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17 種なし

 二次元三兄弟を見送ったシンは、我に返って周囲を見回してみる。シンと一緒に来た三十人は次々と先にこちらの世界に来ていた人や、この世界の住人に連れて行かれ、どんどん少なくなっていた。


「あれ? 俺って友達少ない……?」


 シンは頭を抱える。見覚えのある顔はシンをスルーしてどんどん他の人をスカウトしていた。確かにシンはできるだけクラスの全員と仲良くしようと心がけているため、特にもの凄く仲が良い相手というのはいない。強いて言うなら部活仲間の羽流乃、麻衣、冬那とは仲がよかったが、羽流乃は記憶喪失。麻衣と冬那の姿は広場にない。


 自分から声を掛けた方がいいのだろうか。しかしそんなことをしている者はいない。皆、誰かしらのスカウトを受けている。なぜシンにだけは誰も食指を伸ばさないのだろう。


 シンは羽流乃に訊いた。


「……なあ、どうして俺は無視されてるんだ?」


 羽流乃はつまらなさそうに言う。


「そりゃあ、使えないと思われているからでしょう」


「なんで俺は使えないんだ?」


「あなたからは魔力を全く感じませんわ。普通、転生してきた人間──特に黄金の国から来た者は、かなり魔力が強いはずなのに、おかしいですわね……」


 そう言いながら羽流乃は落合が西村に持たせたのと同じ、透明な鉱石をシンに渡す。シンは透明な鉱石をつかんで力を込めてみるが、鉱石はうんともすんともいわない。


「……えーっと。どういうことだ?」


 シンはわかっているのに尋ね、羽流乃は死刑宣告を行う。


「あなたは一切魔法を使えない『種なし』ですわ。この世界に生きる資格がありません」


「……俺、これからどうすりゃいいの?」


 数秒間フリーズした後、シンはすがるような目で羽流乃を見上げる。羽流乃は哀れむような目でシンを見返した。


「さぁ? 能力がない者は何もできないし、誰にも必要ともされないとしか言えませんわね」


 そこにおろおろしながら狭山がやってくる。


「俺も行く所ないんだけど……」


 シンは自分一人が取り残されているのではないと知って、少し胸を撫で下ろす。しかし羽流乃は、すぐ狭山に仕事を斡旋した。


「あなたはうちが引き取りましょう。王国軍の兵士になるのです。宣誓書を書いてください」


 羽流乃はそう言って狭山の胸に一枚の紙を押し付ける。しかし兵士とは。さすがに狭山は戸惑った様子だ。


「兵士……? それって、危ないんじゃ……」


「確かに危険です。しかし、王国民を守る誇り高き仕事です。衣食住は保証しましょう。相応の給金も支払います」


「他に選択肢はないのか……?」


 狭山は半泣きだ。羽流乃はきちんと質問に答える。


「ここで声が掛からないなら、あとは冒険者くらいでしょうか。未開地を探検し、素材を集める仕事ですね。しかし冒険者は兵士と同等以上に危険で、稼ぎは実力次第となります。まず兵士になって技術を身につけ、冒険者に転身するのが一般的です」


「……わかった、兵士になる。どうせ死ぬことはないんだからな」


 しばらく視線を宙にさまよわせた後、狭山は決断した。兵士になれば衣食住が保証されるということは、逆に仕事に就けなければ衣食住は保証されないということなのだ。冒険者となるリスクも大きいので、多少ブラックでも乗るしかない。


「では、あちらで入隊の手続きをしてください」


 羽流乃の指示に従い、狭山は広場の隅に走って行った。設営されているテントが受付らしい。


 シンはぎこちない笑みを浮かべながら羽流乃に申し出る。


「お、俺も兵士にしてもらえないかな~、って思ってるんだけど……!」


「少しでも魔力があれば王国軍に兵士として入隊できるのですけど、『種なし』は無理ですわね。魔力がなければ武器を扱えませんから」


 羽流乃はバッサリとシンの入隊を断る。気付けば広場に残るのはシンと羽流乃の二人だけになっていた。羽流乃は周囲を見回してから、シンの元から離れる。


「それでは私も任務があるのでこれで失礼します。ヘルへイム卿が仰ったように、あなたは自由です。お好きになさってください」


 シンはどこに足を踏み出すこともできず、立ち尽くすしかなかった。

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