10 ハーレム
「シン、もっと僕を見てよ! どうして他の女の子のことばっかり見てるのさ!」
「いや、そんなこと言われても……」
日本酒をコップに一杯。葵が飲んだのはたったのそれだけだ。にもかかわらず葵は顔を真っ赤にして、隣のシンに抱きついてくるといった有様だった。こいつ、まさかこんなに酒に弱いとは……。
「せやせやシンちゃん、もっと家族サービスするべきやで! 主に下半身を使って!」
麻衣も反対側から抱きついてくる。おまえ、絶対酔ってないだろ……。でも、アルコールが入っているせいか二人ともいつもより体温が高くぽかぽかと暖かい。酒の力も相まって、日が落ちて気温は下がっているけれど、暑いくらいだ。
「お二人とも、あまりにはしたないですわよ」
見かねて背後で警備に当たっていた羽流乃が口を出す。それでも葵も麻衣もシンから離れようとしない。
「何? うらやましいの?」
「羽流乃ちゃん、ほんまは仲間に入りたいんやろ? ウチはわかってるで」
「人を馬鹿にするのも大概にしてくださいまし!」
割と本気で、烈火のごとく羽流乃は怒るが、二人には馬耳東風である。
「修学旅行で抜け駆けして告白しようとしてたくせによーゆうわ」
「普段から『シン君は私の男』オーラ出しまくってたしね~。硬派ぶってたけど陰険な女そのものだったよ、君は。それでいて乱暴なジャイアニズムを振りかざすんだから、反吐が出るね」
「何の話か全くわかりませんわね! 私がそこの冴えない男になびくことなど、ありえませんわ!」
前世の話をされるも羽流乃は一蹴する。葵と麻衣が多分に脚色を加えているとはいえ、シンは悲しい気持ちになった。今の羽流乃は、やはり前の羽流乃と全然違う。シンは酒に没頭することにした。かなり酒に強いシンであるが、浴びるように飲めば酔うことはできる。その間も女子たちの話は続いていく。
「今は立場が逆転してもーてるからって開き直るのはやめよーや。冬那ちゃんもほんまは羽流乃ちゃんに腹立ってたんちゃうの?」
麻衣に訊かれ、冬那は苦笑する。
「いえいえ、そんなことはないですよ。好きな人を独占したいっていうのは、女の子だったら当然ですから」
「それなら、冬那ちゃんも……」
「いえ、私は所詮途中参加の後輩ですから。みんなが幸せだったらそれでいいんです」
「……」
麻衣は何か言いたげに黙り込んでしまう。葵はシンの肩を激しく揺さぶる。
「ねぇ、シンもはっきり言ってよ! 僕のことが好きだって!」
「ああ? 何か言ったか?」
全く話を聞いていなかったシンは酒臭い息を吐きながら葵の方を向く。
「なんでそうやってすっとぼけるのさ~! せっかく結婚までしてるのに! 僕を愛してるって、言ってよ!」
「おう、葵、愛してるぞ」
シンは真顔で葵に告げた。どうも悪酔いしてしまっているようだ。全然頭が働かず、本音がそのまま出てしまう。
「シ、シンちゃん、ウチのことは!?」
「麻衣ももちろん愛してるさ」
「シンちゃん、嬉しい!」
麻衣はシンのほっぺたにキスをする。
「あっ、君だけずるいぞ! 僕も……!」
続けて葵もシンにキスをする。ああ、気持ちいいなあ。そうだ、お返ししないと。
「えっ、ちょっと、シン……!」
シンは思いっきり葵の唇に口づけた。突然のことに、葵は真っ赤になってフリーズする。続けてシンは麻衣の唇にもキス。麻衣もはわわと慌て、顔を赤らめてうつむいてしまう。そして、シンは冬那を呼んだ。
「冬那、こっちに来いよ」
「え、はい……きゃっ!」
麻衣の隣にいた冬那は遠慮がちに距離を詰める。シンは葵と麻衣に抱きつかれていながら手を伸ばして冬那を持ち上げ、自分の膝に座らせる。
「冬那、大好きだ」
そう言ってシンは冬那の唇にもキスをしようとする。
「せ、先輩……。ダ、ダメですよ! 先輩には葵先輩と麻衣ちゃん先輩がいるじゃないですか!」
「そんなの関係ねえ!」
シンは断言して冬那に唇を近づけてゆく。冬那は逃げようとするが、シンがガッチリホールドして逃がさない。シンは強引に冬那の唇を奪った。
「私の初めて……シン先輩に……」
冬那は体の緊張を解き、シンに身をゆだねる。麻衣は少しだけ素面に戻って、尋ねた。
「シンちゃんは羽流乃ちゃんのことはどう思ってるんや?」




