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23 最後の戦い




「世界に満ちるは風の力! 背負いし罪は命を守る暴食! 蘇れ、魔王ベルゼバブ!」




 シンは麻衣の小さな体を抱きしめて、口づける。麻衣の体はハエとなって飛んでいき、シンの体は変化する。緑の外套に黒の翼の魔王、ベルゼバブは顕現した。


「自分の弱さを認めたとき、暴食は分け合う強さに変わる……! あんたに足らんもんが何か、教えたるわ! 『ハエの現し身』!」


 倉庫から飛んできたハエは集まり、たちまちベルゼバブは四体まで分裂した。


「「「「『風の刃』! 『風の弾丸』!」」」」


 ベルゼバブたちはミカエルを包囲し、四方八方から鎌鼬に混ぜてウジ虫を撃ち込む。たちまちミカエルの体は切り裂かれ、寄生したウジはミカエルの魔力を喰らってハエとなり、ベルゼバブに魔力を供給する。


「……〈炎の剣〉! うおおおおっ!」


 対するミカエルは〈炎の剣〉から噴き出す黒い炎で全身を包んでウジを焼き尽くす。そのまま炎の天使となったミカエルはベルゼバブに斬りかかってきた。炎はミカエル自身も焼いているはずだが、回復魔法を発動し続けることでミカエルは炎を維持し続ける。防御と回復の力が強いミカエルだからこそ可能な芸当だ。


 魔法を打ち消す〈炎の剣〉と噴き上がる炎のコンボはベルゼバブと相性が悪い。ベルゼバブは即断した。自分の分身を全て生贄に捧げ、最強の魔法を撃ち込む。


「『生贄の嵐』!」


 凝縮された特大の嵐が、ミカエルを襲う。〈炎の剣〉でも消しきれず、ミカエルは身を刻まれる。その隙にベルゼバブはシンと麻衣に分離した。


「頼むで! 冬那ちゃん!」


「任せてください!」




「世界を満たすは水の力! 背負いし罪は命押し流す嫉妬! 甦れ、魔王リヴァイアサン!」




 シンと冬那は抱き合い、口づけを交わす。冬那の体は水となって消え、シンの体は青いドレスとガラスの靴の魔王、リヴァイアサンになる。


「頂点を目指すとき、嫉妬は己を高める向上心へと変わる……! どんな魔法でも、私たちに攻略できないわけがありません!」


 黒い炎に身を包まれているという禍々しい姿になっていても、ミカエルはミカエルだ。剣を振るっていても腰は引けているし、大胆な手は打ってこない。


「『毒の剣』!」


 リヴァイアサンは細身のレイピアでミカエルと打ち合う。踊るように左右に動いてリヴァイアサンはミカエルを翻弄する。ミカエルは今ひとつ踏み込みが足らず、リヴァイアサンを捉えられない。大剣を振り回しながらレイピアに押されるという情けない構図になっていた。


「お遊びはここまでにしましょう……! 『破壊の矢』!」


 ミカエルは後ろに飛んでいったん距離をとり、無数の黄金の矢を撃ち込んでくる。これもウリエルの移していた能力を戻したもののようだ。どんなに取り繕おうが、ビビって逃げただけなのはバレバレである。全く脅威に感じない。


 リヴァイアサンは体を液体に変えて矢を透過させた。多少はダメージを受けるが、痛みもなしに勝てると思う方が甘いのだ。少し離れたら安全だと思うのは大間違いである。リヴァイアサンは魔力を使い切って足下から沼を広げた。状況的に敵の血から沼を作り出すことは無理っぽいので、自分の魔力を投入したのだ。


「むむっ……! 卑怯な……!」


 翼を失っていたミカエルは為す術もなく沼に飲み込まれ、動けなくなる。ミカエルを包む炎は健在で、沼からは白い蒸気が立ち込めた。さらにリヴァイアサンは魔法を発動する。


「『氷の封印』!」


 沼は蒸発し、ミカエルを氷付けにする。〈炎の剣〉から黒い炎が迸って氷を溶かすが、ミカエルの全身を覆っていた炎は鎮火した。リヴァイアサンは魔力を使い切ってしまったので、ミカエルが氷から出ようともがいている隙にシンと冬那は分離する。


「羽流乃先輩、とどめをお願いします!」


「ええ、終わらせて見せましょう!」




「世界を滅するは火の力! 背負いし罪は力あるが故の傲慢! 蘇れ、最も神に近き堕天使、ルシフェル!」




 シンと羽流乃は、ゆっくりとキスを交わした。羽流乃の体は炎となって消失し、シンの体は炎に包まれ変質する。赤いマントを翻し、ルシフェルは降臨した。


「己の正義を信じるとき、傲慢は誇りへと変わる……! 正義の名の下に、あなたを滅しますわ! 来なさい、〈カトリーヌ・フィエルボワ〉!」


 ルシフェルはプレートアーマーに身を包み、五つの十字が刻まれた聖剣を抜く。接近されたミカエルは〈炎の剣〉で応戦するが、プレートアーマーを貫くことができず、ルシフェルにダメージを与えられない。


「どうしたのですか? こんなものですか?」


 ルシフェルはミカエルの攻撃を避けようともしない。逆に、ミカエルはルシフェルの剣を必死で避ける。


「こ、こんなはずは……! 神の御心は私とともにある! 正義は私にあるはずなのに……!」


「それが間違いなのですわ。あなたの信じる神など、どこにもいません。そして正義は私たちにあります!」


 ルシフェルは傲慢にも言い切ってしまう。信じるべきは神ではなく、己のみ。そしてルシフェルは、一気に勝負を決めた。


「これで終わりですわ……! 『炎熱の一撃』!」


 魔力を凝縮して〈カトリーヌ・フィエルボワ〉に炎を纏わせ、真正面からミカエルに振り下ろす。とっさにミカエルは〈炎の剣〉でガードしようとした。しかし炎を纏った〈カトリーヌ・フィエルボワ〉は〈炎の剣〉を叩き折り、ミカエルを真っ二つにする。ミカエルの体は魔王の炎に焼き尽くされ、転生することもできず灰になる。長く続いた天使と魔王の戦いは、終わった。

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