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2 予期せぬ強敵

「火の力に水の力! 蘇れ、不死身の肉体!」


 王宮三階の窓から外に飛び出したシンは即座に指輪の力を発動し、ドラゴンを呼び出す。ドラゴンはシンを背に乗せ、アラビアンナイトのロック鳥を思わせる巨大な鳥の化け物に向けて一直線に突っ込む。


 ロック鳥の方もシンこそが敵であると認識しているようで、甲高い鳴き声を響かせながら脇目も振らずにシンの乗るドラゴンに襲いかかった。シンは剣を呼び出して炎を纏わせ、迎撃する。が、シンは一瞬で失敗を悟った。


「何だと!?」


 シンの剣はロック鳥の羽根の一枚さえ切り裂くことができず、羽毛を焦がしただけに終わる。この巨鳥、報告のとおり普通の魔物ではありえないほどの魔力を有している。シンは翼の風圧で小虫のようにドラゴンの背中から吹き飛ばされ、空中に放り出された。


「ドラゴン!」


 シンはドラゴンを呼ぶが、ロック鳥はドラゴンを標的に定めて集中攻撃し、シンのところに行かせない。ロック鳥の鋭い爪とくちばしであっという間にドラゴンはボロボロになる。その間も、シンは落下し続ける。


 地の指輪で重力軽減すれば地面に叩きつけられても死にはしないが、ドラゴンに乗る以外にシンには飛行する手段がない。地上戦になったところでシンには遠距離攻撃の手段が少ないし、今のところロック鳥はシンだけを狙っている。下手に地上に降りると、周りを巻き添えにする可能性が大だ。どうにか空中で反撃する糸口を見つけなくては。


「水の力に地の支配! 氷よ、防げ!」


 シンは氷の魔法を発動するが、空中に氷の壁は作れない。氷の壁はシンの直下に出現した。シンは魔力を一点に集中させ、氷をどんどん上に向かって伸ばしていく。


 指輪の魔力は、世界に満ちる負の感情を吸収したものだ。シンが使った程度で尽きることはない。問題はシンの集中力が保つかであるが、いくつもの激戦を経てシンの魔力を操る力は確実にランクアップしていた。


 氷は壁というより塔のようにグングンと伸び、シンのところまで到達する。シンは氷の塔を足場に地の指輪で重力を軽減し、跳躍。ドラゴンの背中に舞い戻る。すぐさまシンは雷の魔法を発動した。


「火の力に地の支配! 雷よ、焼き尽くせ!」


 至近距離で指輪からの雷撃を受け、さすがのロック鳥も少し距離を取る。その間にシンはドラゴンを上昇させ、上を取った。


 ここから先はルーチンワークで充分だ。下からシンを追いかけてくるロック鳥に、雷や炎を浴びせ続け、頭を押さえ込む。上を取ったことでドラゴンも余裕を持って戦えるようになり、シンの魔法をかいくぐってもロック鳥はドラゴンのブレスや爪で撃退される。


 それでもロック鳥はしつこく食い下がってくる。ロック鳥は傷だらけになっていたが、絶命する気配はない。


(いったいこいつ、何なんだ……?)


 シンは疑問に思わずにいられない。普通の魔物なら七回は死んでいるくらいに攻撃を喰らわせているのに、ロック鳥はピンピンしている。シンが倒しきれないのだから、人間の魔法では倒せないとみて間違いないだろう。勝てるとすれば葵たちの力を借りてシンが魔王になるか、ミカエルら天使が戦うしかあるまい。


 そんな化け物がどこからやってきたのだ。ミカエルがけしかけてきたのだろうか。シンしか目に入っていない感じからして、そんな気がする。


 ロック鳥は傷つけば傷つくほど興奮し、攻撃はどんどん苛烈になってくる。シンは有利な位置取りをしているにもかかわらず、追い詰められていく。




 しかしシンは自分が負けるとは毛筋ほども思っていなかった。シンの期待通り、彼女は現れる。


「シン君! 助けに来ましたわ!」


 背中のマントを炎の翼に変化させて飛行し、羽流乃は猛然とロック鳥に突進する。一度魔王となったことで、羽流乃自身の力も増大しているようだ。多分、人間としては最強ランクになっている。もしもシンが魔王にならず戦うのなら、きっと羽流乃には敵わない。


 〈和泉守兼定〉に炎を纏わせ、羽流乃は気合いの声とともに背後から一撃を見舞う。


「チェストォ!」


 ロック鳥の巨体が揺らぐ。すかさずシンは魔法を撃ち込む。


「火の力に地の支配! 雷よ、焼き尽くせ!」


 稲光が視界を埋め尽くす。これにはロック鳥もたまらず動きを止めた。この一瞬の隙があれば充分だ。羽流乃はドラゴンの背に飛び乗り、シンを抱き寄せる。


「お、おい……!」


 それしか手はないと確信していたにもかかわらず、昨夜のベッドでもっと大胆なことをしているにもかかわらず、羽流乃の手が背中に回され、シンは一瞬戸惑ってしまう。


「あなただけのために、私はあなたに唇を捧げると決めているのです! さぁ、私を受け入れてくださいまし!」


 勇ましいことを言いながら、羽流乃の顔は赤く上気して、少し震えていた。いつだって羽流乃は不安なのだ。本当にシンの心が自分とともにあるのか。早まっていく心臓の動悸を聞いて、シンは落ち着きを取り戻す。


「ああ……そうだな!」


 時間はあまりない。どちらともなく、二人は唇を重ねる。




「世界を滅するは火の力! 背負いし罪は力あるが故の傲慢! 蘇れ、最も神に近き堕天使、ルシフェル!」




 二人の体は炎になって混ざり合い、火の魔王ルシフェルは降臨する。シンと羽流乃が乗っていたドラゴンは消滅し、ルシフェルは炎の翼を展開して泰然自若と宙に浮かぶ。


 ルシフェルは剣さえ持とうとせず、肌着姿を晒すばかりだ。ロック鳥はルシフェルをひねり潰そうと飛びかかってくるが、その爪がルシフェルに届くことはない。ロック鳥の体はルシフェルに近づいた瞬間に炎上し、やがて灰となって消える。ルシフェルには、戦う必要さえなかった。

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