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プロローグ

「なるほど、サラマンデル南方への橋ですか……」


「ええ……。当地の貴族が領土防衛のために落としてしまったのです。彼らはすでに降伏しておりますが、カリオストロ大河の川幅ですと、簡単に橋を架け直すことが難しく、また渡し船も足りていないのが現状です。そのため交易が滞っており……」


「困った問題ですわね。ウンディーネ平定にまで影響しますわ」


 会議室の円卓で、羽流乃とベルトランは腕組みをして考え込む。他の大臣たちもこれといった名案は浮かばないようで、黙ってうつむいているばかりだ。


 戦争とベルナルド王家の崩壊に伴う内乱は、サラマンデル国内に大きなダメージを与えた。実際に戦闘が起きた場所はもちろんのこと、そこまで至らなくても防衛目的で橋や街道を破壊したり、住民から物資を徴発したり動員を掛けたりした場所には相応の爪痕が残っている。


 全く、戦争というのはとんでもない浪費だ。ただ動員を掛けただけでも、その分生産活動が滞るわけで、おまけに戦闘やら交通路の破壊やらで他所からも物資が入ってこないという状況に陥る。ついでにサラマンデルを拠点に南ウンディーネに出兵する計画が進行中で、そちらにも人と資材を割かれている。結果、一部の地域では食糧、生活必需品が不足し、住民の不満が爆発寸前になっているのだった。


 沈黙を破るべく、シンは発言する。


「よくわからないけど、橋を架けられればいいんだろう? 葵に頼めば、なんとかならないか?」


「「……」」


 土魔法を十全に操る葵であれば、いくら大きかろうと橋くらいなら魔法で作れるに違いない。街道の補修等も、葵なら簡単にやってのけるだろう。


 腹の中で考えていたことではあったようで、羽流乃がピクリと眉を動かす。しかし誰もシンの案に対して意見を言おうとしない。何かまずいことでもあるのだろうか。シンが首を傾げているとベルトランはおずおずと言った。


「へ、陛下……それも一つの案ではあるのですが、あまりグノームに借りを作るのはまずいのではないかと……」


 ああ、そういうことか。シンは嘆息する。


 確かに一理ある。何でもかんでも葵に頼んで、葵が解決するのであれば、羽流乃をはじめとするサラマンデル政府は何のために存在するのかわからない。明確にグノームの下に置かれているようで、貴族も領民も面白くないだろう。今だって、皇帝を名乗るシンが一緒にいることで不満をやわらげているのだ。そして彼らの悪感情は、羽流乃への反乱に直結する。


 つまらないプライドと切って捨てるのは簡単だが、サラマンデルはウンディーネを切り離しても面積的、人口的にこの世界一の大国だ。本気で抵抗されれば南ウンディーネで徹底抗戦を宣言しているピスケス伯フィリップまで勢いづいて収拾が付かなくなる。かといって遠征を延期してフィリップに時間を与えるのも危険だ。


 また、葵がただで要請を受け入れる保証もない。何らかの見返りを要求される可能性がある。特にプライベートで。それに葵に頼ること自体、羽流乃は嫌だろう。


 シンはチラリと羽流乃の方を見る。慎重な葵や、全体をよく見て突破口を探す麻衣とは、良くも悪くも羽流乃は正反対の気質だ。羽流乃なら事態を打破するため、攻撃は最大の防御だと考えて攻める決断をするのではないか。


 苦しくなっているのはフィリップのせいだと喧伝して、無理してでも南ウンディーネに攻め込み、不満を外に逸らす。最悪カリオストロ大河より南は捨てる覚悟だ。謀反されたとしても、どうせフィリップさえ倒せれば立ち枯れする。そうして外敵を一掃してから、改めて内政問題に取り組む。強引だが、迷いに迷って何もできないよりはずっといい。


 もし羽流乃がウンディーネを攻めると言い出せば、シンはどうするか。シンとしては領民の生活を第一に考えてほしいところだが、否定すれば羽流乃の面子は傷つく。サラマンデルの女王は羽流乃だと、みんなで決めた。シンが羽流乃の決断に口出しするのは間違っている。


 やがて羽流乃は顔を上げ、告げた。

 というわけで破壊天使編開幕です。


 私事ですが忙しい部署への異動が決まりました。月平均60時間残業だとか。ニートに戻りてぇ。平日の夕方に手動更新するのは難しくなりそうです。自動で夕方に更新するのがいいのか、朝や晩に手動更新するのがいいのか……。


 なお本作につきましてはすでに最終話まで粗方書き終えているのでエタる心配はございません。私が書いたものとしては初めて100ポイント超えを記録し当社比では好評のようなので、むしろ延長を考えているくらいです。やはりポイントはモチベーションになります。ブクマ等していただいた方はありがとうございます。感想等いただければさらに嬉しいです。


 本章から物語は終盤へ向かうことになります。もうしばらくお付き合いいただければと思います。よろしくお願いします。

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