4 二次元三兄弟の報告
時間になったのでシンと冬那は謁見の間に移動する。ここの玉座も懐かしい。シンは真ん中に掛けて、左右に増設した玉座には葵と冬那が座る。しばらく待っていると、落合と西村が姿を現した。
「神代、久しぶりだな。歌澄に黒海も」
「ああ。事業は順調か?」
落合に声を掛けられ、シンは訊く。わざわざシンを名指ししての謁見なので、その件だろうとシンは思っていた。アストレアではラジオが広まり、毎日放送を聞く習慣ができつつあるが、地方や他の国ではそうではない。二次元三兄弟の野望のためには四王国にラジオを普及させる必要があった。
ラジオを量産するのはもちろんのこと、各地に放送局を作ってさらに番組も増強していく。人もお金も際限なく足りない。二次元三兄弟が単独でいくらがんばっても道のりは果てしなく厳しい。個人経営でやれるレベルを遙かに超えているのだ。
だから二次元三兄弟はシンを頼るしかない。国家の力で人と資本を集め、この世界では初であろう株式会社を起こす。この世界の技術水準からすると、シンの帝国は大きくなりすぎた。通信のできる風魔法の使い手を配置するにも限界がある。広い国土の隅々まで情報が瞬時に行き渡るようになるのは、シンとしても大きなメリットだ。未だ戦時中であっても投資に値する事業である。
なのでシンは事前に葵や麻衣らと相談して、二次元三兄弟から投資の要請があれば受け入れることに決めていた。懐事情はあまりよろしくないが、それでも資金は捻出する。また会社経営となれば三人だけに任せるわけにはいかないので、転生者だったり貴族だったりに入社を命令することになるだろう。資金繰りも起用する人材も、すでに叩き台は作成している。後は二次元三兄弟からの申し出があるかどうかだ。二次元三兄弟の意志に反して事業を接収する気はない。
事業について尋ねられた落合は、一瞬沈黙した後に答える。
「……ああ、順調だ。懸案だった声優も見つかったしな。まだ何人かで収録するラジオドラマまではできないけど、まず朗読番組で実績を作ろうと思ってる……」
「そうすれば王都の劇団が協力してくれるかもしれないからね。今はみんなで朗読する台本を練っているところなんだ」
落合の後を受け、西村が言った。ここまで投資の話はない。さらに一呼吸置いてから、落合は今後の見通しを語る。
「もう少しがんばって、俺たちの手でラジオドラマを放送する。評判になれば資金も集まってくるだろうから、それを元手に声優や絵師をスカウトしていこうと思ってる。まだまだお楽しみはこれからだぜ!」
「おう、そうなのか。楽しみに待ってるぜ」
シンはそう応じながら意外に思う。落合たちは投資話のために来たのではないらしい。では、何の話なのだろう。
シンが内心で疑問に思っていると落合が背後を振り返り、笑みを浮かべた。
「お、やっと来たか」
「神代、待たせたな」
扉を開けて入ってきたのは、長髪がトレードマークの二次元三兄弟次男、井川だった。そして井川は、傍らに癖毛の金髪白人系美少女を連れていた。彼女の顔を見て冬那は驚く。
「え、ジャネットさん!?」
「冬那、久しぶりね」
ジャネットは微笑む。シンも見覚えがある。冬那と一緒に転生してきた一般転生者だ。侍女に化けて王宮に忍び込み、シンに雇ってくれと直訴してきたが、葵に却下された。どうしてジャネットが井川と一緒にいるのだろう。
「縁あってジャネットには俺たちのところで声優をしてもらってるんだ」
今日のニュースを読んでいたのはジャネットだったらしい。通りで声に聞き覚えがあるわけである。さらに井川は告げる。
「そして……俺たちは、結婚することに決めた」
「け、結婚!?」
思わずシンは声に出す。二次元三兄弟の報告とは、井川の結婚のことだったのである。俺たちまだ中学生……とそこまで考えて気付く。俺だって結婚してるじゃん。しかも二人と。さらにもう二人増える予定もある。
「おめでとう。祝福するよ」
驚いているシンの隣で葵はパチパチと拍手を始め、冬那も同じように手を叩く。
「ジャネットさん、おめでとうございます! 是非結婚式には呼んでください!」
「ありがとう、冬那。あのときはごめんなさいね。ずっと謝りたいと思ってたの……」
ジャネットはシュンとするが、冬那は玉座から降りてジャネットの手を握り、祝福する。
「私は全然気にしてないので、謝らないでください! 私はジャネットさんに最初に助けてもらえなかったら、この場にいなかったかもしれないんですから。本当におめでとうございます! 幸せになってください!」
「ええ。あなたも幸せになってね」
ジャネットはシンの方をチラリと見てから言った。冬那がシンと婚約していることは、国中に告知している。さらにジャネットはシンの方に向き直り、謝罪する。
「陛下、王宮で直訴した件は申し訳ありませんでした。深く反省しております」
ジャネットは深々と頭を下げる。シンは元々気にしていなかったので、問題にするつもりはない。
「頭を上げてくれ。別に俺は何とも思ってない。それより、井川のことをよろしく頼むぜ」
「陛下のご慈悲に感謝します……」
その後は井川とジャネットのなれそめを聞いて、久しぶりに仕事を忘れて盛り上がった。




