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15 転生?

 その人物はシンたちの後ろから助走をつけてジャンプし、炎を纏った刀をドラゴンの頭に叩きつけた。


「チェストォ!」


 ナイフでバターを切るように、あっさりとドラゴンの頭が割れ、ドラゴンの巨体は真っ黒い煙を上げながら、シンの目の前に落ちる。ドラゴンの死体は光りに包まれ、無数のトカゲとなった。トカゲたちは大地を這って四散し、その場から消えた。


 シンは茫然自失で動けない状態の狭山を連れて退避し、それからドラゴンを倒したのが誰なのか理解する。


「羽流乃!」


「間に合ってよかったですわ。こんなところにドラゴンが出現するのは珍しいですわね……」


 銀に光る胸当てと真っ赤なマントを身につけた羽流乃は刀を肩に乗せ、一人つぶやく。胸当ての下につけているのは薄紅色の上着にミニスカートで、戦いの服装にしては露出が多く、心許ない。ゲームか何かのコスプレのようだ。


「なあ、羽流乃、ここはどこなんだ? 今のドラゴン……は何なんだ? 狭山はどうして無事なんだ? なんでおまえ、そんな格好をしてる?」


 シンは思わず羽流乃の肩に手を掛けて揺さぶりつつ、羽流乃を質問責めにする。羽流乃は反応できなかったのか一瞬キョトンとするが、すぐに烈火の如く怒り出す。


「無礼者! 平民風情が女王陛下から賜った私の衣装に手を触れるとは何事ですか!」


 羽流乃はシンを突き飛ばし、シンは尻餅をつく。


「羽流乃……? おまえ、何を言って……」


 シンはぼんやりと羽流乃を見上げる。RPGの登場人物のような格好の羽流乃には、違和感しか感じなかった。羽流乃は侮蔑の目でシンを見下ろし、尋ねる。


「私のことを知っているのですか?」


「知ってるも何も、同じクラスじゃないか……。おまえは頼れる委員長で、俺が副委員長で……、部活も一緒で……」


「クラス……? 委員長……? 部活……? よくわかりませんが、私があなたのような冴えない男と知り合いだったと?」


 羽流乃はシンに棘のある言葉をぶつけ、シンはうつむく。羽流乃にそんなことを言われるなんて。記憶喪失というやつだろうか。飛行機で化け物と遭遇するという事態に巻き込まれれば、確かにそうなってもおかしくはない。


 シンは校庭でバスが出発する前、羽流乃と手を繋いで歩いたときのことを思い出す。あのときシンは、羽流乃の強さに勇気づけられ、前を向いて歩いていこうと決意した。その羽流乃が、シンのことを忘れている。シンは愕然とする他ない。


「私は、転生したときに前の記憶をなくしているのです」


 羽流乃の言葉を聞いて、今度はシンたちが首をひねる番だった。


「転生……? いったいどういうことだよ?」


 言葉の意味はわかる。文字通り、死者が別の人間だったり生き物だったりに生まれ変わることだ。


 羽流乃は言った。


「あなた方は一度死にました。そして、この世界で新たな生を受けたのです」


 シンたちが一度死んだという羽流乃の発言に、皆がざわめく。シンだけが、ある程度冷静だった。墜落寸前の飛行機であの化け物を前にして、自分が生き延びられたと考えるのは現実逃避だ。


 羽流乃は皆の反応を意に介することなく話を続ける。


「私はあなた方の知る私ではありませんわ。今の私は、名門エゼキエル家のハルノ・エゼキエル・クレナイです。本来であれば、私はあなた方のような平民が触れられる存在ではないのです」


 そこまで言って羽流乃はシンをにらみつけた。当然ドラゴンの血にまみれた刀はかついだままである。今の羽流乃には、シンが服に触れたのはかなり失礼な行為だったらしい。


 ここでシンが動揺すれば皆に伝播する。シンは顔を引きつらせながらも冷静に追求した。


「よくわからないな……。なんでおまえがその……エゼキエル家の一人ってことになるんだ? べつに赤ちゃんからやり直したわけじゃないんだろ?」


 シンたちの現状を鑑みるに、転生といっても別の人間に生まれ変わったわけではなく、異世界で生き返ったという方が近い。なぜこの世界とは縁もゆかりもないはずの羽流乃が、名門貴族の一人ということになるのか。


「この世界と私たちが元々生きていた世界は、昔から交流があったからですわ。私たちがこの世界にこうして転生してきたのが何よりの証拠です。ですから自分の中にこちらの血が流れていることを証明できれば、貴族になることもできます。私が、この〈和泉守兼定〉に選ばれ、貴族となったように……!」


 羽流乃は美術品のように綺麗な刀を構えて見せる。どういう仕組みか刀からは炎が迸り、羽流乃の澄んだ瞳に真っ赤な刀身を映し出していた。


 シンたちは思わず数歩下がる。羽流乃は〈和泉守兼定〉を覆う炎を手品のように一瞬で消し、にこりとも笑わずに言った。


「今は実感がないかもしれませんが、魔法を使えるようになれば、元の体を捨て、転生したということを理解できるでしょう。私と一緒に来た人もそうでした」

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