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3 人口爆発

「……陛下が遠征に出ている間にまた新転生者が来ております。今度は千人ほど……」


「な、何だって!?」


 レオンの報告を聞いてシンは玉座から転げ落ちそうになる。隣の麻衣は冷静に尋ねた。


「それはシルフィードだけの数字やな?」


「左様でございます。他の三国にも同じくらい来ているのではないかと……」


 青い顔をして冷や汗を垂らしながらレオンは告げる。もちろん日本人ではなくこの世界と直接つながっているらしいヨーロッパ系の普通の転生者だ。シンは頭を抱えた。


「このペースだとシルフィードだけで年間で三万人くらい来るのか……? 無茶苦茶だな……」


「いえ、どんどんペースが上がっているのでもっと来るでしょう……」


 戸籍があるわけではないので正確なところはわからないが、グレート=ゾディアックの人口が十数万人、シルフィード全土で三百万人程度とされる。四ヶ国を合わせれば一年で一国の首都人口に相当する転生者が現れることになるのだ。町に無職の新転生者が溢れるのも道理である。


「ウリエルを倒した影響やろなあ。こっちの時間がどんどん遅くなってきて、向こうに追いついてきてるんや……」


 麻衣は嘆息する。元々、この世界の時間の流れは現世の十倍以上に早かった。封印していたウリエルの魔力を吸い取り、時間を加速させていたのである。ウリエルの封印が解かれ、シンたちが倒してしまったことで時間加速の効果はなくなり、こちらの時間は急激に減速している。


 そうなれば当然、こちらに新転生者が現れるペースも十倍以上になる。すぐに仕事の口はなくなり、最初にもらえる給金を握りしめて新転生者たちは途方に暮れた。


「……まだ北東シルフィードには入植できるよな?」


「あと一万人ほどは受け入れられるでしょうが、それ以上は……」


 一万人でも四ヶ国分を合わせれば一ヶ月ちょっとで限界を迎える。早急に対策が必要だ。シンと麻衣は当面新転生者を北東シルフィードに送るようレオンに命令してから、大鏡を通ってアストレアの王宮に転移した。




 大広間に行ってみると、調子が回復しているのか葵が出て来客の相手をしていた。キャンサーから呼ばれていたのか冬那も葵の隣にいて、一足先に帰還していた羽流乃もいた。


「やあ、シン。ちょうどよかったよ。彼が、報告があるってさ」


 広間に来ていたのは井川とジャネットだった。二人は先日、盛大に結婚式を挙げたばかりだ。珍しいことに落合も西村も同行せず、二人だけで来ている。いったいどうしたのだろう。


「今日はおまえたちだけか。どうしたんだ?」


 シンは尋ねる。落合も西村もいないので、多分仕事の話ではない。だがプライベートで報告することなんてあるのだろうか。井川はトレードマークの長髪を靡かせながら言った。


「実は……俺たちに子どもができたんだ。今日はその報告だ」


「もう二ヶ月目になるわ。こんなに早くできるなんて、私も驚きよ」


 ジャネットも笑顔を見せる。シンは驚きのあまりフリーズしかけるが、すぐに冬那が祝いの言葉を述べる。


「ジャネットさん、井川君、おめでとうございます! きっとお二人のお子さんなら、元気でいい子が生まれますよ!」


「俺からも祝わせてもらうぜ、おめでとう!」


 遅ればせながらシンも井川たちを祝い、葵や羽流乃も二人を祝福した。井川は照れくさそうに頭を掻く。


「報告が早すぎる気もしたんだが、神代たちには世話になっているからな。山木と小林先生のところもできたって話だし、結構いるみたいだぞ」


「そうなのか。いいニュースが聞けてよかったよ」


 転生してきてから結婚したクラスメイトたちの間で、ベビーブームが起こっているらしい。ここのところ人口問題と戦争のことばかり考えていたが、久しぶりに明るい話題で盛り上がり、シンは温かい気持ちになった。工房に戻る二人を見送り、シンたちは広間に戻る。葵と麻衣はニヤニヤしながら言った。


「僕たちも、早く作らないとね。いつになったら君は勇気を出してくれるのかな?」


「せやで、シンちゃん。ウチは毎晩寂しい思いをしてるんやで!」


「おいバカ、みんないるんだからやめろよ」


 シンは顔を引きつらせ、羽流乃と冬那は気まずげに目を背ける。葵も麻衣もシンをいじめるのに夢中で羽流乃と冬那の方を気にしていなかった。これはやばい。放置していた時限爆弾が炸裂するときが来たのでは……。しかし話が進展する前にまた謁見希望者が現れる。今度はグノーム国内の貴族だ。


「陛下、我が妻が新たな命を授かりました! 是非陛下に子ができれば婚約者に……!」


「いやいや陛下、実は我が妹も妊娠したのです! 是非陛下の子が生まれた暁には婚約者に……!」


「陛下、私も妻との間に子を授かりました! 次子になります! 陛下は体調が優れない様子……! ならば十二代前にグノーム王家と婚姻した我が家の次子を、是非養子に……!」


 次々と殺到するオファーに、シンたちは顔を見合わせる。明らかに何かがおかしい。シンたちが知らないところで何かが起こっている。

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