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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
第3章 私はハーレム潰します/私もハーレム入りたいです!
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45 敗走

 本陣からは、ボロボロになりながら炎の壁を破り、遁走するミカエルの姿がよく見えた。勇敢に戦っていたオークたちも、敵に背中を見せて逃亡し始める。天使は敗れ、オークの長は討ち取られたということだ。


「……ここまでですな」


 緊急事態のため本陣に駆けつけていたヴィラールは冷徹に判断を下す。もうだめだ。サラマンデル軍に勝ち目はない。


「余は……余はどうすればよい?」


 簡易の王座に腰掛けた顔面蒼白のティメオ四世は、集まっている貴族たちに尋ねる。貴族たちもやはり真っ青のままうつむくばかりだ。


 ちなみに、集まっている面々の中に末弟フィリップの姿はない。フィリップは早い段階で戦況に見切りをつけ、独断で撤退したのだ。


 ヴィラールは砦を奇襲された時点で虎の子の重装騎兵隊を動かして敵軍に突撃を掛け、乱戦に持ち込んで逆襲することに成功していた。しかし中央のフィリップが敵前逃亡に等しい退却を敢行したことによって、自身も退却せざるを得なくなる。これを契機に全面に渡ってサラマンデル軍は押され始めることになった。そして、ヴィラールが本陣に駆けつける頃には完全にサラマンデル軍は敗勢となってしまった。


 沈黙を破ったのは、やはりヴィラールだった。


「私がしんがりを引き受けましょう。陛下は一刻も早くお逃げください。皆様は、陛下の護衛をお願いします」


 決まってしまえば話は早い。貴族たちは戦場を離脱すべくティメオ四世を馬に乗せる。


「軍旗や王座は誰が運ぶのだ?」


「敵の手に落ちぬよう、私が処分しておきましょう」


「……」


 ティメオ四世に訊かれ、さらりとヴィラールは答えた。ティメオ四世は言葉を失うが、さらにヴィラールはティメオ四世の王冠とマントも剥ぎ取る。


「お許しください。このようなものを身に着けていれば、敵のいい的になってしまいますので」


「う、うむ……」


「スコルピオに逃れるのではなく、直接サラマンデル本土を目指してください。スコルピオに逃げ込めば、おそらくロレンス家は陛下の首を手土産に降伏しようとするでしょう」


 軍隊の体をなしていない状態で、マグヌス火山帯を越えて落ち延びるしかない。ティメオ四世はさらに顔を青くした。




 ティメオ四世は出発し、最後尾を任されるベルトランだけが残った。ヴィラールはベルトランに声を掛ける。


「ベルトラン、陛下のことを頼む」


「ハッ……。命に代えても、陛下をお守りいたします」


「君の見立てはいつもおおむね正しい……。自信を持って、上申しなさい。もう、陛下に道を誤らせることのないように……」


「承知いたしました。ありがとうございます……!」


 土気色の顔であったが、ベルトランはうなずく。すぐにベルトランも出発した。ヴィラールの目から見ても、彼には才能がある。ベルトランならうまくやるだろう。まだ夜が明けていなくて追撃も難しいので、サラマンデルに逃げ延びるまでなら、多分問題ない。が、その後の保証は全くないし、死に場所の定まった老将にはどうすることもできない。


「陛下、どうかご無事で……」


 ティメオ四世の一行を見送った後、ヴィラールは軍旗や王冠を次々と炎の中に投げ込む。立ち込める黒い煙と嫌な臭いが、ベルナルド朝サラマンデル王国の落日を表しているようだった。だが、感傷に浸っている暇はない。ヴィラールにはまだ、グノーム=シルフィード二重帝国軍を食い止めるという最後の大任が残っている。




 ヴィラールは未だ踏みとどまっている兵士たちを激励し、二重帝国軍を迎え撃つ。彼らをできるだけ無事で返すのもヴィラールの仕事だ。


 街道からはずれつつ後退し、追いすがってきた敵をギリギリまで引きつけて鉄砲の一斉射撃を浴びせ、勢いを殺すという戦法でヴィラールは時間を稼ぐ。そうして少しずつを、闇に紛れて後方に脱出させた。


 そして最後に、残ったわずかな騎兵を先頭に敵本陣の方へ突撃を仕掛ける。皇帝の首をとれないことはわかっている。馬を使えば確実に逃げられるので、彼らこそ真っ先に逃がすべきだったのかもしれない。それでも陽動のため、ヴィラールは自ら先陣に立って突撃する。残った歩兵も後ろから続いた。


「我こそはサラマンデル王国軍大元帥ジャック・ヴィラール! 命を惜しまぬ勇者たちよ! 私の首がほしければくれてやる! 掛かってこい!」


 馬に拍車を入れて突撃し、ヴィラールは炎の魔法を振るって立ちはだかるグノーム兵を薙ぎ倒す。グノーム兵も踏みとどまって必死に銃を撃つが、ヴィラールは多少の傷をものともせずにひたすら前に駆け、陣形を破壊し続ける。


 そうしてヴィラールの軍勢はいくつかの陣を破り敵本陣に肉薄したが、そこまでだった。地面に伏せていた一人の近衛兵が至近距離でヴィラールを狙撃する。ヴィラールは脇腹をまともに撃ち抜かれて落馬した。


「神代を守るためだ! みんな、行くぞ!」


「狭山隊長に続け!」


 黒髪の少年兵の号令で、近衛隊の兵士たちが剣を手にヴィラールの元に殺到する。ヴィラールも剣を抜いて二、三人を斬り伏せたが、これ以上は無理だ。黒髪の少年兵は弾込めを終え、再び発砲する。銃弾はヴィラールの右肩を貫き、同時に突っ込んできた兵士の剣が振り下ろされる。


 ヴィラールが討ち取られたことで最後の突撃も収束し、サラマンデル軍の抵抗は終わった。

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