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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
第3章 私はハーレム潰します/私もハーレム入りたいです!
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33 仕切り直し

 羽流乃たちはサラマンデル軍に従い、いったん退く。皇帝と女王が危険に晒されていたためグノーム、シルフィード軍は深追いしてくることなくその場に留まった。サラマンデル軍もそれ以上退くことはなくグノーム、シルフィード軍と対峙し続ける。背後の砦は依然サラマンデル軍が占拠しており、退路は確保してある。再戦して敗れたとしても、退却は可能だ。


 戦いが長期化して決着がつかないうちに日が暮れてしまったため、仕切り直してまた明日だ。中央では一進一退の乱戦の末押されるという結果になったが、右翼ではヴィラール率いる騎兵隊が間宮のシルフィード騎兵を相手に優勢だった。サラマンデル軍はスコルピオから物資を運ばせ、野営の準備を進める。


 羽流乃たちはオークの陣地に間借りして夜を過ごすことになった。将官用の天幕に入ろうとして、羽流乃は呼び止められる。


「どうして神代たちを取り逃がした? 一人二人は殺せたんじゃないのか?」


 山北は詰問するように羽流乃に尋ねる。山北の着ている鎧は激戦を物語ってボロボロだった。これは、一回くらい死んでいるかもしれない。これだけやって成果がないとすれば、彼には確かに怒る権利があるだろう。しかし羽流乃に受け止める気はない。羽流乃は澄まし顔で答える。


「何を言っているのですか? あなたはシン君たちを舐めすぎです。冬那さんを確保してきただけでも、充分な戦果でしょう」


 向こうの広場で、ガブリエルは冬那を眠らせようと懸命な努力を続けていた。冬那は「先輩助けて」とか「葵先輩は絶対に許さない。殺してやる」とかうわごとをつぶやきながら、魔力を放ち続けている。


 事前に聞いていた話では自分の魔力が全くない冬那を操るのは簡単だということだったが、全くうまくいっていない。決してシンを自分から求めようとしなかった冬那も、心の底では望んでいたのだろうか。自分だけが、シンの隣に立つことを。


 あるいは、冬那は戦っているのかもしれない。シンのために、みんなのために。自分のためにシンの敵に回った羽流乃と違って。


「それはそうだが……」


 冬那の姿をチラリと見た山北はトーンダウンし、羽流乃は畳みかける。


「あなたは冬那さんが好きなのでしょう? 喜びなさい。彼女だけは助けて差し上げますわ。不実なシン君や葵さんとは違いますから」


「な、何か勘違いしているようだな」


 尊大な態度で羽流乃は言い放つ。山北は思いっきり動揺していた。端から見ていればバレバレなのである。これで山北は問題の本質から目を逸らすだろう。


 羽流乃にシンたちを殺す気がないということを、山北に悟らせるわけにはいかない。羽流乃はただ、帰りたいだけなのだ。騒がしくも楽しかった何の変哲もない日常に。シン、麻衣、冬那、葵とともに。


 精々、山北のことは利用させてもらう。山北を騙すのは気が引けるが、シンのためなら自分は何でもする。そういう覚悟だった。



 羽流乃がシンのことしか考えていないのは、バレバレだった。こんな探りに易々乗ってしまうとは、相変わらず単細胞である。山北は中村先生から聞いている。「元の世界に戻してやる」と羽流乃を騙して味方につけていることを。大方、慎重すぎるミカエルは確実に全員を殺害できる状況までは持っていけず、一時撤退したのだろう。


(なんで、俺じゃダメなんだ)


 戦時なのに脳味噌が桃色に犯されている幼なじみを見て、失望するしかない。羽流乃ではなく、自分に。


 山北は羽流乃に全く相手にされていないことがはっきりして、ガッカリしていたのである。もう羽流乃のことなどどうでもいいし、最後には殺すつもりだった。なのに、心が羽流乃から離れない。


 冬那も同じだった。シンに助けを求めたり、かと思えば自分に靡かないので殺すなどと言い出す。ガブリエルのせいで精神不安定になっているのだろうが、非常に痛ましい。シンのことしか、言わないから。


(俺と神代で何が違うんだ……!)


 ぎりりと奥歯が音を立てる。本当は、だいたいわかっていた。しかし認められない。自分のプライドを守るためには、神代シンを完膚なきまでに叩き潰すしかなかった。



「かなりやられたな」


 ようやく動けるようになったシンは、本陣天幕内でベッドに座る葵に話しかける。疲れ切った表情で葵は答えた。


「完敗だったね」


「ああ。次こそどうにかして、羽流乃と冬那に帰ってきてもらわないと……!」


 シンが拳を握って熱く語るが、葵は嘆息しただけだった。


「君は本当に脳味噌が緩いね……。その頭は飾りなのかな? そんな悠長なこと、言ってられないだろう? 羽流乃も冬那も殺さないと、死ぬよ。僕らだけじゃなくて、僕らについてきている全員が」


 葵の指摘は正しい。だが、認めたくない。


「……冬那はともかく、羽流乃は正気なんだ。説得できるんじゃないかと思う。羽流乃が戻ってきてくれたら、冬那だって助けられるはずだ」


 シンたちが死ぬことを、羽流乃だって望んではいまい。


「どうやって? 戦いながら、君が話するの?」


 それは無理だろう。話をするくらいの余裕があるうちは、羽流乃も絶対に乗ってこない。ミカエルらにシンたちが殺されかけて、はじめて寝返りを考え始めるはずだ。しかし現世に帰るのが目的の羽流乃は、必ず半殺しくらいに留めてくる。だけど、何もしないまま羽流乃や冬那と殺し合うのは嫌だ。


「どうにか中村先生……ミカエルとガブリエルだけを狙って隙を……。う~ん……」


 シンは言ってみるが可能なら先ほどの戦いでそうしていた。どうにも手がない。そもそも軍隊同士の戦いでも勝てるかはわからないのだ。シンが頭を抱えてうなっていると、天幕に間宮を伴い、麻衣が入ってきた。


「普通の方法では無理やで、シンちゃん」


 麻衣はシンと葵がどんな遣り取りをしていたかだいたい察して発言する。まあ、その通りだ。なら、どうすればいい?


「まず、私があんたを勝たせてあげるわ。安心しなさい。戦争では絶対負けないから」


 間宮は名将ヴィラールと対峙するも劣勢だったという話だが、いつもと変わらず元気だ。どうやら必勝の作戦を思いついたらしい。


「だから、中村先生や山北はあなたがどうにかしなさい。私が勝ってもあんたが負けたら無意味よ」


 間宮の後を受け、いつになく真面目な顔をして、麻衣は言った。


「今から、シンちゃんを羽流乃ちゃんに会わせたるわ。ウチの力で」

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