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18 連携

 しゃにむに突っ込んでくるウリエルに対してアスモデウスがやったのは、一丁の銃の引き金を引くことだけだった。ブラックホールの爆発で消された無数のマスケット銃を呼び出すことも、使い魔の種をばらまくこともない。


 アスモデウスの射撃でウリエルは右肩を吹き飛ばされるが、それだけだ。接近したウリエルはアスモデウスに掴みかかる。


「焦ってるのがバレバレなんだよ……!」


「クッ……!」


 アスモデウスは抵抗することができない。先ほどの爆発で魔力を消費しすぎたのもあるが、それだけではない。体が重く、魔力を上手く練ることができないのだ。明らかに、ここのところ葵を悩ませていた体調不良の影響が出ていた。


 だが、これだけ派手にやってウリエルを追い詰めていれば充分だともいえる。爆発を見て駆けつけてきた羽流乃が、刀でウリエルにバックアタックを掛ける。


「チェストォ!」


 後頭部を思いっきり殴打されたウリエルはさすがにふらつき、たたらを踏む。シンと葵は分離して、シンはウリエルから離れるが、地面から出た途端に葵は倒れてしまった。


「葵!」


 慌ててシンは葵を助け起こす。


「久しぶりに愛の合体をしたから疲れちゃったみたいだね……」


 葵は軽口を叩くが顔は真っ青で、体は小刻みに震えている。魔王になった反動が葵を襲っているのだ。


「シンちゃん! 葵はウチに任せて、早く!」


「おう!」


 シンは遅れてやってきた麻衣に葵を預けて、一人ウリエルと戦う羽流乃の元に走る。


「魔王になるまでもありませんわ……! シン君、右斜め四十度です!」


 炎を纏った〈和泉守兼定〉を振るいながら、羽流乃は指示を出す。ウリエルは限界まで消耗している。魔王になるために一瞬でも隙を見せるより、攻め続けるべきだ。シンは応えた。


「地の力に火の支配! 鉄よ! 俺に剣を!」


 即座に呼び出した剣で、シンは言われたとおりの角度で斬りかかる。ウリエルはひらりと身をかわすが、逃げ道を塞ぐように羽流乃は動いていて、鋭く刀を振りウリエルの左腕を切り落とす。


 ウリエルは強引にシンと羽流乃の間に飛び込んでくる。シンと羽流乃の同士討ちを狙っているようだが、そんな手は通用しない。


「シン君!」


「おう!」


 シンと羽流乃は阿吽の呼吸でウリエルに交代で斬りかかり、間断なく連続攻撃を掛ける。こうやって羽流乃と肩を並べて戦うのはかなり久しぶりだが、連携は錆び付いていない。小学生時代は二人でこうして波状攻撃を仕掛け、年上の強敵を幾人も倒してきた。今回も勝てる。


「いいぞ! 戦いはこうでなくっちゃな!」


 ウリエルはシンと羽流乃から距離をとることなく、楽しそうに拳や蹴りで戦い続ける。本人の趣味のような気もするが、一瞬でもシンと羽流乃に隙を与えれば魔王になって勝負を決められてしまうと判断しているのだろう。


 このまま削っていれば勝てる。ただしそれは、他者の介入がないと仮定しての話だ。爆発に巻き込まれたのだろう、薄汚れた風体のミカエルが、押っ取り刀でこちらにやってくる。


「これも神の思し召し……! ウリエル、すぐに助けて差し上げましょう」


 ミカエルは使い魔のドラゴンを召喚し始める。相変わらず芸がない物量作戦だが、まだ魔王になっていない今は有効な戦術だ。


「引っ込め! 興ざめだ!」


 ウリエルは気分を害したようで、青筋立てて怒鳴る。ミカエルは少したじろぎながらも反論した。


「し、しかし、このままでは魔王に勝てません」


「心配するな。ちゃんと勝ってやる」


 ウリエルは不敵な笑みを浮かべた。同時に、凄まじい魔力がウリエルの中で形成され始める。


「な、何ですの、これは!」


 さすがの羽流乃も慌てるが、だからといって刀を操る手が鈍ったりはしない。動きを止めたウリエルに、しっかりと渾身の突きを決める。だがウリエルの体は鋼のように硬くなり、羽流乃の刀を弾き返してしまう。


「羽流乃、俺たちの力で……!」


 いくら硬くなってもルシフェルの力なら砕けるはずだ。シンは言いかけるが、ミカエルが顔面蒼白で叫んで遮る。


「い、いけませんウリエル! 何を考えているのですか!」


「ハッハッハッ! 俺はどんな手を使ってでも魔王を倒すんだ。おまえはビビリすぎなんだよ、バ~カ!」


 ウリエルは愉快げに笑う。いったいウリエルは何をしようとしているのか。シンが疑問に思う暇もなく、ミカエルはこちらに向き直り、いつになく素早い動きで一切の躊躇なく滑らかに土下座を決めた。


「皆さん、お願いです! 今は引いてください! ウリエルは自爆しようとしています!」


「な、なんだって!?」


 一気にシンと羽流乃の血の気が引いた。羽流乃は即断する。


「あの魔力で自爆されると魔王になっても耐えられませんわ! 撤退しましょう!」


「クソッ……!」


 冬那を助けられずに帰るのは心苦しいが、仕方がない。シンは急いで指輪の魔力を解放して、撤退する。


「風の指輪! 俺たちを運べ!」


 指輪の魔力により風が吹き、海岸に泊まっている水軍の船も含めてその場から消失を始める。


「冬那、必ず助けるからな……!」


 シンのつぶやきとともに全員の姿がその場からかき消えた。

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