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17 バースデイ

「……わかった。帰るよ。だいたいの問題は解決したしね。僕の体も、そろそろ限界みたいだし」


 数日後、シンはアストレアの王宮で現世に帰還するかどうか、体調を戻した葵に尋ねた。あっさり葵はうなずく。これでシンの仕事は終わった。深く息を吐いてから、シンは葵を祝う。


「今日、おまえの誕生日だろ? おめでとう。みんなが待ってるから、行こうぜ」


「よく覚えてたね。君にしては上出来だよ。誕生会の準備までしてくれたの?」


 もうシンたちがこちらに来てから一年以上経過している。この一年、ずっとめまぐるしく変わる情勢に翻弄されて誰の誕生会も開けていなかったが、懸案事項のほとんどが解決した今、誕生日を祝うくらいの贅沢は許されるだろう。


「ああ。行こうぜ」


 シンは自ら葵の手を握り、着替えさせてから中庭へと連れて行く。シンと葵が中庭に足を踏み入れた瞬間、盛大にクラッカーが鳴って、花吹雪が舞う。


「「「「「女王陛下、お誕生日おめでとうございます!」」」」」


 立食パーティー会場となっている中庭で、貴族たちの合唱が響いた。シンと葵は中央に据え付けられた玉座に向かって歩いていく。途中にはシンと葵のクラスメイトたちもいて、声を掛けてくれる。


「歌澄、誕生日おめでとう!」


「後で僕たち三人が作ったアクセサリー持ってくよ!」


 井川とジャネットは子どもの面倒を見るため欠席だったが、落合と西村はプレゼントの包みを抱えて葵を祝福した。


「歌澄、お誕生日おめでとう! 今日は日頃のことを忘れて、思いっきり楽しみなさい! このパーティーを計画したのは私なんだから、楽しんでくれないと許さないわよ!」


 間宮もグノームの敏腕宰相にして帝国軍を率いる名将からただの同級生に戻り、葵を祝福する。他にも集まった同級生たちに次々と声を掛けられ、葵は途中から「ありがとう」と返すことも忘れて照れ笑いを浮かべるばかりだった。


 そして、玉座の周りにはフアナを抱いた羽流乃とさらに麻衣、冬那が控えており、それぞれ葵に祝いの言葉を掛ける。


「葵さん、誕生日おめでとうございます。お互い助けたことも、助けられたこともありましたわね……。正直、あなたを気に入らないと思っていたこともありました。ですが、今はあなたを友だと思っておりますわ」


「……うん、僕もそう思ってるよ。いろいろあったけど、僕らは友達だ。ありがとう、羽流乃。フアナちゃんも、僕らの後をしっかり頼むよ」


 葵にあやされ、フアナはキャッキャッと喜んだ。葵は笑顔を浮かべ、続けて麻衣と冬那から花束を受け取る。麻衣は言った。


「おめでとう、葵。ウチが今、こうしていられるのは不本意やけど半分は葵のおかげや。これからはツンデレやなくて嬉しかったら嬉しいって言うんやで。そしたら、みんな嬉しいんやから」


「……うん、そうしてくれたら僕も嬉しくなる。ありがとうね、麻衣」


 照れ笑いを浮かべながら葵はうなずいた。そして冬那も葵に声を掛ける。


「葵先輩、お誕生日おめでとうございます! いっつも途中参加の私に影ながらよくしてくれたこと、一生忘れません! これからも優しい葵先輩でいてください!」


「ぼ、僕は優しくなんかないんだけどな。参ったな……」


 感極まったのか、葵は目に涙を浮かべる。「ほら、ツンデレはアカンで!」。麻衣に言われて葵は顔を上げ、冬那の手を握った。


「ありがとう、冬那。これからも僕は僕のままでいるよ。絶対にだ」


「さすがは葵先輩です!」


 最後は、シンの番だ。


「誕生日おめでとう、葵。ここんとこ、あんまり構ってやれなくて悪かったな。おまえも大事な俺の嫁だ。今夜は楽しもう」


「うん。今日、埋め合わせしてよね!」


 笑顔を浮かべる葵にシンは空色の宝石で飾られたネックレスを掛けてやる。シンからのプレゼントだ。結婚指輪も地の指輪を使ったので、シンから何か送ったのは初めてだ。


「今日はおまえが主役だ! さぁ、行くぜ!」




 すぐに十六本のろうそくが立った大きなケーキが運ばれてくる。


「二人で切り分けよう」


 シンはケーキナイフを葵に渡した。葵はケーキを見上げて苦笑する。


「これじゃあ誕生会じゃなくて結婚式だよ」


「嫌だったか?」


 葵は首を振ってはにかむ。


「ううん。すっごく嬉しい!」


 まず葵は木製の脚立を使ってケーキの上に顔を出し、一息でろうそくの火を吹き消した。会場に大きな拍手が響く。


 続けてはケーキ入刀だ。葵はシンと一緒に、結婚式でそうするように二人でケーキにナイフを入れた。また拍手が巻き起こり、後は侍女が来て綺麗に切り分ける。皿に載せられたケーキからシンは一口分をすくい、葵の口に近づける。


「はい、あ~ん!」


 葵はぱくりと食いつき、一口で食べきった。そしてケーキの皿を奪い、シンの口元に差し出す。


「ほら、君も一口で食べるんだよ?」


「しゃーねーな。やってやるよ!」


 葵はいたずらっぽい笑みを浮かべ、シンはケーキにかぶりつく。一口、とはいかないが無理矢理口に押し込んで嚥下し、皿に残るのはクリームだけだ。


 シンの顔を見て葵は笑う。


「ははは、おかしい! 白髭みたいになってるよ!」


 べったりとシンの口元にクリームがついていたのだった。シンも笑う。


「今日はおまえのためにサンタクロースにでも何にでもなってやるよ!」


「ふうん。じゃあ、まずはこのワインを一気飲みしてもらおうかな?」


「望むところだ!」


 葵は馬鹿な大学生のようなことを言い出すが、シンは受けて立つ。シンが胸を叩くと同時に呼ばれていたオーケストラも演奏を始める。その後、シンは葵とともにパーティー会場を回り、思いっきり一晩を楽しんだ。

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