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6 当座のしのぎ

 レオールの王宮へと祝いにやってくる来客の対応は羽流乃に任せ、シンは大鏡を通ってグノームへ戻った。さっそく人口対策に乗り出すのだ。待っていた葵、麻衣、冬那と協議する。


「……って感じで、とりあえずはウンディーネで移民を受け入れられそうだ。んでロビンソンの話だとピスケスの南を開拓したらどうかって」


「ピスケスの南ですか……。それはいい考えですね」


 冬那はシンに賛同する。ウンディーネでは山林を切り開いて開拓するということがほぼなかった。ウリエルが封印されていた影響かバルサーモ島ほどではないにしても、ウンディーネ辺境の山林はそこそこ強力な魔物が出現したのである。シンたちが安全確保した上で山仕事を兼ねて開拓というのは現実的なプランだろう。


「あとはグノームやシルフィードでも山の方は人が少ないから、そっちに入植してもらうっていうのはどうかな?」


「せやな……。ただ山間部では小麦がそんなにとれんで。林業だけでは食ってけへんから、その辺は考えなアカン」


 麻衣は指摘する。特にグノームの山間部は雨が少なく乾燥している地域が多いため、大きな問題となるだろう。シルフィードも雨は多いが、やはり山間部は土壌が豊かとはいえない。平野で営まれている農業を持ち込んでも間違いなく失敗する。


「問題ないよ。僕の力で新大陸の作物を錬金すればいいのさ」


 葵は胸を張って言う。前に、魔法使いのいない村にジャガイモを与えたことがあった。同様に痩せている土地でも育つ穀物、野菜を錬金して山間部で作らせるのだ。かつての魔王たちが生きた時代に普及していなかったせいだろう、この世界にアメリカ大陸産の作物はない。シンたちの手でコロンブス交換を起こして人口爆発を凌ぐのである。


 冬那がポンと手を打った。


「なるほど。作るのはトウモロコシ、サツマイモ、カボチャ、トマト、インゲンマメってところですかね~! どうせならカカオやトウガラシも作ったらどうですか?」




 シンたちは王宮の中庭に移動し、錬金をやってみることにする。葵が自ら腕を振るおうとするが、シンは止めた。また体調を崩されると困る。


「無理はしない方がいい。俺にやらせてみてくれないか?」


「君、種なしのくせにどうやって錬金するのさ」


 葵は胡乱な目でシンを見るが、シンも指輪を手に入れている。


「こうやるんだよ。来い、空の指輪……!」


 帝国を預かっている責任感、生まれてくる子どものための責任感に加えて葵に無理させず大事にしたいという思いでシンは強引に感情を昂ぶらせる。シンの右手に一対の空の指輪が出現した。




「世界を制する空の力! 背負いし罪は世界を貫く憤怒! 誕生せよ、神に代わるシンなる魔王、サタンエル!」




 シンの体は光に包まれてみるみる縮み、髪を短くして王子様を気取っていた頃の葵の姿になる。もちろん、一糸も纏わぬ全裸だ。


「……改めて見ると凄く恥ずかしいなあ。やめてくれないかなぁ」


 全ての魔力を展開するには使い魔に魔力を預けておく必要があるが、今回はいいだろう。中途半端な状態でも作物を作る程度は余裕でできる。気合いとともにサタンエルは土の魔法を発動した。


「大地に根ざした命よ! 我の思うがままに転生せよ!」


 庭に生えていた雑草が次々にトウモロコシやサツマイモ、ジャガイモに変わっていく。ジャガイモはサービスだ。ジャガイモは無性生殖で遺伝多様性がないので、別の種類を作っておけば何かあったとき安心である。あとはカボチャにトマトに……。それから何だっけ?


「先輩、アボガドとかパイナップルはどうですか? あと、ゴムの木なんかも作れるんだったらお願いします!」


 さりげなく品目が増やされているが、まあいいだろう。サタンエルは冬那のリクエスト通り、自分の記憶から作物を作り出していく。正確にいえば錬金ではなく雑草を転生させているのだが、結果は同じだ。




 充分に作物を作り出したサタンエルはシンの姿に戻った。


「どうだ? こんなもんでいいか?」


 気付けば中庭の植物という植物がこの世界にはない作物に変わっていた。庭師が見たら泣くだろう。アボガドやパイナップルはエキゾチックで、中庭はちょっとした植物園のようになっていた。


「充分です、先輩!」


「さすがシンちゃんやで……。トウモロコシだけでも五種類くらいあるな……。こんだけいろんな種類作ったら、疫病で全滅することもないやろ。とりあえずアストレア近郊で栽培させて、増えてきたら移民に持たそう」


 同じ作物でも育つかどうかわからないので複数種類作った。麻衣と冬那はシンを褒めそやすが、葵だけは釈然としない表情で子どものように唇を尖らせる。


「何だよ、僕がいらないみたいじゃないか……」


 シンが魔王の力を使ったのは葵のためでもあるのだ。そんな寂しいことは言わないでほしい。


「充分に育ったら各王都で凶作に備えて備蓄体制を整備すべきやな。さぁ、これから忙しくなるで~!」


 麻衣はこれからの計画についてアウトラインを引き始める。さっそく間宮、レオン、ベルトラン、ロビンソンに連絡しよう。

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