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5 おめでた

 王宮に運び込まれた羽流乃はすぐに医師の診察を受ける。本人はじゅうたんに乗っているときも「ただの貧血です。大丈夫ですわ」と主張していたが、戦いで頭はまずい。大丈夫な気はするが、念のためしっかり診察してもらうことにした。


「まぁ、羽流乃ちゃんのことやから大丈夫やろ。ゲームの続きしようや」


「そうだね。ブルドーザーみたいな女だし」


 ひでえ、と思いつつシンも麻衣と言葉の声に従い、みんなとゲームに興じる。しかし、しばらくしてからまたしても部屋がノックされた。何だろうと思っていると、王宮付きの看護婦の声が響いた。


「皇帝陛下、一大事でございます! 下に来てください!」


「わかった、すぐ行く!」


 羽流乃に何かあったのだろうか。先ほどまで元気そうではあったのに。いや、羽流乃に限って……。不安を抑えながら、シンは他の三人とともに広間に降りた。




 広間に降りると、口をへの字に結んだ羽流乃が、医師とともに待っていた。心なしか、喜んでいるのを仏頂面で無理矢理押さえ込んでいるような……?


 シンが怪訝な顔をしていると、長年宮廷医を努めてきた老齢の医師は告げた。


「皇帝陛下、おめでとうございます。羽流乃様はご懐妊しておられます」


「へ……? 懐妊……?」


 シンは目をパチクリさせ、麻衣はキョトンとして呆けたような声で訊く。


「懐妊って……羽流乃ちゃん、誰の子や?」


 羽流乃はコホンと咳払いしてから言った。


「もちろん、シン君の子に決まっているでしょう。妊娠三ヶ月だそうです。あと半年ほどで、生まれますわ」


「「「「えっ、ええ~っ!」」」」


 羽流乃の言葉を聞いて、全員が声を上げた。




 仕切り直して、シンたちは羽流乃から事情聴取する。


「月のものはしばらく来ていなかったのですが、つわりも何もなかったのでただの生理不順だと思ってました。しばらくそれどころではなかったですし。忙しさ故のストレスかなと……」


 初期症状らしきものがなかった結果、羽流乃は全く己の妊娠に気付いていなかった。もう少しすればお腹が膨らんでくるだろうとのことだ。正式に羽流乃、冬那と結婚した後の発覚でよかった。つい数ヶ月前だったら葵、麻衣が妻なのに妊娠したのは婚約者の羽流乃という、問題のある事態に陥っていた。


「ぼ、僕を差し置いていつの間に何やってるんだよシン! さぁ、僕とも子作りしよう!」


 葵はシンの袖を引っ張るが、麻衣は冷静である。


「葵、それどころやないんやからちょっと待つんや。あとウチも子作りしてもらわんと困る」


「お二人ともまだだったんですか……。ともかく羽流乃先輩、おめでとうございます! 今から大変ですわね!」


 さらりと自白しながらも冬那に祝福され、羽流乃は笑顔でお腹をさする。


「そうですわね……。私ももっとしっかりしないと」


「せやな……。シンちゃんと二人で……いや、ウチらみんなで羽流乃ちゃんを支えんとアカン」


「抜け駆けされて、はなはだ不本意だけどね。僕ももちろん力を貸すよ」


 葵は腕組みして嘆息する。みんなのやりとりを聞いて、ようやくシンにも実感が湧いてくる。俺は、人の親になるのか。無性に嬉しい。シンは穏やかな笑顔を浮かべ、羽流乃を抱きしめた。


「ありがとう、羽流乃。絶対に、この子を幸せにしよう」


「ええ、絶対に、みんなで」


 羽流乃が懐妊したというニュースはその日のうちに二次元三兄弟のラジオに乗って国中に広まり、町は祝福ムードに包まれた。



「シン様、羽流乃様、おめでとうございます。これで安心して前の世界にお帰りください、と言いたいところですが……」


 レオールの王宮で続々と届けられる祝いの花束を受け取りながら、ニュースを聞いてキャンサーから駆けつけてきたロビンソンとシン、羽流乃は会談する。


「ああ、わかっている」


 頭を垂れるロビンソンを玉座から見下ろしながら、シンは険しい表情を浮かべる。こうしている間にも、四ヶ国のどこかでは新転生者が到着し、新たな命も生まれていることだろう。


 人口問題からシンたちの帝国が瓦解すれば、シンたち自身はもちろん生まれてくる子どもも辛い運命を辿ることになる。皇帝に、女王になってからシンたちの体はシンたちだけのものではなくなったが、親となったからにはさらに子どもの責任も乗っかってくるのだ。


 平和で大きな問題のない四州統一帝国を残すのがシンたちの子どもへの、領民たちへの責任だ。絶対に、失敗はできない。


「ひとまず、ウンディーネにおける移民の状況について報告いたします。まずキャンサーでは……」


 ロビンソンからの報告を真剣に聞きつつ、シンは決意を新たにした。

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