうやって現世への道を作ったように空間がねじれ、ひび割れ、翼を生やしたおっさんは降りてくる。姿格好は丸っきり天使だ。


「おまえ……何者だ! ミカエルの仲間か!」


 ルシフェルとベルゼバブはまだ余力を残していた。この世界に害をなす者であれば、魔王の力で叩き潰してやる。


 シンの言葉を聞いて、おっさんはとんでもないといった表情で両手を挙げてぶんぶんと首を振った。


「まさか! そんなわけないだろう! 私は日の本の神の一人、第二代電機電波明神だ」


 日本の神ということだろうか。胡乱な名前をした神様を、シンは胡乱な目で見る。


「なんか怪しいな……。本当に神様なのか……?」


「き、君たちと同様に力を持っているということで神を名乗らせてもらっている。私のような存在が、日本にはたくさんいるのだ。今日は警告に来たんだ。もしも君たちが地獄を出て現世に侵攻するなら戦争になるだろう! 私を含めた日本の八百万の神が君を迎え撃つだろう!」


 神様は強引に本題へと入る。麻衣は首を傾げた。


「電機と電波が戦争に関係あるんか……? いや、なくはないのはわかってるんやけど、仮にも神様の戦争やろ……?」


「私が神々の中でも若輩な方だから派遣されてきただけだ! そ、それで……どうなのかな? 君たちは現世に侵攻するつもりなのか? この世界は君たちが征服してしまったようだし……」


 だんだん神様の声のトーンが下がっていく。どうやら一番下っぱが、探りに来たということのようだ。サタンエル・サルターンが現世からミカエルを地獄に引きずり込んだのを感知して、危機感を持ったらしい。


 シンは毅然と宣言した。


「俺にそんな気はない。そっちはそっちで平和ならそれでいいよ。ただ……葵に手を出したら許さないぜ。地の果てまで追いかけて、必ず潰してやる。たとえ相手が神様でもだ……!」


 シンの言葉に羽流乃、麻衣、冬那もうなずく。


「そうですわね。葵さんに危害を加えるなら、許しませんわ。私が八つ裂きにして差し上げましょう」


「葵のためならウチらやっていくらでも力を使ったるで。ウチのハエちゃんたちに食い殺されたくなければ、軽率な行動はせんことやな」


「神様が何人来ようが関係ありませんからね。全員私の津波で押し流せばいいだけですから」


 口々に物騒なことを言うシンたちを見て、神様はたじろぐ。


「し、心配しなくても私たちは彼女に危害を加えるつもりはない! そういうわけで交渉成立だな! 君たちはこの世界から出てこないように!」


「ああ、わかったよ」


 シンの返事を聞いて、神様は帰っていった。自力ではこの世界までの通路を作れないらしく、仲間が作った時空の割れ目に飛び込み、神様は姿を消す。


「さぁ、帰るか」


「そうですわね。早くアストレアの王宮で、貴族たちの相手をしませんと」


 葵の転生はすでに発表されていて、グノーム中で大騒ぎになっていた。グノームはサラマンデルに帝都と帝国の後継者をとられた上に、一つだけ女王不在の国になってしまったのだ。先行き不安で頭を抱える者、チャンスと捉えて動き出す者など様々だったが、ともかくシンたちは騒動を鎮めなければならない。


「やっぱりロビンソンさんに戻ってもらった方がいいんじゃないですか? ウンディーネは私一人でももう大丈夫だと思うので……」


「それはアカンよ。間宮にもプライドがあるんや。葵が来るまで女王がおらんかった、宰相が一人で仕切ってた国なんやから、なんとかなるはずや。最低限、あいつが泣きを入れてくるまでは任せなな」


「……そうだな。あいつに任せるのもだけど、俺たちでしっかり対処しなきゃいけない」


 グノーム王家の血を引く貴族もいるので、その縁者をシンの新たな妻として女王に、というオファーが殺到していた。一方で不穏な動きを示す者もおり、予断を許さない。


 皇帝として、女王として、シンたちが責任を負い、全て決める。この世界にはもう正面からシンたちをどうこうできる存在はいないのだ。シンたちは神も天使もいない世界を、ゆっくりと歩き始めた。

残り一話です。

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