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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
第3章 私はハーレム潰します/私もハーレム入りたいです!
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20 記憶

 夕食後、シンはしばらく仕事をしてから寝ることにする。自分と葵の部屋に向かって歩いていると、冬那とばったり出くわした。トイレにでも出ていたようだ。


「あ、先輩……もう寝るんですか?」


「ああ。そうだな」


 いつもなら部屋で葵とゲームでもしているところだが、今日は葵がいない。一人でゲームをしても楽しくないだろう。そもそも電気を作り出せる葵がいないのでゲームは動かない。


「今日は葵先輩いないんですよね?」


「向こうで泊まる予定だってさ」


 そこまで言ってシンは気付いた。冬那はやたらとそわそわしている。一応新婚したてで、本妻はいないというこの状況。何かあると思ってしまうのも無理はない。シンが突撃すれば、いける気がする。


(いや、他の二人とも何もないんだからな……)


 シンは浮かび上がった誘惑を即座に打ち消す。勝手に葵の部屋に冬那を入れたら怒られそうだし。いや、しかし冬那の部屋のベッドはダブル……!


 シンが悶々としていると、背後から声が掛けられる。振り返れば、葵が立っていた。


「シン、冬那、こんなところで何をやっているんだい?」


「あれ? 葵、今日は帰ってこないんじゃなかったのか?」


 笑顔を引きつらせながらシンは訊く。葵は答えた。


「もっと向こうの貴族を説得するのに時間が掛かると思ってたんだけど、あっさり終わっちゃってね。シルフィードも遠征に参加するって一日で決まっちゃった。麻衣はよくみんなを従わせてるよ。期待させちゃって悪かったね」


 ニヤニヤしながら葵は冬那の方を見る。


「バ、バカ、俺はそんなことしね~よ!」


「はいはい、君はそういうへたれだったね。もう疲れちゃった。寝るよ。どうせ君は何もしないんだろうけどさ」


 葵はスタスタと歩き出す。シンも葵に従って部屋に向かおうとするが、ふと立ち止まってしまう。誰かに見られている気がする。


(気のせいか……?)


 無意識に、皇帝の証としてはめっぱなしの指輪に親指で触っていた。


「何やってんの、シン。置いてくよ?」


「わ、悪い!」


 葵に急かされ、慌ててシンは後を追う。視線が気になるが、まあいいだろう。敵だったら指輪の魔法でぶっ飛ばしてやるだけだ。



 冬那は二人仲良く寝室に向かうシンと葵を見送る。


(そうですよね……。二人は夫婦ですもの)


 何もしないと言っていたし、シンは基本的に全員を大事にしてくれる。それでも、うらやましい。そんな感情が湧いた。冬那だって一応はシンの嫁だが、あくまでシンは冬那を助けるために結婚したに過ぎない。いつもそうだ。冬那はみんなとシンが一緒にいるのを後ろから見るポジションである。


(でも、それでいいんです……。みんなが幸せだったら、私も幸せだから……)


 全員、冬那の大切な人なのだ。冬那がシンを追いかければ、みんなが傷つく。それだけは許されない。


 しかしただ一人、今すでに幸せとはいえない人物がいた。その人物は今もずっと物陰から、シンと葵の姿を覗いている。羽流乃だ。


「……」


 羽流乃は自然と並んで歩いていくシンと葵をにらみつけながらも、切なげに唇をキッと結んでいた。自分の感情の正体がわからないという風である。羽流乃は記憶と一緒にシンへの好意も忘れてしまったのだろうか。冬那の願望かもしれないが、そんなわけがないと思う。


(それでは、紅羽流乃の記憶も蘇らせましょうか?)


 唐突に冬那の頭の中に声が響いた。冬那をこの世界に導いた天使の声だ。近くにいるのだろうか。冬那は周囲を見回すが、仕事をしている侍女しか見当たらない。


 冬那は天使に懇願する。


「お願いします。羽流乃先輩の記憶を蘇らせてください……」


(その願い、確かに聞き届けました……。そして、あなたにはこれを)


「え……? これは……?」


 突然、冬那の掌が淡く光る。気付けば、シンがつけているのと同じ青いサファイアの指輪が冬那の手の中に出現していた。水の指輪だ。


(その指輪はかならずあなたの力になってくれます……。いざというときは、水の指輪を二つ同時に使いなさい)


 その一言を残して、声は聞こえなくなった。しかし心配することはない。天使なら必ず冬那の望みを叶えてくれる。



 虚空に向かって話しかける冬那の姿を見て、隣の侍女は怪訝な顔をした。同じように侍女の姿をして王宮に忍び込んでいた天使ガブリエルはほくそ笑む。


(チェックメイト……ですね。魔王たちを排除する準備は整いました)


 この王宮でシンを暗殺してしまうことができれば簡単だったが、さすがは魔王の片割れ。ガブリエルの気配に気付いて警戒感を露わにしていた。襲いかかれば、返り討ちにされていただろう。


 正攻法を選ばざるをえないが、天使二人と魔王二人というバランスでは勝ちは危うい。魔王は一人ずつしか顕現できないといっても、魔力切れを気にせず戦われたら二対一程度ならひっくり返される。天使側にもっと駒が必要だ。


 だから、羽流乃に目をつけていた。ガブリエルには、誰かに願われることで自分の力をブーストできるという能力がある。自分の能力を大きく超える願いは叶えられないが、便利な力だ。冬那に願われたことで、騒ぎを起こさず、こっそり羽流乃の寝室に忍び込み、記憶を呼び戻すことができる。


 エゼキエル家の洞窟に隠されていた指輪を渡したことで、冬那に対する布石も完了した。せいぜい、魔王どもは仲間割れで自滅してくれればいい。勝つのはミカエル様だ。侍女たちに紛れ、ガブリエルは夜が更けるのを待った。

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