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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
第3章 私はハーレム潰します/私もハーレム入りたいです!
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37 夜襲

 何やら外が騒がしい。せっかくいい気分で眠っていたのに。簡易ベッドから降りて、羽流乃は天幕から出る。


「何事ですか!」


「敵襲だ! あいつら、夜襲してきやがった!」


 不機嫌そうに山北が怒鳴る。ようやく太陽が出かかっている夜明け前という時間だ。火の魔法を使える者たちが照明弾を撃ち上げ、戦場は明々と照らされている。


 昨日は二重帝国軍と互角の戦いを繰り広げたサラマンデル軍だったが、今回はそれが嘘だったかのように押されている。シルフィード軍の一部が背後の砦を強襲して陥落させ、サラマンデル軍の退路を断つと同時に主力も動いて正面から仕掛けてきたのだ。


 砦にはヨハン家の家紋が刻まれた旗が翻っている。麻衣が間宮に軍勢を預け、奇襲作戦を敢行したのである。夜間に気付かれないよう明かりもつけず不案内な土地で敵の背後に回り込み、砦を落とすなど常識では不可能だが、遠くの方に見える砦を見て羽流乃は納得した。


 鉄砲を持ったワーウルフ族が砦に拠っている。夜目と鼻がきく彼らの先導を受ければ、こちらに気付かれず後ろをとることは可能だ。さらに彼らが鉄砲で明かりをつけないまま先制攻撃を仕掛け、大混乱に陥った砦を間宮の軍勢が蹂躙したのだろう。


 亜人に鉄砲を与えるなど普通はありえないが、女王が人間ではないシルフィード軍であれば抵抗は少ない。麻衣と間宮の作戦勝ちだった。


 対するサラマンデル軍は敵地での夜襲で恐慌状態となり、まともに戦えないまま押されまくっている。一部の貴族などは、勝手に戦線離脱を始めていた。慌ただしく国王ティメオ四世がいる本陣も後退していく。果たしてここから立て直せるのか。




 オークの軍勢は退かずに奮戦するが、多勢に無勢だ。正面を突破され、羽流乃たちの前にシンが現れる。


「さあ、全部返してもらうぜ!」


 シンは剣を構える。魔王の力が込められていないただの剣だが、ミスリルではなく鉄製なのでシンにも扱える。後ろには葵と麻衣も控えていた。指輪の魔力は回復している。シンは魔王の力も使うことができた。


「落ち着きなさい……。魔王を討ち取れば私たちの勝ちです」


 ミカエルは悠然と天幕から出てきて、のんきに宣う。間違ってはいないが、今まで寝ていて言うことか。


「ミカエル様の言うとおりです。すぐに決着は着きます」


 ガブリエルも冬那を引き連れて出てくる。


「私からシン先輩を奪おうとする人は、皆殺しにします……!」


 一晩掛けてガブリエルが調整したのが効いたのか、冬那はガブリエルに従順になっている。問題なく戦えそうだ。山北も闘志をたぎらせて吠える。


「神代、ちょっと勝っていて調子に乗っているようだが、俺たちには勝てない。今から思い知らせてやる」


 ミカエルは昨日、慎重すぎて機を逃した。だが自分がいればシンを殺すタイミングは逃さない。山北が考えているのはそういうことだろう。


 これもまた間違いではない。昨日の戦いぶりを見るに、ミカエルは防御は得意だが攻撃は苦手といえそうだ。使い魔や生命創造の魔法に才能が偏っていて、火力のある攻撃魔法は持っていないのだろう。かつての羽流乃を含めて、やたらと天使を増やそうとしていたのは火力を補うためだと思われる。羽流乃、冬那、山北、ガブリエルが連携して攻撃し、ミカエルがシンたちの反撃を抑えれば勝てるだろう。


「さぁ、皆さん。悪しき魔王を神の御許に送りましょう……。我々が負けるはずがありません」


 ミカエルの号令に従い、おのおの戦闘態勢に入る。まず、冬那が正面からシンたちの方に突っ込む。羽流乃は愛刀〈和泉守兼定〉を抜いて冬那に続く。


 だが、羽流乃がミカエルに従っていたのはそこまでだった。羽流乃は反転し、真正面からガブリエルに襲いかかる。冬那を操るのに気を取られていたガブリエルは全く反応できない。


「裏切るのですか?」


 ミカエルは能面のように表情を変えないまま尋ねる。迷わず羽流乃はガブリエルを刺した。


「ハッ、何を言っているのですか? あなたなんかに従う気なんて、最初からありませんわ!」


「ミカエル様に向かって不敬な……! 万死に値する!」


 ガブリエルは喚くが、どうでもいいことだ。〈和泉守兼定〉の刀身から炎がほとばしり、ガブリエルの体を焼く。腐っても天使の端くれであるガブリエルはこのくらいでは倒せないが、時間稼ぎには充分だ。


「今のうちです! 冬那さんを!」


 羽流乃は叫ぶ。もうミカエルに渡されていた借り物の力はいらない。羽流乃を覆っていたミカエルの鎧は弾け飛び、羽流乃は魔王の力を捨てた。



 冬那は糸が切れた人形のようにその場で倒れる。冬那の鎧は塵になって消滅し、冬那も魔王の力を失った。シンは冬那を助け起こしながら、はめられている指輪をはずす。


「大丈夫か、冬那!?」


 身に余る力を振るっていた反動に襲われているのだろう、シンは冬那を後方に下がらせようとするが、冬那は満足に歩くこともできない。自責の念に駆られた冬那は掠れた声を上げるばかりだった。


「シン先輩、私は……私は……麻衣ちゃん先輩や葵先輩を殺そうと……!」


「しっかりしろ! おまえはあいつらと指輪に操られていただけだ!」


 シンはそう声を掛けるが、体を震わせながら冬那はわずかに首を振る。


「先輩、違うんです……。私は自分の意志で麻衣ちゃん先輩や葵先輩を殺そうとしていたんです……! シン先輩と一緒になった二人が、うらやましかったから……! 二人がいなくなれば、私が選ばれるんじゃないかって、そう思ったから……!」


「冬那……!」


 動けない冬那はただただ涙をこぼす。シンはそんな冬那に掛ける言葉がない。しかし、シンの後ろから葵と麻衣が言った。


「そんなこと、僕も麻衣も気にしてないよ。だって、普通のことだから」


「せやで。ウチやって多かれ少なかれ、なんで羽流乃ちゃんが……葵が……って思ってきたし、行動もしてるんや」


「葵先輩、麻衣ちゃん先輩……!」


「我慢するのが冬那ちゃんのええところや。でも、ええねん。他にも冬那ちゃんにええところは一杯あるわ。シンちゃんやって、こんなくらいで冬那ちゃんのこと、嫌いになったりせんやろ?」


 麻衣から投げられたボールを、シンはしっかりと胸の前でキャッチする。


「当たり前だろ。俺は冬那のことを他のみんなと同じように、大事だって思ってる。そうじゃなきゃ嫁に来てくれなんて言わねえよ。これからも、一緒にいてくれ!」

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