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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
第3章 私はハーレム潰します/私もハーレム入りたいです!
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32 敗北

 アスモデウスは持てる魔力を惜しみなく放出し、雄ヤギとマスケット銃を召還し続ける。雄ヤギも数を揃えれば生贄にして『命の剣』に変えることが可能だ。瞬間最大風速なら、アスモデウスは他の命を取り込まなくてもミカエル、ガブリエル、羽流乃、冬那を魔力で圧倒できる。その一点に勝機を見出し、アスモデウスは攻撃の手を緩めない。


 無数のマスケット銃から吐き出される弾丸の嵐で天使も冬那も動けなくなった。ミカエルはゴーレムたちを前に出して壁を築き上げ、持久戦の構えをとる。


「落ち着きなさい。すぐに魔王の魔力は尽きます」


 ミカエルは言うが、マスケット銃の射撃と同時に雄ヤギも突撃を繰り返している。守っているだけでは、保たないはずだ。しかしゴーレムに守られて余裕があった冬那は動き出す。


「こんな乱暴な作戦、私たちには通用しません!」


 いきなり、足が地面に沈んだ。アスモデウスは慌てて足下に目をやる。地面が液状化し、足場が泥濘と化していた。


「これくらい、関係ないさ……!」


 アスモデウスは虚勢を張るが、みるみるうちに雄ヤギの突撃は勢いを失う。雄ヤギは機敏に動いてゴーレムを翻弄していたのだが、それができなくなったのだ。ゴーレムは緩慢に腕を振るい、雄ヤギたちは次々と倒れていく。


 その分、アスモデウスはマスケット銃を増やして対抗するが、いくらなんでも無理がある。何も手を打たなければ凌ぎきられてしまう。いっそ今展開している雄ヤギを『命の剣』に変えるか。やつらを一撃で倒せるほどのブラックホールにはならないが、このままではジリ貧だ。


 冬那は見透かしたように言う。


「葵先輩、何かたくらんでるでしょう? でも、遅すぎますよ」


 アスモデウスが言い返そうとした瞬間、足下で電流が走ったような痛みを感じた。アスモデウスは思わず下を見る。一匹のヘビが、アスモデウスの足に噛みついていた。


 即座にアスモデウスは一丁のマスケット銃を下方に向け、ヘビの頭を撃ち抜く。液状化した大地を泳いで接近してきたようだ。反応が小さすぎて、全く気付かなかった。しかし逆に言えば、その程度の存在ということである。


「これが君の仕込みかい? こんなちゃちなヘビで、僕がどうにかなるわけがないだろう?」


「先輩、私の毒を舐めすぎですよ」


 冬那はニッコリと笑う。アスモデウスは両足が震えていることに気付く。少量とはいえ、魔王が作り出した毒だ。短時間、アスモデウスの動きを鈍らせる程度はできる。足下が泥沼になっているのと相まって、アスモデウスはほとんど動けない状態に追い込まれた。


「さよなら、先輩!」


 冬那は魔力を帯びた大渦を水面に作り出し、アスモデウスに向かって放つ。避けられない。アスモデウスが作り出した『金の盾』を易々と破壊し、アスモデウスは濁流に呑み込まれる。



 濁流が収まった後、液状化していた地面は元に戻る。冬那も魔力を使い果たしたようだ。アスモデウスは身に着けている鎧に持てる魔力の全てを注ぎ込んで凌いだが、ここまでだった。魔王の姿を維持できなくなり、葵の魂は離れる。シンは元の体に戻り、膝を突いた。葵も地面から這い出てきて、倒れる。


「さぁ、葵先輩、死んでもらいますよ。絶対に許しません……! 私のシン先輩を奪ったあなたが悪いんです……!」


 冬那はニコニコしながら水でできた剣を携え、近づいてくる。シンも葵も、全く打つ手がない。先ほどのダメージで、声を出すことさえままならないのだ。戦うなんてとうてい無理である。


「私を選んでくれないシン先輩も、みんなからシン先輩を奪おうとする葵先輩も死ぬべきです……! フフフフフ……! シン先輩は私のもので、みんなのもので……!」


 まるで支離滅裂だった。冬那は半ば暴走状態にあるようだ。何かに取り憑かれたかのようにブツブツとつぶやきながら冬那は剣を振り上げ、そして間に合った羽流乃がその腕を止めた。アスモデウスのマスケット銃が消えたので戻ってきたのである。


「私たちの目的は、あくまで現世に帰還すること……。二人を殺すのは、私が認めませんわ」


 羽流乃はチラリとガブリエルの方をにらむ。ガブリエルは冬那に使う魔力の量を増やした。冬那の目は焦点が定まらなくなり、だらりと腕も下げる。


「さぁ、あとは麻衣さんだけですわね」


 麻衣を捕まえて、現世に帰る。羽流乃の計画はあと一歩のところまで来たが、実行されることはなかった。当の麻衣が軍を引き連れて現れたのである。


「あそこや! 絶対にシンちゃんと葵には当てたらアカンで!」


「任せろ! 神代と歌澄をやらせはしない!」


 麻衣が連れてきたマスケット銃兵たちは羽流乃たちに遠慮なく銃弾を浴びせる。中には狭山もいて、露骨に羽流乃を狙ってくる。魔王の力を得た羽流乃にはどうってことはないのだが、ガブリエルは違った。冬那を操るので精一杯だったのに、集中力を乱される。


「先輩を、早く殺さないと!」


 冬那は突然叫び、また剣を作ろうとする。羽流乃は慌てて止め、怒鳴る。


「何をしているのですか! しっかりと手綱を握りなさい!」


「……」


 ガブリエルは何も言わず苦しげな顔をするばかりだ。天使をもってしても魔王の力を操るのは相当難しいらしい。ミカエルはあっさりと決断する。


「一時撤退です」


 周囲を見回せば、サラマンデルの軍勢は完全に排除され、羽流乃たちは敵中に孤立しつつあった。グノームとシルフィードの軍が奮戦し、サラマンデル軍は相当の被害を出して後退中なのである。


 人間の兵士など恐れるに足りないと言いたいところだが、あの中には麻衣がいる。麻衣はマスケット銃を撃たせ続けるとともに若手貴族を集めて決死隊を募り、こちらに突撃しようとしていた。貴族がその魔力で必死の時間稼ぎをしている間に、もう一度シンと結ばれてベルゼバブになる気なのだろう。


「仕方がありませんわね……!」


 殺す気で戦えば勝てるだろうが、それでは意味がない。羽流乃は冬那を脇に抱えて抑えながら退却した。

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