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14 バルサーモ島

 その後も、シンたちを狙って幾度か魔物は襲来した。その度にシンたちは魔王の力で退ける。誰か一人とだけなら途中で魔力が尽きて終わっているが、速攻を徹底して冬那、麻衣、羽流乃でローテーションすれば何とでもなる。


「次はウチの番やな!」


「ああ! 麻衣、頼む!」


 空から飛来した半人半鳥のガルーダを相手に、ベルゼバブへと変身して挑む。




「世界に満ちるは風の力! 背負いし罪は命を守る暴食! 蘇れ、魔王ベルゼバブ!」




 麻衣とのキスは久しぶりだ。抱きしめればすっぽりとシンの腕で包める小さな体が愛おしい。その余韻を楽しむ間もなく、シンの体はベルゼバブのそれとなる。


「自分の弱さを認めたとき、暴食は分け合う強さに変わる……! おまえごときにウチらをどうにもできんって、教えたるわ!」


 漆黒の翼をはためかせてベルゼバブは空へと舞い上がり、突風を巻き起こす。ガルーダは飛んでいられなくなり、墜落する。


「即、決めさせてもらうで! 『雷の剣』!」


 いかに強力な魔物でも、魔王と比べればネコとトラくらいに差はあった。ハエを使って魔力をチャージせずとも勝てる。ベルゼバブは手の中で雷を剣の形に生成し、ガルーダの心臓に突き刺す。ガルーダは無数の雀に転生して消えた。




 そうしてシンたちがバルサーモ島に上陸したのは、日没の一時間ほど前だった。上がってみれば、鬱蒼と木の茂る普通の島だ。


 船の方を振り返ってみると、例の小太りの船員はまだマストの影で震えていた。彼の姿を見ていると不安になる。シンたち五人はこれから島の中央を目指すことになるが、船を放置して大丈夫だろうか。


 悩むシンの視線に気付いた羽流乃は申し出る。


「私が残って船を守りますわ。時間稼ぎくらいはできるでしょう。もし襲われたら大砲で合図しますので戻ってきてください」


「わかった。頼む」


 羽流乃なら天使が現れない限り、勝てはしないまでも負けることはない。シンは船を羽流乃に託し、森に足を踏み入れた。


 日暮れ間近ということで、森の中はほとんど夜のように薄暗い。それでもシンたちが道を間違えることはなかった。


「……プンプン匂うで。やばそうな香りが」


「……そうだね。想像以上に危なそうだ。僕は怪しいと思ってたけど、来てよかったかもしれない。こんなのが蘇ったら僕らでもきっと勝てないよ」


 麻衣と葵が険しい表情で話し合う。シンさえも、森の奥から漂う禍々しい雰囲気を感じていた。シンたちはこの邪悪な魔力の在処を目指してまっすぐ進むだけでいい。




「葵、大丈夫か?」


 途中でシンは葵に声を掛ける。少し歩いただけのはずなのに、葵は息を切らして酷く汗をかいていた。まだ調子が戻っていないらしい。


「大丈夫……。大したことはないさ」


 葵は毅然と顔を上げ、歩き出す。まだ顔色が悪く、無理しているのが丸わかりだ。シンは麻衣と冬那に目配せして、少し歩くペースを落とした。二人も何も言わずに会わせてくれる。




 日没間近というところで、やがて少し開けた平野に出る。苔むした石造りの神殿が見えた。とってつけたように神殿の正面には十字架が取り付けられていて教会風となっているが、きっと元々はそうではなかったのだろう。雰囲気的にはシンたちが最初に出現した転生の祭壇に似ている。


 シンたちは神殿の前で立ち止まり、観察する。ドアなどはなく、中は丸見えだ。部屋の真ん中に置かれた棺。そこに破壊天使が眠っているのだろう。


「間違いなさそうですね」


 冬那は緊張の面持ちで生唾を飲み込み、麻衣は吐き捨てる。


「ほんまにおぞましいわ。中に入る必要ないやろ。外からぶっ壊してまおうや」


「そうだな」


 シンは同意する。幸い、ここは植生豊かな無人島だ。アスモデウスになってヤギに森の草木を食べさせ、最大出力の『命の剣』で粉砕すれば眠っている破壊天使はひとたまりもなく消滅するだろう。


 しかしシンたちが行動を起こす前に、その男はシンたちの前に立ち塞がる。


「そういうわけにはいきませんね……」


「な!? 先生!?」


 現れたのはミカエルである。フィリップの水軍が島に近づいている様子はなかったし、空を飛ぶ魔力を感知することもなかった。いったいどうやってこの島に上陸したのだ。シンには皆目見当がつかなかったが、すぐに葵は見破った。


「なるほど……。僕らの船に忍び込んでいたんだね」


「ご名答です。眠る天使を虐殺しようというあなた方のたくらみを阻止するため、私は船員になりすまして船に乗り込んでいました」


 言われてみれば、ミカエルの体型は動きが悪かったあの小太りの船員にそっくりだった。水軍は四方八方から人を集めて即席で編成した急ごしらえの寄せ集めだ。ミカエルが潜入するのは簡単だっただろう。ミカエルは他の船員の目を盗んで島に降り立ち、追いついて来たのだった。


 そもそもミカエルがバルサーモ島の破壊天使復活を企図しているという情報が、シンたちを動かすための罠だったのだ。ミカエルは魔王の護衛を受け、まんまと安全にバルサーモ島への上陸を果たした。


 ミカエルがいるなら工程が一つ増えるだけだ。こいつの存在は障害とは言えない。即座にシンは戦闘態勢に入る。


「今、ここでぶっ殺してやるよ、先生! 冬那、力を貸してくれ!」


 大量の使い魔を操るミカエルに、倒した雑魚の数だけ強化されるリヴァイアサンは相性がいいだろう。冬那は力強く応える。


「はい、先輩!」




「世界を満たすは水の力! 背負いし罪は命押し流す嫉妬! 甦れ、魔王リヴァイアサン!」




 魔王リヴァイアサンと化したシンと冬那はミカエルに飛びかかる。ミカエルも使い魔を召喚して対抗した。


「クッ! 来なさい、ドラゴンたち!」


 前回使っていたのと同様の、翼がない地走型のドラゴンを呼び出して突っ込ませる。いつも通りの自ら戦う気がない物量戦術だ。それでは勝てないということをわからせてやろう。


「『水の剣』!」


 リヴァイアサンは流水の剣で襲い来るドラゴンを次々と斬り捨てる。ミカエルは神殿の中に飛び込んだ。リヴァイアサンがミカエルを倒すのが早いか、ミカエルが破壊天使を蘇らせるのが早いか。勝負は次の局面に移る。

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