12 作戦
フィリップ派貴族の切り崩しに出ていた麻衣が戻ってきた。さっそく麻衣を囲んで会議が開かれる。
「ミカエルの行方、わかったで。ミカエルはやっぱり、ピスケスにいるって話や」
開口一番、麻衣は言った。軽く円卓はどよめいた。
「予想通りですわね……。となると、私たちも軍と一緒にピスケスに乗り込むべきでしょうね。そこで最終決戦ですわ」
羽流乃は発言する。ミカエルに関する会議ということで、出席者は羽流乃や葵も含めた魔王五人だ。二人の率いるべき軍もすでにキャンサーを目指して行軍を開始している。通常政務の対応に追われるロビンソンは欠席だ。葵がいれば間違った判断はしないだろうと信用してくれている。
「でも、慎重な彼のことだ。僕らに勝つために、何かしらの策を用意しているよ。そこは掴んだの?」
葵の質問を受け、麻衣は満面の笑みで首肯する。
「もちろんや。やつはバルサーモ島に渡ろうとしてるで!」
「やっぱりか……!」
シンは闘志をたぎらせる。ミカエルはバルサーモ島に眠る破壊天使を蘇らせる気なのだ。ただ、ミカエルといえど簡単にはバルサーモ島に渡れない。
「フィリップは配下の貴族に船に乗ってバルサーモ島に行くように命令してるそうや。囮ってことやな」
ミカエルには全く敵わないにせよ、貴族たちもそれなりに魔力が高い。貴族たちが囮となって襲われている間にミカエルがバルサーモ島に上陸するという作戦だった。囮にされる方はたまったものではない。そういうわけで何人かの貴族が寝返りを打診してきて、麻衣は事情を把握したのだった。
「やつらが計画を実行するのは一週間後の予定や。その前にウチらでバルサーモ島に行って、破壊天使とやらを潰してしまう! そうすれば万策尽きたミカエルは降伏すると思うで! そうすれば無駄に戦うことなくウチらの勝ちや! 後は煮るなり焼くなり好きにすればええ」
麻衣はまくし立てるが、冬那が首を傾げた。
「う~ん、それより遠征を前倒しにしてすぐ攻撃を始めるっていうのはどうですかね? そうすれば、ミカエルをバルサーモ島に送る余裕なんてなくなると思うんですけど」
意外にも冬那が乱暴な意見を出してきて、シンは苦笑する。
「いくらなんでもそりゃあ無理だろ。シルフィード軍とウンディーネ軍だけじゃ危ねーよ」
兵は拙速を尊ぶというが、まだグノーム軍とサラマンデル軍は到着するまでにはしばらく時間が掛かる。今動かせる手勢だけだと、敵地に乗り込むには心許ない。
「そうですかぁ? 私は、バルサーモ島に行く方が危ないと思いますけど。間違って破壊天使を起こしちゃっても嫌ですし」
葵も考え込む。相変わらず調子が悪いということで、こちらに来てもほとんどシンと話をせず個室に引っ込んでしまうばかりだったが、グノーム女王として仕事はきっちりこなしている。
「麻衣の掴んできた情報がミカエルの罠だっていう可能性もあるしね。でも軍が集結するのを待ってる時間はないか……。難しいね……」
葵は決断するには材料が足りないと見ているようだった。だが、今から情報を集めていたら手遅れになる。
ここで羽流乃は毅然と言った。
「罠だとするなら、罠ごと潰してしまえばいいでしょう。たとえ破壊天使が蘇ったとしても、私たち五人が揃っていれば負けるはずがありませんわ。こうやって私たちがあたふたすること自体、ミカエルの思うつぼなのです」
羽流乃らしいまっすぐ過ぎる意見だが、麻衣は賛同する。
「せやな。変に迷うより、さっさと動いた方がええやろ。動かん標的を潰すだけなんやから、ミカエルと戦うより安心安全や」
四人の視線は自然とシンのところに集まる。最後に決断するのはシンの役割だ。少し考えてから、シンは決断した。
「……先回りしてバルサーモ島に行こう。もし先生が追ってきたら、先生を倒す。それだけだ」
やはり羽流乃や麻衣の言うとおり、無駄に振り回されるよりシンプルに行くべきだ。あるかないかもわからない罠を気にして、下手に軍を動かせば犠牲者が大きい。たとえ罠だとしても、シンたちで勝てば済む。
慎重派だった葵はやれやれと追認する。
「まあ、君がそう言うならいいんじゃないかな。どうも引っかかるけど、気にするほどじゃないっていえばその通りだし」
「決まったからには、私に任せてください!」
冬那はさっそく水軍に連絡を取り、段取りを始めた。出発は今すぐにだ。道中襲われたら皆の力で切り抜けるだけなのでミカエル、フィリップの予定より遙かに早い。ミカエルより先にバルサーモ島に到達するのは確実だ。
麻衣の構想通り、直接対決せずにミカエルを降す。万が一の事態があったら、羽流乃の言うとおり正面から叩き潰す。全ての戦いを終わらせるという決意を胸に、シンは船に乗り込んだ。




