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27 拒絶

「フィリップ様。あなたは皇帝となって、この国をどのようにするおつもりなのでしょうか?」


 ロビンソンに訊かれ、意気揚々にフィリップは答える。


「無論、裏切り者どもを全員処刑して神聖皇帝たる私による親政を行うのだ」


 フィリップはじろりとベルトランらサラマンデル王国高官たちの方を見る。ベルトランは少したじろいだ。ロビンソンはさらに追求する。


「その親政の内容を訊いているのですが」


「内容? そんなものは即位してから考えればよかろう。由緒正しきベルナルド王家の正統後継者にして天使である神聖皇帝たる私が統治するのだ。何をやっても上手くいくに決まっている。現実に我が領土ピスケスは繁栄を極めているではないか」


 フィリップは悪びれもせずに言い放った。目は真面目で、にこやかな笑みを浮かべてさえいる。冗談で言っているわけではなく、本気のようだ。


 独裁政権を倒して民主主義にすれば万事うまくいくと某国が自由の名の下に爆撃したり、神を信じていれば万事うまくいくと宗教的指導者が宗徒に自爆テロを敢行させるようなものだろう。外野には様々な感想があり、別の思惑で動いている者も少なからずいるのだろうが、信じている当人は全くもって真剣なのだ。


「ここにいる者どもよ、今私に従うと宣言するなら許してやってもよいぞ? ウリエル殿も数人助ける程度なら許してくれるだろう。何せ私は寛大なる神聖皇帝フィリップ一世だからな! ハッハッハッ!」


「あなたなどには国を任せることはできません。お引き取りください」


 上機嫌に声を上げて笑うフィリップにロビンソンはノータイムで冷たく言い放った。フィリップはピクリと眉を動かす。


「ロビンソン殿。私の何が気に入らないのかな? 不敬だぞ?」


「あなたは先ほどから自分の話しかしていない。そのような者には皇帝など務まりません」


 声を荒げるフィリップに、ロビンソンは淡々と告げる。


「今の皇帝陛下は違います。確かにシン様は、こちらの世界の出身ではありません。フィリップ様が仰るとおり、種なしでもあります。帝王たる教育を受けたわけでもありません。脇が甘いところもあります。しかし、民のことを第一に考えておられる」


 フィリップの主張は一貫して「自分がやれば上手くいく」。これだけでしかない。正しいのかもしれないが、間違っている。


「それは葵様、麻衣様、羽流乃様、冬那様も同じです。それぞれがそれぞれのやり方で民のため、国のために働いておられる。フィリップ様、あなたには王者たる資格はない」


 ロビンソンに王失格の烙印を押され、フィリップは気色ばむ。


「ロビンソン殿! 私を愚弄するのか! 民など我ら王族の所有物! 王に仕えるべき貴族であれば、誰もがそこの種なしなどではなく私を皇帝と認めるだろう!」


「認めるわけないでしょう、あなたなんて!」


 ここで声を上げたのはベルトランだった。引っ込み思案で温厚なはずのベルトランはたまりかねたといった様子で、青筋立てて怒る。


「陛下を見捨てて逃げたあなたを、我々が認めるとお思いか! 我々を愚弄するのもいい加減にしろ!」


「逃げた? 違うな、あれは戦略的撤退だ。それに兄上などより私の方が王にふさわしかった。私を選ばなかった父上や、のうのうと玉座に座っていた兄上こそ、王にふさわしくなかったのだ」


 傲慢にもフィリップは断言する。フィリップの目には一点の曇りもない。ベルトランは烈火のごとくさらに怒る。


「どうして気付かないのですか! あなたがそういうお方だから、あなたのお父上はあなたを選ばなかったのです!」


「正義は私にあるというのに、愚かなことだ。没落貴族で種なしなんぞの女に気に入られただけで随分偉くなったものだな、ベルトラン?」


 怒ると認めることになると思ったのか、フィリップは笑みを崩さない。しかし、その端正な顔は徐々に引きつりつつあった。


「我々のサラマンデル女王は羽流乃様だけだ! そして、我々の皇帝もシン様のみ! 我々は絶対にあなたを認めない!」


 ベルトランは鬼の形相で断言し、周囲は静まりかえった。しかし、やがてサラマンデルの高官たちから拍手が巻き起こる。


「よく言った! ティメオ様を裏切ったおまえなんぞ、誰が認めるか!」


「貴様のせいでヴィラール殿をはじめ、何人が討ち死にしたと思っている!」


「皇帝陛下と女王陛下万歳! 逆賊フィリップを討て!」


 フィリップからすれば現サラマンデルの高官たちは裏切り者で、今さら降伏しても許される見込みはゼロだ。しかし、開き直ったというだけではないだろう。シンと羽流乃が皆に認められているから、こういうことになった。


 あからさまに不愉快な顔をして、フィリップはベルトランたちから顔を背ける。そして次はカルルに水を向けた。


「前シルフィード王カルル殿。どうですか? 私の軍門に降っては。もう一度あなたをシルフィード王にしてやってもいい」


 カルルは毅然と即答する。


「断る。余や余の臣下に寛大な処置をした麻衣殿を裏切るつもりはない。グノームで御家再興できたのも麻衣殿のとりなしのおかげだ」


「子どもだから簡単に転ぶと思った? 舐めてんじゃないわよ、クソゲス野郎。あんたに従うくらいなら、神代と歌澄の方がず~っとマシだわ」


 カルルの後を受けて間宮は暴言を浴びせ、さらにレオンは告げる。


「我ら一同麻衣様のお力で取り立てられた身……! つまらない逆恨みで兄を裏切る輩とは違います」


「そうですぞ! 我らは決して麻衣様を裏切ったりはしません!」


「我ら亜人が大手を振って町を歩けるのも麻衣様のおかげだ!」


 ドワーフやワーウルフなど亜人族を含めたシルフィードの家臣たちも、フィリップにノーを突きつけた。


「もちろん我らもシン様と葵様しか認めない!」


「我らを納得させられる女王は葵様だけで、皇帝はシン様だけだからな!」


「にわかに力を手に入れて驕ったか、成り上がりの一族風情が! 本物の魔王にひれ伏すがよい!」


 グノーム貴族にまで野次を飛ばされ、屈辱にフィリップの体が震える。ポンとウリエルがフィリップの肩を叩いた。


「まあ気にするなよ。全員泣いたり笑ったりできなくすりゃあいいだけだ。俺に任せておけ」


「……うむ、ウリエル殿の言うとおりだ。この場にいる全員、塵一つ残さぬよう消滅させてくれ」


「任せとけ! 俺が一騎打ちで叩き潰してやる!」


 ウリエルはドンと自分の胸を叩く。シンと葵も覚悟を決め、手をつないだ。


「本当にみんな、バカばっかりだ……。降伏すればよかったのに……! ここまでみんなに言ってもらって逃げるわけにはいかないね……! やってやる、やってやるさ……! 僕は負けない! 絶対に勝ってみせる!」


 葵の目には涙が光っていた。シンは葵の手を強く握る。


「その意気だ、葵! 俺たちは負けない!」

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