表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/276

20 異世界金融業

 次の日も、その次の日も仕事は見つからなかった。さすがにシンも憔悴し、ゾンビのような顔色で通りを歩く。


 どこも、魔法を使えないというだけで不採用だ。やれそうな仕事も見つからない。


 隅から隅まで町を巡ったので、新生活を始めた元同級生にも遭遇した。彼らはこちらで揃えたのだろう、それぞれぴかぴかの仕事着を身につけ、それぞれの仕事にチャレンジしていた。着の身着のまま制服で浮浪者のように町をうろつくシンとは対照的である。


 元同級生たちになんとか使ってもらえないかと頼み込んだが、やはり断られる。「種なしはちょっと……」「うちのイメージが悪くなるから」。この世界で魔法を使えないのは、死ぬよりも辛い十字架らしい。中には「ざまあみろ、ハーレム野郎!」と罵ってくる者もいた。ただただ悲しい。


 切り口を変えて、「元の世界に帰りたくないか?」と元同級生を誘ってみたがやはりだめだった。仲間ができれば魔法とやらで帰れるようになるかもしれないのに。みんな不老不死の肉体で前の世界の知識と莫大な魔力を使って、この中世レベルの世界で早くも活躍し始めているため、シンの提案に乗ってくれないのである。おまえらそんなに俺Tueeeeeee! が好きなのかよ。


 ダメ元で冒険者ギルドにも行ってみたが、相手にされなかった。魔力がなければ武器を扱えないのだ。話にならない。




 絶望的な状況で、思い出すのは元の世界のことだ。落ち着いて生活できるようになったら、帰る方法を探そうと思っていたが、そんな日は来そうにない。自然と今までの何にも困ることがなく、楽しかった日々を思い出してしまう。


「ばあちゃん、大丈夫かな……」


 シンは実の両親が事故で亡くなった後、縁あって町の名士である神代家に引き取られた。それ以来シンは、血縁的には義理の祖母となる神代サナエに育てられたのである。


 厳しい祖母だったが、最近は年齢のせいか弱気な発言をすることも多くなっていた。その度にシンは

「俺に任せろ!」と祖母を励まし、喜ばせていた。きっと今も、シンのことを心配しているに違いない。寂しがっているに違いない。こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。


 シンは顔を上げて、昨日訪れたときには誰もいなかった店に入る。そこにいたのは、懐かしい顔ぶれだった。


「え? 神代君?」


 西村の声で、他の二人もシンの方を注視する。作りかけの人形がいくつも放り出された工房で、二次元三兄弟が何やらリュックに工具を詰め、荷造りをしていた。


「おお、神代。何日かぶりだな」


「聞いてたぜ。無事こっちにこれてよかったな」


 落合と井川も元気そうだった。落合は少し困った顔をして、シンに言う。


「積もる話もあるだろうが悪いな、俺たちはこれからすぐ出なきゃならないんだ。また今度おまえの話も聞かせてくれ」


「え、ああ……。こっちこそ忙しいときに悪かった。出直すよ」


 シンが種なしなので追い払おうとしているという感じではなく、本当に予定があるようだった。シンは落胆しつつも二次元三兄弟の工房を辞去しようとする。しかし西村はシンを引き留める。


「待って、神代君!」


「なんだよ?」


 シンは立ち止まり、西村は落合、井川と相談し始める。


「あの件……神代君に相談してみてもいいんじゃないかな? 今ならまだ、まとまったお金を持ってるだろうし」


「いや、しかしお金のことだからなぁ……」


 落合は腕組みし、井川は軽い感じに言う。


「いいんじゃないのか? 予定通りならすぐに返せるんだろ?」


「待て、まず話を聞かせてくれよ」


 本格的な議論に発展しそうな雰囲気だったので、シンはまず説明を求める。説明を受けないと判断できない。


 シンの発言を受けて、落合が事情を話してくれる。


「実は俺たち、フィギュアの素材集めのために今から北の鉱山に向かう予定なんだ。でも、今の俺たちじゃ鉱山への入坑料が払えない……。いろいろ入り用で、最初にもらったお金は使い切っちまったからな」


 そのため二次元三兄弟は入坑料を稼ぐため、東の森でお手軽な素材を確保し、行商しながら鉱山を目指す腹積もりだった。


「でも神代がスポンサーになってくれるなら、余計な回り道をせずに済む。鉱山で獲れる素材はこっちじゃかなり珍しいから、確実に儲かるんだ。最低でも倍にして返すと約束しよう。考えてみてくれないか?」


