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11 飛行機

 校庭から出発したバスは空港へと到着し、那覇行きの飛行機に乗る。手をつないでいるシンと羽流乃の姿を認めた何人かの級友は二人をからかったが、羽流乃は「迷子を連れてきただけですわ」と言い放って追い散らし、とりあえずなかったことになっている。


 飛行機でシンの席は窓際の二人掛けで、葵の隣だった。女子は皆葵の隣に座りたがらなかったので、シンが立候補したのである。冬那だけは自分が隣にと申し出たが、葵が拒絶した。


 瑞希が自殺した件は少なからず葵の心にも傷を与えていた。あの事件以来、葵は瑞希がつけていた黄色い宝石の指輪をずっとはめている。瑞希の遺体からこっそり回収していたらしい。瑞希が指輪をしていたのは有名だったので、葵は先生や警察と一悶着を起こしたが、元は葵のものだったそうで、最終的には葵のものになった。元々瑞希のものだったという青い指輪も同様に葵のものとなっているが、葵は頑なに身につけようとしない。


 葵はすでにシートに座っていて、シンがやってきても無言である。無言で、何故か生のキュウリをかじっていた。好きなのだろうか。


「もうおやつの時間か? 何もつけてないのにおいしいのか?」


 シンは話しかけるが、葵は無言で目を逸らすばかりだ。気にせずシンは一人で喋り続ける。


「キュウリにならこういうのが合うだろ。ほら、やるよ」


 シンはバッグから生ハムを取り出し、葵に差し出す。皆チョコレートやスナック菓子ばかり持参しているので、何か変化をつけようとシンはハムやスルメを持ってきていたのだった。冬那が枝豆やキュウリをくれたため、バランス的には完璧である。シンはわりと行けるクチではあるが、断じて酒のつまみではない。


 ようやく葵が反応してくれる。


「……肉は嫌いなんだ」


「菜食主義者なのか?」


 言われてみれば、葵は給食でいつも「食欲がない」と言って肉・魚系は残していた。だいたいシンや運動部男子の胃袋に収まって残ることはないのであまり気にしていなかったが、異常といえば異常だ。べつに体重を気にしているわけでもあるまいし。


 シンはハムを引っ込める。葵は答えた。


「そこまでではないんだけど、僕は動物たちの声が聞こえるからね。あまり食べる気がしないんだ」


 葵はさらりととんでもないことを言う。だとしたら、あのとき葵が鳥を追って走り出したのは……。


 シンが思索していると、葵は訝しむようにこちらを見る。


「まさか君、本気にしてるの?」


「え? 嘘なのか?」


 キョトンとするシンに、葵はあきれたようにため息をつく。


「常識で考えなよ。君ってば、そんなのじゃ世の中を渡っていけないよ?」


 シンは笑う。


「ハハ、いいんだよ。これが俺のやり方だから。それより、これならどうだ? 食べられるんじゃないか?」


 シンは枝豆を葵に差し出した。冬那からもらったものだ。早めに消費した方がよさそうな気がするので、ちょうどいい。


 葵は胡乱な目でシンを見たが、枝豆は受け取った。


「君って、頭おかしいんじゃない?」


「かもな」


 言葉の暴力を振るわれた気がするが、シンは気にしなかった。葵が、少しだけ笑っていたから。シンは枝豆を食べる葵に話しかけ続ける。


「うまいだろ? 冬那からもらったんだ。俺もばあちゃんが畑で作ってるの、もってくればよかったかなあ」


「神代のおばあちゃん、元気なの……?」


 ぽつりぽつりと葵も応じてくれて、しばらく会話が続いた。


 ちなみに羽流乃たち三人は通路を挟んでシンの隣に座っている。羽流乃はシンがいつもの調子を取り戻したのを見てホッとしたようで、羽流乃にしては珍しく柔和に微笑んでいた。

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