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30 神に代わるシンなる魔王

 シンは葵からもらった指輪を右手中指にはめる。人差し指には自分で作り出した指輪をはめている。シンの魔力を封印した空の指輪。シンが生まれたときに葵が作ったものと、シン自身が作り出したものの二対が今ここに揃った。満を持して、シンは空の指輪の力を解放する。




「世界を制する空の力! 背負いし罪は世界を貫く憤怒! 誕生せよ、神に代わるシンなる魔王、サタンエル!」




 シンの体は光に包まれ、みるみる縮んでいく。光が収束したとき、そこにはかつての葵とうり二つの少女が不敵な笑みを浮かべて腕組みしていた。以前の自分から変わろうとあがき、そしてシンを作り出した頃の葵だ。幼くも端正な顔に、パリッとした短髪。身長も小五にしては高くて、胸は少し膨らんでいる。葵は当時、嘘や誇張なしに王子様でヒーローだった。


 ユニコーン、オオカミ、ドラゴンを従えて仁王立ちするサタンエルを見て、思わず葵は顔を真っ赤にして声を上げる。


「シ、シン! 何だよその格好は!」


 小五葵とうり二つの少女は、完全無欠に全裸だった。堂々と白い肌を晒し、膨らみかけの胸を見せつけている。そして股間には生え始めの陰毛が……。しかし不思議とサタンエルの全裸は下品ではなく、神々しくさえあった。少女は堂々と言い放つ。


「仕方ないだろ? 魔力が強すぎて少しずつしか展開できないんだ」


 そのために使い魔を出したまま魔王となったのだ。使い魔たちには展開しきれなかった魔力を預けてある。魔力が強すぎて制御できないため、そのまま使い魔を使い魔として使うことはできない。


「なんたる破廉恥……! このような幼子の裸を見せつけるとは……!」


 ミカエルはサタンエルを凝視しながらぶるぶると震え、十字を切る。とても変態っぽい。「小五」と「ロリ」を合わせれば「悟り」となるので、きっと悟りを開いたのだろう。


「やつは自力で魔王に転生したというのか! ありえぬ! 私はやっとのことでミカエル殿に天使にしてもらったのに! なぜ種なしごときが!」


 一方のフィリップは少女の裸には興味を示さず、シンが転生して魔王になったことに憤慨していた。皇帝に、魔王にふさわしいのはどちらか、結果で見せつけられて憤っている。


「背中に世界を背負うとき、憤怒は勇気に変わる……! 来い、ユニコーン、オオカミ、ドラゴン!」


 サタンエルの呼びかけに応じ、使い魔たちは魔力の塊となってサタンエルに吸収される。使い魔たちはそれぞれ盾、剣、鎧に変化した。サタンエルは白い円盾に青竜刀を携え、竜の鱗の鎧を纏った脈絡なく禍々しい姿となる。


 サタンエルの姿を見て、その場の誰もが黙り込んだ。一目見て理解したのである。サタンエルの魔力は、ウリエルに匹敵している。しかし、無謀にもフィリップはサタンエルの前に出た。


「ハッ! 貴様の魔力などこけおどしだ! そのような幼子の姿で私に勝てると思うな! そろそろ私の力を試させてもらおう! ひねり潰してやる!」


「おい、バカ、やめろ!」


 顔面を殴られたことも腹に据えかねていたのだろう、フィリップがサタンエルに掴みかかる。ウリエルは制止したがもう遅い。


「問題ない! この種なしに可能ならば私も魔王、いや、神に転生……」


 何やらまくしたてながら迫るフィリップに、サタンエルは無造作に青竜刀〈オオカミの剣〉を振り下ろす。フィリップは全く反応できない。頭のてっぺんから股下までフィリップはすっぱり両断され、その場に崩れる。己が斬られたことにも気付かず一撃で魂を破壊されたフィリップは、羽虫にさえ転生することもできず、完全に消滅した。


「さぁ、次は誰だ?」


「面白くなってきたじゃねぇか……! やり合おうぜ! どちらかが消えるまで!」


 ウリエルは〈炎の剣〉を抜き放ち、サタンエルに打ちかかった。フィリップの消滅でウリエルの魔力は少し減ったが、それでもサタンエルより多少低い程度だ。サタンエルも〈オオカミの剣〉と〈ユニコーンの盾〉をフル活用して立ち回る。


 体格ではウリエルに遠く及ばないサタンエルだが、片手で刀を振ってもウリエルに力負けしない。ありあまる魔力が身体能力をブーストしているのだ。時に盾で剣を受け流し、あるいは盾を使って体でぶつかり、ウリエルと互角に戦う。


 戦いながら、どんどんサタンエルの動きがよくなっていく。サタンエルの魔力が増しているのだ。ついにサタンエルはウリエルの剣を盾でがっちりと受け止め、ぶんと刀を振った。


 ウリエルの簡素な鎧が切り裂かれ、血が吹き出る。ウリエルはいったん距離をとり、尋ねた。


「やるじゃねぇか……! どういうからくりになってるんだ?」


「俺の魔力は俺が感情を昂ぶらせればそれだけ増える……!」


 これこそがサタンエルの力だった。サタンエルの精神が尽きない限り、魔力は事実上無限である。丁寧に教えてやる必要はないが、わかっていようがわかっていまいがどうせウリエルには対抗する手段がある。


「とすると、心が折れない限りおまえはどこまでも強くなるんだな!」


「そういうことだ」


「いいじゃねぇか! 最後まで抵抗してくれよ! でないと面白くないからな!」


 ウリエルは喜び、魔力が増加していく。封印している魔王のうち、ルシフェルの力を使ったのだ。ルシフェルの力なら敵と同等まで自分の魔力を上げることができる。


「さぁ、本気で殴り合おうじゃねぇか!」


 ウリエルは天使の翼を広げ、ふわりと宙に浮いた。第二ラウンドの始まりだ。

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