 落合によると、鉱山の素材で作った彫刻やアクセサリーは町に持ち込めば、入坑料を加味してもかなりの利益を出せる。こちらに来てわずか三ヶ月で落合が師匠の元から独立し、自分の工房を持てたのも鉱山に行ったからだという。


 にもかかわらずスポンサーが見つからないのは、職人が直接鉱山に乗り込むことが普通はありえないからだ。鉱山には魔物が住み着いているので、危険なのである。鉱山に入って素材を集めるのは、職人ではなく冒険者の仕事だ。


「俺たち黄金の国から来た者──日本人は魔力が高いんだ。それに、普通はこっちに転生するときに記憶を失うのに俺たちはほとんど記憶を保持できる。だから鉱山でもなんとかやれるが、危険は危険だ」




 ちなみに日本人が出現する「転生の祭壇」はシンたちが最初に出現したところをはじめグノーム国内の数カ所しかない。なので飛行機事故で転生したシンのクラスメイトで祭壇は渋滞を起こし、何度かに分けて日本人が出現することになった。


 たくさんある他の祭壇からは日本人より遙かに多くのヨーロッパ系が転生してくるが、日本人ほどの魔力はないし、皆記憶を喪失している。この世界では某オカルト雑誌における怪しい予言の記事並みになぜか日本人が特別な存在だった。


 前回、日本人が来たのは千五百年前らしい。洋服を着て、刀と小銃で武装していたそうだ。この情報から察するに幕末あたりの日本人が転生してきたのだと思われる。シンたちが元いた世界とこの世界では時間が流れるスピードが違うようだ。




 話を元に戻すと、全く魔法を使えないシンは例外で、落合たちはすでに魔法を使いこなせるようになっているのだった。ただ、それでも鉱山で運悪く強力なモンスターに出会ったらどうなるかわからない。鉱山に入ったまま帰ってこない冒険者は決して少なくなかった。死ぬことがないというこの世界で、どういう状況に陥って未帰還なのか、考えたくもない。


 なので通常、職人は冒険者の真似事をしない。技術と魔力で加工だけやっていれば充分に儲かる。ハイリスクな仕事は魔力の低い者──冒険者がハイリターンを求めてやる。通常、落合たちのように自分の店を構える者なら、所属するギルドからの出資を受けることができる。しかし落合の危険な賭けにギルドは出資せず、逆に自制を求めたのだった。


「それでも俺たちは、目標のために最短で成り上がりたいんだ! この世界を二次元を広めるのは、俺たちだ……!」


 熱く語る落合を眺めながらシンは考える。魔力のないシンがこの世界でまともに働けないのは、ここ数日で証明されている。これはチャンスではないだろうか。ギルドから出資を受けられない職人にお金を貸してスポンサーとなり、利子をつけて返してもらう。このやり方なら、シンでもお金を稼ぐことができる。


 元の世界で例えるならモグリの闇金業者。ウ○ジマくんみたいなものだ。この世界でも法律だったり慣習だったりを破ることになりそうな気がする。お金が返ってこないリスクも高い。だが他にシンができそうなこともない。


「いくら必要なんだ?」


 シンに訊かれ、落合は計算する。


「入坑料が三人で五十クォンで、三十クォンは用意してあるから最低でも二十クォン。鉱山までの旅費も考えると二十五クォンはほしい」


 この三日の宿代と食事代で、シンはおよそ四クォンを使っていた。残りは二十六クォンである。シンはさらに質問する。


「こちらに返してくれるまで、何日くらい掛かりそうなんだ?」


「二十五クォン出してくれるなら三日だな。二十クォンで帰りの旅費を稼いでから帰るとなると、普通に行けば五日ってところか。急げば三日でも帰れるとは思うが……」


 三兄弟が帰ってくるまでの宿代、食事代を計算に入れると二十五クォンは出せない。二十クォンでもギリギリだ。しかし、シンには他に頼れるものがない。


 シンは決断した。


「わかった。二十クォン出そう。その代わり、三日で確実に返してくれ」


「……厳しいが、約束する」


 落合がうなずいて取引は成立し、シンは袋から二十クォンを払った。

 

後は落合たちの帰りを待つだけだ。きっと今度こそうまくいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