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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
第3章 私はハーレム潰します/私もハーレム入りたいです!
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9 宴会

 スコルピオに着いたのは夕方少し前くらいの時間だった。スコルピオの南方にあるマグヌス火山帯には数多くの魔族が住み着いていて、さらに抜ければ大国サラマンデルの領国に達する。そのためスコルピオは城塞都市としての趣が強い。スコルピオが国境防衛の一大拠点なのだ。


 小高い丘の上で城壁と堀に囲まれ、複数の櫓が屹立したスコルピオは、遠目からは大きな城のように見えた。後方となる北側にも要所要所に支城が配され、その守りは堅牢だ。元々は羽流乃の実家であるエゼキエル家が支配していたが、今は四百年前の戦争で活躍してそのまま国境防衛を担っているロレンス家の本拠となっており、半ば独立国のような状態である。




 二次元三兄弟はさっそく機材を準備し、冬那はレポーター役になって町の人たちにインタビューして回る。今日は生放送だ。


「魔族の侵入? 確かに最近多いねえ……」


「やたらオークどもの武器がいいんだ。サラマンデルが裏で支援してるんじゃないかって、もっぱらの噂さ」


「あいつらに国境の砦を落とせるとは思えないけど、こう何回も来られると不気味ではあるね」


 城塞都市だけあって事件に対する住民の関心は高く、興味深い話をいくつも聞くことができた。最後に冬那は、シンに大型のガイコツマイクを向ける。


「いろいろ聞いたけど俺から言うことは一つだ。何かあれば、魔族なんて俺と葵でぶっ飛ばしてやる。だからみんな、安心してほしい」




 夜はあらかじめ二次元三兄弟が用意していた宿屋に皆で泊まることにした。今回の訪問は突然である。一応臣下とはいえロレンス家は大貴族だ。あまり無理を言って関係を悪化させたくないし、何よりシンとしては宮殿などに泊まるのは堅苦しくて緊張する。皇帝としての振る舞い云々と小言を頂戴するのはごめんだ。


 夕食はスコルピオの名物となっている屋台街に行ってみることになった。城壁の外に、支城群に勤務する兵士たち向けの屋台が大量に出ているのだ。城塞都市とはいえ、ここ百年間はこの地域も平和が続いている。本来よろしいことではないが、城壁外にも雑然とした市街が形成されつつあった。


 とはいえ国境地帯への魔族の侵入事件が相次ぐ今でも、この城壁外市街まで魔族が現れたことなど一度もない。城壁の外でも危険地帯ということは全くなかった。


 屋台街は非番の兵士や訪れた商人たちで賑わっていた。ソーセージ、串焼き、肉団子といった肉系が多いが、サンドイッチやフライドポテト、さらにはワッフルのようなスイーツ系まで揃っている。中にはうどんやまんじゅうなど、どこからどう見ても和食にしか見えないものまであった。


 この地をかつて治めていたエゼキエル家当主は黄金の国からの転生者だった。彼は作成した鉄砲を用いて、侵攻してきたサラマンデル軍を幾度となく撃退したという。昔転生してきた日本人たちは、鉄砲だけでなく故郷の味も伝えたようだ。


 各屋台は当然食べ物だけでなく、ワインやビールといった酒も揃えている。非番の兵士たちはまだ日が落ちていないというのに、早くも飲めや歌えやの大騒ぎを始めていた。


「モロハク……? これは何だろう?」


 適当な屋台でメニュー表を見て、葵は首をひねる。確かにそんな料理は聞いたことがない。店主は説明してくれる。


「お客さん、お目が高いね! かつての領主様が好んだという米から作った酒さ! おいしいよ!」


「米から……? 日本酒ってことか!」


 シンは驚く。マグヌス火山帯のさらに南に位置する温暖なサラマンデルでは小麦だけでなく米も作られており、スコルピオにも流れてきているということだった。他にも海に面したサラマンデルからは海産物も運ばれてくるので、この屋台ではほとんど日本の居酒屋のようなメニューが出てくる。


「これがあるからちょくちょくこの町に来ちまうんだよなあ。ここでいいだろ?」


 落合は屋台のカウンターに掛け、ゆでだこといわしの塩焼き、湯豆腐、さらにはだいこんとちくわのおでんを注文する。こちらの世界に来て、本格的な和食を食べるのは初めてだ。みんな落合に従ってカウンターに座り、さらにシンは酒を注文する。


「おっちゃん、モロハクってのをくれ!」


「シン!」


「いいじゃねぇか。俺たち、社会人だし」


 葵は非難がましい目をシンに向けるが、この世界で未成年もクソもないだろう。シンたち、死んでるし。店主は瓶で日本酒を出し、すかさず冬那がお酌をしてくれる。


「どうぞ、シン先輩」


「おう、ありがとう!」


 ちょうどシンが一回で飲みきれるくらいの量をぴったりグラスについでくれた。さすが冬那。わかっている。葵はジト目で冬那を見る。冬那は苦笑した。


「随分手慣れてるね……?」


「ハハハ……前に獅子舞のお手伝いをしたときに、結構やりましたから……」


 シンも参加する地元の獅子舞の練習で、毎日宴会をしていたのだった。地域でやっているちゃらんぽらんな会なので、中学生にも平気で酒を勧めていた。そのとき冬那もお手伝いに来て、覚えたというわけである。


「そっか。ウチは完全転入組やから呼ばれてなくて知らんかったなあ。おっちゃん、ウチはビールで!」


 麻衣も酒を頼み、飲み始める。二次元三兄弟は全員下戸なので、酒は控えめにちびちびやる。羽流乃は護衛に差し支えるといってシンたちの背後で待機しており、そもそも参加しない。


「全く、君らときたら……」


「無理することはないで。お子様はジュースでも飲めばええやろ」


 葵は嘆息し、麻衣はからかう。葵は頬を膨らませた。


「そんなことを言われるのは心外だね! 僕だってお酒くらい飲めるさ! おじさん、僕にもモロハクを!」

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