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20 最強 vs 最強(前)

 力に任せて鈍器を扱うかのように剣で殴り合うルシフェルとウリエルを、両軍は固唾を飲んで見守る。下手に近づけばルシフェルの魔力に当てられて発火、炎上してしまうため、両軍とも近づけないのだ。


 お互いの鎧を殴る鈍い音が響き続ける。ルシフェルは頑丈なプレートアーマーで身を守っているし、ウリエルの無骨な鎧もルシフェルの一撃によく耐えていた。しばらくは地味な殴り合いを続けるが、ルシフェルは後ろに飛び退いていったん距離をとる。


「埒が明きませんわね」


「そうかあ? 俺は楽しいが」


 ウリエルは歯を見せて笑う。おぞましいことに、本気らしい。この男もミカエルに天使にされただけあって、相当にいかれている。


「だが、おまえがじれったいというのなら希望は叶えてやろう。戦神の星、火星よ! 戦火を広げてやれ!」


 今回召喚したのは火星だった。重力や温度に変化はないが、何が変わったのか。答えはすぐに出た。


「さぁ、戦いを楽しもうぜ!」


 懐に飛び込んできたウリエルの剣撃がルシフェルの胴を打つ。ルシフェルの鎧は剣で叩かれたくらいではびくともしないのだが、なんと鎧にヒビが入った。


「グッ……!」


 鎧を通して伝わってきた衝撃で肺の息が強制的に吐き出され、ルシフェルは苦痛にうめく。ルシフェルは痛みをこらえながら剣をぶん回してウリエルを追い払い、反撃に転じる。


「なるほど……! こういうことですか……!」


「これなら決着は早いだろ! 派手にやろうぜ!」


 打ち上げられた火星の力で、お互いの攻撃力が増幅されているのだった。二人は鎧に頼って受けをおろそかにすることができなくなり、剣を激しく打ち付け合う。しかし〈カトリーヌ・フィエルボワ〉も〈炎の剣〉も尋常ではない魔力を込められた聖剣なので、武器が壊れたりはしない。ウリエルはわりあい力任せに攻めてくるが、ディフェンスの技術もしっかりしている。剣技で争っても互角だ。


「全ての攻撃の威力が上がるなら、手はありますわ! 『炎の兵』!」


 羽流乃の背後でマスケット銃を携えた『炎の兵』たちが立ち上がる。ルシフェルがマントを炎の翼に変えて空中に退避すると同時に『炎の兵』は射撃を開始した。威力を増した銃弾はウリエルの鎧をたやすく貫き、たちまちウリエルは血まみれになる。


「そうくるか! なら、こちらも使えるものを使わせてもらうぜ!」


 ウリエルが〈炎の剣〉を鞘に収めてそう宣言した瞬間、突如として周囲が沼地に変貌した。『炎の兵』は沼地に飲み込まれ、白い蒸気を上げながら消滅してしまう。


「これは……リヴァイアサンの能力!?」


 ウリエルは封印した魔王の能力を使えるのだ。リヴァイアサンが倒した敵の血で沼地を作るように、ウリエルは撃たれた自分の血で沼地を作って『炎の兵』を全滅させたのである。


 だが『炎の兵』でウリエルを倒しきれないだろうというのは予測済みだ。ウリエルを地上に釘付けにできればいい。本命は、急降下しての一撃である。


「『炎熱の一撃』!」


 〈カトリーヌ・フィエルボワ〉から勢いよく炎がほとばしり、ルシフェルは十メートルはあろうかという炎の大剣を背負ったような状態になる。ルシフェルは、炎をウリエルに振り下ろす。


「だったらこれでどうだ? 『蒼の渦』!」


 沼地から浮き上がった大量の水が渦を形成しながらぶつかってくる。たちまちルシフェルの炎に触れて、『蒼の渦』は水蒸気爆発を起こした。ルシフェルとウリエルは爆風に吹き飛ばされるが、両者ともにすぐ体勢を立て直す。


「〈童子切安綱〉!」


 ルシフェルは武器を換装した。プレートアーマーは鎌倉武士の大鎧に替わる。ルシフェルは〈童子切安綱〉を鞘から抜かずに鞘の中ほどを持った。


「目覚めなさい、〈雷上動〉!」


 〈童子切安綱〉は炎で包まれ、二メートルを超える巨大な和弓〈雷上動〉に変化する。ルシフェルは〈雷上動〉に矢をつがえ、空中から次々と放つ。ウリエルは回避に徹するが、沼地に着弾すると矢はミサイルのように爆発を起こす。ウリエルが打ち上げた火星の効果は消えていない。当たれば勝負を決められる。


 ここまでの戦闘からウリエルに飛び道具がないのはほぼ確定だろう。今のウリエルはリヴァイアサンの能力を使えるが、リヴァイアサンだって射撃戦は苦手だ。このまま矢を撃ち続け、強引に距離を詰めようとしたところで仕留めてやる。


「そういうやり方はなぁ、腐るほど見てきたんだよ! 最も巨大なる木星よ、出てきやがれ!」


 ウリエルは火星を消して次の惑星を呼び出す。火星の数十倍はあるのではないかという巨大な惑星が、空に出現した。


「な!? これは……!」


 ルシフェルの放った矢ががくんと軌道を変えて落下し、ウリエルのところに到達することなく地面に墜落する。ルシフェル自身も体が重くなって飛んでいられなくなり、じわじわと高度を下げていく。


 ウリエルの木星の効果は、重力増幅なのだ。射撃は全て重力に引かれウリエルに当たる前に落ちてしまうし、飛行することも不可能である。ゆっくり降下するだけとなったルシフェルに、ウリエルは必殺の魔法を放つ。


「つまらん飛び道具に頼って勝ったと思ったか? 浅はかなんだよ! 『氷の封印』!」


 沼地の水分が全てルシフェルに引き寄せられ、凍り付いていく。重力で動きを制限されたルシフェルに、避ける術はない。魔封の氷が、ルシフェルを覆う。

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