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31 魔王の徴発

 天使の翼を広げたウリエルに対し、サタンエルも〈ドラゴンの鎧〉から竜の翼を伸ばす。丸っきり天使と悪魔という風体になった二人は空へと舞い上がり、激突する。しばらく剣でまともに殴り合うが、さすがにサタンエルは押された。体格が違いすぎるし、〈炎の剣〉による魔法を打ち消す効果が地味に効いているのだ。


「クッ!」


「オラオラ、もっとやる気になれよ!」


 〈炎の剣〉は他の魔王の魔法を使っているときは使用不能のはずだが、増大した魔力によって力技で干渉を封じたらしい。サタンエルは〈炎の剣〉が近づくと身体能力のブーストをわずかに消され、体格差で押されてしまう。比較的肉弾戦は得意なサタンエルだが、ウリエル相手だと一筋縄ではいかない。


「『鉄の槍』!」


 サタンエルの半分は葵が作った。完全にとはいかないが、サタンエルはアスモデウスの力を使うことができる。呼び出した数丁のマスケット銃で一斉射撃を浴びせる。銃弾はウリエルの翼を散らすが、それだけだった。すぐに翼は再生し、突撃してきたウリエルは剣を振るってマスケット銃を打ち壊す。


「『命の剣』!」


 〈オオカミの剣〉が金色に輝き、アスモデウスが使う『命の剣』と同様にブラックホールを操れるようになった。サタンエルは小型の重力球を作ってぶつけようとするが、魔力の操作に気を取られてウリエルを捉えきれず、はずしてしまう。


「なんだ? もう小細工に逃げるのか? それじゃあお先は真っ暗だぜ! 『蒼の渦』!」


 ウリエルは渦巻く水の塊を射出した。サタンエルはウリエルの魔法をなんとか避ける。


 アスモデウスのように『鉄の槍』を自在に機動させて側面や背面を狙うなんて技は、不器用なサタンエルにはできない。魔力の加減も下手なので使い魔を呼び出すのも無理だ。『命の剣』をいつでも発動できるということで、光になる能力を封じる意味はあるが、地の魔法を軸に攻めるというのは考えない方がよさそうである。


「一人で暴れてるだけのおまえなんかに負けてたまるかよ!」


「やってみろや! 正面から潰してやる!」


 いい加減、直線的なウリエルの動きにも慣れてきた。絶対反撃してやる。サタンエルの感情の昂ぶりに応じて魔力が増加する。同時に、ルシフェルの力でウリエルの魔力も増えた。これでは決着が着かない。


 だからサタンエルは、他から魔力を調達することにする。サタンエルは固有の強力な攻撃魔法を持たない代わりに、魔力を高める能力に長けているのだ。剣で殴り合いながら、サタンエルはさりげなく低空にウリエルを誘導した。そして、固唾を飲んで二人の戦いを見守る皆に呼びかける。


「みんな! 俺に力を分けてくれ!」


 さすがに元○玉は撃てないが、サタンエルは他人から魔力を分けてもらうことができる。突然の呼びかけにその場の誰もが戸惑うが、即座にロビンソンが申し出た。


「陛下! 私の力であれば好きなだけお使いください!」


 その瞬間、ロビンソンの胸から小さな光球が出てサタンエルに吸い込まれる。それを見た臣下たちは、次々と宣言する。


「陛下、私の力でどうか麻衣様を!」


「余の力も使ってくれ!」


「神代、負けたら許さないよ!」


「羽流乃様のために、この力をお使いください!」


 無数に魔力の籠もった光球は空へと舞い上がり、サタンエルに吸収されていった。その分だけ、サタンエルの魔力は膨らむ。


 その間も、サタンエルとウリエルは縦横無尽に飛び回りながら剣戟を交わし続ける。


「無駄だ! そんな虫けらどもの魔力を吸収したって、俺には勝てねーよ!」


「試してみろよ!」


 確かに、貴族とはいえ普通の人間たちから魔力を集めても魔王や天使のそれに比べれば数百分の一以下でしかない。サタンエルの臣下が束になって掛かっていっても、最強の天使には全く敵わない。悲しいが、それが現実である。しかし、集めた魔力はサタンエルの魔力ではないのだ。ルシフェルの能力は反応しない。


 サタンエルが、わずかにウリエルを押し始める。お互い、身体能力のブーストに全魔力を注ぎ込んでいるのだ。数百分の一でもサタンエルがウリエルを上回れば、均衡は崩れる。


 さらに、葵が自分の魔力をサタンエルに送る。


「シン、君は僕のヒーローだ! 必ず勝って!」


 葵は地の指輪を抜きにしても相当な魔力を秘めている。他の皆の数十倍の大きさ──サッカーボール大の光球をサタンエルは取り込んだ。数百分の一の優位は、数十分の一の優位に膨らんだ。


 葵の声を背に受け、サタンエルはさらに魔力を爆発させる。


「うおおおおっ!」


 みんなにもらった魔力を一瞬で使い切って加速し、サタンエルはウリエルに掴みかかる。ウリエルもとっさに反応できない。二人はもみ合いながら地面に激突し、大量の土埃を空に巻き上げる。


 こんな程度で死んでしまう魔王と天使ではない。二人はお互いに蹴りを入れつつ飛び退き、ひとまず距離をとる。もらった力は使い切ってしまった。皆の力を借りてなお、ウリエルを倒すには至らない。


「やるな……! だが、勝負はこれからだ」


「それはどうだろうな?」


 スッとサタンエルはウリエルの肩に装備されていたはずの〈封印の水晶〉を取り出して見せた。もみ合いの最中に、こっそり奪ったのだ。最初からサタンエルは、三人の魔王の奪還に賭けていたのである。


「てめぇ、やりやがったな……!?」


 ウリエルの魔力がしぼみ、サタンエルよりやや低い程度になる。ルシフェルの魔力増幅効果が消え、元の魔力に戻ってしまったのだ。サタンエルは〈封印の水晶〉を握り潰して砕く。三人の魔王は解放され、サタンエルの傍らに出現した。


 刀を肩に担いだ羽流乃が莞爾と笑う。


「信じていましたわ……! シン君なら私たちを助けてくれると!」


 麻衣は拳を握って力強く言う。


「ここまで来たら、あいつらボコって終わりや! シンちゃん、いてまうで!」


 冬那は静かに微笑み、申し出る。


「シン先輩、私たちも力を貸します」


 羽流乃も麻衣も冬那も、傷一つなく元気そうだ。ウリエルが言っていたとおり、〈封印の水晶〉の中で回復させてもらったのだろう。


 役者は揃った。後は立ち塞がるウリエルと、後ろで震えているミカエルを倒すだけだ。


「行くぞ、みんな!」


「「「はい!」」」


 サタンエルの呼びかけに三人全員が応える。勝負を決めよう。運命の最終ラウンドが始まる。

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