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17 ウリエルの戦い

 シンは膝を突いたまま仁王のように立ちはだかるウリエルを見上げる。すぐに冬那を取り戻さなくては。


「葵、力を貸してくれ!」


「……うん!」


 ここのところずっと体調不良が続いている葵だが、青白い顔をしながらも力強くうなずいてくれた。麻衣と一緒にベルゼバブになっても、風や雷は〈炎の剣〉で消されてしまうだろうし、未だ輝き続けている太陽の下ではハエたちも活動できない。相性的に、ここはアスモデウスだ。


 シンと葵はしっかりと手をつなぎ、口づけを交わす。




「世界を作るは地の力! 背負いし罪は命を育む色欲! 甦れ、魔王アスモデウス!」




 黄色のマントが風にはためき、黄金の鎧が輝く。色欲を司る地の魔王アスモデウスは破壊天使ウリエルと対峙する。


「誰かのために戦おうとするとき、色欲は愛に変わる……! さぁ、冬那を返してもらおうか……!」


「やってみろよ。おまえごときにできるのならな。俺はおまえら全員と戦ったことがあるが、おまえが一番弱かった」


 ウリエルは不遜に笑うが、安い挑発に乗るアスモデウスではない。


「なら試してみなよ。『鉄の槍』!」


 アスモデウスの背後に十数丁のマスケット銃が出現し、一斉に火を噴く。雷鳴のような轟音が響いた。派手な射撃に紛れてアスモデウスは使い魔の種も蒔いていて、無数のヤギが島の植物を食べ始める。


 ウリエルは銃弾に撃ち抜かれながら突撃してくるが、地面から『金の盾』を出現させてアスモデウスは受け止める。さらに、ばらまいた使い魔の種には、戦闘用の黒い雄ヤギを混ぜていた。


 大きな角を振りかざし黒い弾丸のごとく雄ヤギたちは五月雨式にウリエルに突撃を掛ける。ウリエルの蹴り一発で雄ヤギの一匹一匹は即死するが、そこは数で補う。『金の盾』だけでは止められないウリエルの突撃は矛先を逸らされて鈍った。


「さぁ、まだまだこれからだ!」


 さらにアスモデウスは空中に浮かべていたマスケット銃を操り、ウリエルの背後に回り込ませて発砲する。四方八方から撃ち込まれる銃弾に、ウリエルは為す術なく身を削られていく。


 シンや冬那の読み通り、相性の面でアスモデウスはウリエルを圧倒する。魔力は高いが全体的に大味な戦闘スタイルのウリエルは、〈炎の剣〉で打ち消せないアスモデウスのトリッキーな攻撃に対処しきれない。前々世に無気力試合で敗れたときとは違う。守るべきものの存在は、アスモデウスの能力を飛躍的に高める。


「チッ、うっとうしいな! 小細工は通用しないと、何度言えばわかる!」


 ウリエルは苛立たしげに吐きながら、召還した太陽の火力を上げた。血だるまになりながら、ウリエルの魔力は衰えない。周囲の森は発火し、ヤギたちも燃え始める。マスケット銃もあまりにアスモデウスから離れたものは熱に耐えきれず爆発した。慌てて麻衣が魔法で防護しながら翼を広げて効果範囲から逃げる。


 即座にアスモデウスは生贄用も含めて、全てのヤギの命を収穫した。ウリエルの太陽はますます燃え盛っているが、島の全域を覆うには至っていない。確実を期すなら、もう一度使い魔の種を蒔いてもっと魔力を集めるべきだ。もしくは『鉄の槍』をさらに召還し、ウリエルの体力を削るという手もある。単調にならないように剣として使っても他の武具とは一線を画す『命の剣』で戦ってもいい。


 だが、アスモデウスはそのどれもを選ばず、勝負に出ることにした。


「『命の剣』……!」


 アスモデウスの手に、金色に光り輝く剣が出現する。重力を操る、アスモデウスの最強の魔法を発動するのだ。


「来いよ! 俺には通じない!」


 ウリエルは血走った目で狂ったように笑いながら親指で自分の胸を指す。


「お望み通り、一撃で葬ってあげるよ……!」


 アスモデウスは『命の剣』を高く掲げた。剣先に光さえも吸い込む黒い渦が形成され、大地が震える。このブラックホールを喰らえばいかに破壊天使といえどもひとたまりもないはずだ。質量の塊なので〈炎の剣〉で消すこともできないだろう。アスモデウスは剣を振り下ろし、ブラックホールを放つ。


「最も小さき水星よ! 俺に力を貸せ!」


 ウリエルは太陽を消して別の天体を呼び出すが、関係ない。ブラックホールは一直線にウリエルに向かって猛進する。ウリエルはブラックホールを叩き潰そうと剣を振る。その瞬間、大爆発が起こった。




 反射的に『金の盾』を周囲一面に展開したアスモデウスは全くの無傷だ。後ろに退避していた麻衣たちも無事だろう。しかし舞い上がる粉塵の中でよろりと起き上がる影を目にして、アスモデウスは笑うしかない。


「……まさかこんな手で返されるとはね」


 ウリエルが召還した水星の力で、周囲の重力を低減された。ブラックホールは超重力で大質量を圧縮したものなので、いきなり重力軽減を受ければ重力で引きつけていた質量が飛び散って大爆発を起こす。爆発してしまえば、魔力を伴う重力による攻撃は成立しない。


「小細工も、これくらい派手にやらないとな」


 爆風に晒されて両腕を失い、鎧は綺麗さっぱり吹き飛んでいた。さらには体中に火傷の跡が残っている。それでもウリエルは立っていた。すぐに傷は再生を始め、元通りになる。かなりの魔力を消費したものの、ウリエルはアスモデウスの必殺技を凌ぎきったのだ。


「でも、それだけのダメージだ。君も自由には動けないんじゃないの?」


 外見は修復していても、もうウリエルには大技を出す魔力はない。〈炎の剣〉を再召還することさえできていなかった。アスモデウスはマスケット銃を一丁呼び出し、構える。


「それは……どうだろうな?」


 ウリエルはニヤリと笑みを浮かべ、またまっすぐに突っ込んできた。

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