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14 異世界?

 体がやけに冷たかった。雪山で「寝てはいけない」というときの感覚に似ているのかもしれない。どんどん体温が吸い取られているのがわかっていながら、目を開けることができない。意識が曖昧になっていく。このまま消えてしまいそうになる。


 ただ、シンの体温を奪っていたのは冷たい石畳であって、豪雪でも吹雪でもなかった。体の痛みに耐えかね、シンは目を覚ます。


「ここは……」


 どこかの地下室のようだった。窓がなく床も壁も石造りで、牢獄のようだ。空気の流れはわずかで、すえた臭いが漂う。四隅には篝火が炊かれていて、部屋の全容を把握することができる。そこそこの広さがあり、あちこちでシンの同級生が倒れていた。


 シンは一番近くにいた男子に駆け寄り、起こす。


「おい、しっかりしろ!」


 眼鏡をかけた青白い痩せ形の男子はシンに揺すられ、眼鏡を直しながら体を起こす。二次元三兄弟の一人、西村だった。


「あれ? 僕ら、乗ってた飛行機が墜落して……」


 西村はうわごとのようにつぶやき、シンも意識を失う直前の状況を思い出す。飛行機を墜とそうとしていたのはコクピットにいた化け物だった。化け物の攻撃を受け、確かにシンは死んだはずだ。


 なぜ、シンたちはこんな部屋にいるのだろう。明らかに病院ではないし、まさか天国というわけでもあるまい。


 シンは西村と協力して倒れていたみんなを起こし、地下室から出ることを提案する。地下室にいたのは三十人ほどで、全員シンの同級生だった。


 羽流乃の姿は見当たらず、飛行機でシンの近くにいた者が一緒の部屋に入れられたというわけではないようだ。メンバーの顔を見ても飛行機での席順はバラバラで、位置関係はあまり関係ないらしい。クラスや交友関係、成績、運動神経などで考えてみても相関は見当たらず、法則性がわからない。ちなみに麻衣も冬那も葵もいなかった。


 シンを先頭に、一向は石畳の階段を上がっていく。地下室も階段も手入れが行き届いているのか、綺麗でしっかりしている。地上に出られたのは案外すぐのことで、眩しい日の光に目を細めながら、シンたちは外に飛び出した。


「なんだここは……!」


 乾いたそよ風が頬をなでる。シンたちは丘の上に出たらしく、眼下には青々とした草原が見渡す限りに広がっていた。


 こんな光景が、いったい日本のどこで見られるだろう。長野あたりならありえなくもないのだろうが、それにしてはカラッとしていて湿度が低すぎる。シンはヨーロッパの高原地帯を想起した。乳牛が放牧されていそうな風景だ。


 しかし、この地がそんなのどかな場所ではないということを、シンはすぐに知ることになる。


「神代君! あれ……!」


 西村が震えながら空を指す。シンは空を見上げ、息を飲む。


 そこにいたのは、てかてかした鱗で身を覆い、胴体の倍ほどもある翼をばっさばっさとはばたかせて空を飛ぶファンタジーの王様、ドラゴンだった。


 先程の悪魔のような化け物が、まるで猿か何かに思える。信じられない。思わずシンはドラゴンを凝視してしまう。そのため、自分たちがドラゴンに襲われる危険があることに思い至るのが一瞬遅れた。


 ドラゴンはヘビのそれを思わせる黄色い眼球をこちらに向け、勢いよく降下してくる。


「伏せろ!」


 シンは叫んだ。地下室に戻るのが最も安全だが、間に合わない。駆け出すと相手を刺激する可能性もある。いざというときは、自分が飛び出して生け贄になろう。それしか皆を救う方法はない。シンは恐怖心を押さえつけて、ドラゴンをにらみ、そのときに備える。


 しかし、他の皆はシンほど冷静ではなかった。シンの声に従ってその場に伏せたのは半数くらいで、残りはドラゴンを見て恐慌状態に陥り我先にと駆け出す。


「馬鹿! 落ち着け!」


 シンは声を枯らして皆を沈めようとするが、全く効果はない。ドラゴンはシンが危惧した通り、その場から走って逃げようとした者たちを追いかける。


「クソッ、待ちやがれ!」


 シンは囮になるべくドラゴンの前に飛び出そうとするが、ドラゴンの飛行スピードが速すぎて間に合わない。ドラゴンは一人の男子生徒に標的を定め、巨大なあぎとを開く。


「た、助けて……」


 男子生徒──クラスメイトの狭山は悲鳴を上げるが、ドラゴンの鋭い牙で咀嚼され、一口で丸呑みにされた。ドラゴンのあごから狭山の血が滴り、直下の草原を濡らした。一呼吸遅れて、狭山の肉片まで落ちてくる。凄惨な光景を見て、シンは絶叫した。


「狭山ッ……!」


 しかしシンが拳を握りしめている間に信じられないことが起きる。ドラゴンの真下、狭山の肉片が落ちていたあたりが光り、人型を形作る。次の瞬間、何事もなかったかのようにそこには狭山が立っていた。


「あれ? 俺、いったい……?」


 事情を飲み込めないのか、狭山はキョロキョロと周囲を見回す。シンにも全く意味がわからない。だがそのままでは危険だ。シンは即座に警告を発する。


「狭山、逃げろ!」


「えっ……? グェ~~~~ッ!」


 狭山は急降下したドラゴンにまた飲み込まれ、死亡する。しかし間を置かずまた狭山がいた辺りが光り、狭山は復活する。


 次こそ狭山を助けなければ。シンは再び狭山をロックオンするドラゴンに向けて駆け出す。間に合うだろうか。シンが焦る中、ドラゴンは狭山に襲いかかる。


 結論からいえば、シンが自分を犠牲にする必要はなかった。シンたちの背後から現れた人物が、ドラゴンを倒してしまったからである。

ここまで長かった……

今さらですが、この話を頭にもってきた方がよかったような……

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