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転生魔王のワールド・リバースド ~ハーレム魔王が地獄に墜ちてハーレム魔王になる話~  作者: ニート鳥
第3章 私はハーレム潰します/私もハーレム入りたいです!
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8 影の帝国

「山北君……噂には聞いていましたが、まさかあなたがこんなに立派になっているとは。先生は嬉しいです」


 去年の担任だった中村先生は、全く何の感慨もなさそうな無表情で、山北に言った。山北は尋ねる。


「先生、今日は何のご用ですか?」


 昨年一年間、教わっていたにもかかわらず、山北は中村先生に対して何の印象もない。淡々と、ロボットのように授業をするだけの人。クラスの運営に関してはよく言えば放任、悪く言えば放置。敬虔な十字教徒だと聞いたことはあるが、本人の口から神への言葉が漏れたことは一度もない。


 どちらかといえば、まだサラリーマン教師という方がしっくりくる。サラリーへの執着さえ全く見えなかったが。


 その中村先生が、山北の前に現れた。この姿になった山北に、いったい何を求めるというのか。中村先生が執着しているものは、何なのか。


「……力を貸してほしいのです。神代シンを倒すための力を」


「……お話を伺いましょう。フフッ」


 願ったり叶ったりだ。そのために山北はこの姿になったのである。喜びのあまり、潰れた醜い鼻から、少し鼻息が漏れた。口から飛び出している牙をぬぐう。山北は、オークに転生していた。




 クラスメイトの中には最初から魔族だったものもいたようだが、山北はそうではなかった。火の魔力を持って転生した山北は鍛冶屋に弟子入りして腕を磨き、すぐに独立して自分の工房を持った。山北は王国軍御用達の鍛冶師となり、王国軍に剣を納めるようになる。


(いつか、俺が打った剣を羽流乃に……!)


 それが山北の夢だった。羽流乃は記憶をなくしているのだが、神代のことも覚えていないということだ。山北とっては好都合である。前世では、山北は羽流乃の力になることなどできなかった。今は違う。肩を並べて戦うことはできないが、剣を打つことができる。


 神代シンが転生してきたのはその頃だ。「雇ってくれないか?」などとふざけたことを言ってきたので、「ざまあみろ、ハーレム野郎!」と怒鳴り上げてから追い出してやった。種なしということでその場で斬り殺してもよかったのだが、すこぶる機嫌のよかった山北はそこまではしなかった。


 後から思えば、そのときに殺しておいてやればよかったのだ。そうすれば、また山北が怒りと苦痛に苛まれることはなかった。シンはあれよあれよという間に女王の婚約者に上り詰め、また羽流乃はやつの手駒に成り下がった。ふざけるなといいたい。


 だから山北は自分で打った剣を持って旅に出た。全てはシンを殺すためである。目的地はサラマンデルだ。やつはちょうど、隣国シルフィードに攻め込んでいる。暴力を振るうことしか知らない馬鹿なので、遠からずサラマンデルとも戦争を始めるだろう。そのとき、自分がやつを殺す。


 羽流乃のように自分で剣を振るう気はなかったが、そうも言っていられない。羽流乃には劣るが山北もこの世界の一般人と比べれば魔力は強い。一応剣道だってやっていた。サラマンデルの傭兵にでもなって、自分でシンの首を取ってやる。


(魔物と戦うだけなら、二次元三兄弟にもできたんだ……! 俺にできないはずがない……!)


 しかしあっさりと山北は死んだ。マグヌス火山帯を抜ける途中で、オークに襲われたのだ。突然のことに体が震え、自慢の愛刀を抜くことさえできなかった。地面に倒れ伏せた瞬間、山北は悔やむ。


(力がほしい……! 俺にもっと力があれば、羽流乃をあいつの好きになんかさせなかった……! 黒海だって……!)


 そして、山北は転生した。




 気付けば山北はオークの群れに混じっていた。人間が転生の祭壇から現れるように、魔物は魔物の群れの中に現れる。仲間たちは転生してきた自分のことを特に怪しむでもなく普通に受け入れ、山北はとあるオーク部族の一員となった。


 珍しいが、ありえないことではないらしい。最初から魔族に転生した同級生もいるのだ。通常は魂が破壊されれば人としての姿を保てなくなり、もっと下等な生き物に転生してしまうが、死の間際に強烈に発した思いが魂を再構築した。神代シンを、殺せるような形に。


 そこから先はトントン拍子だ。オークには人間並みの知性があり、剣や弓なら自作できる。人間より魔力を扱うのは下手なのでミスリル合金を用いたマスケット銃こそ作成できないものの、転生して魔力を増した山北は今までより切れ味の鋭い剣を作れた。


 山北の打った剣で部族は周辺の魔族を平らげ、山北は王に祭り上げられた。万単位とはいかないが、数千の軍勢を動員可能だ。シンの喉元に届くかもしれない刃物は用意できた。後は行動するのみである。


 ここのところ、山北は配下の魔族を使ってグノームの国境地帯にちょっかいを出させていた。種族も、部族もバラバラな魔物たちは散発的に国境へと侵入し、守備隊に撃退される。しつこく続けていれば、馬鹿なシンが自ら出てくると読んでの嫌がらせ戦術だった。シンが出てきたら、山北が出陣して決着をつける。




「……今、彼は女王たちとともにスコルピオに向かっています。彼らが城壁外に出れば、私が知らせましょう」


「いい作戦ですね……」


 中村先生の言葉を聞いて、山北はニヤリと笑う。自分が描いていた青写真と同じだ。シンを脅威だと感じ、連携しているサラマンデル王国のスパイから情報をもらう予定だったが、天使だという中村先生に手引きをしてもらう方が確実である。


「サラマンデル王国とも話をつけました……。どうぞ、使ってください。それから、これも」


 中村先生の言葉を聞いて山北はそこそこ整った木造の屋敷から出る。広場に大量の槍や鎧、矢が届けられていた。さすがにマスケット銃はないが、非常に助かる。マスケット銃は人間にとって魔族に勝つための切り札なので、魔族に与えられることはまずないのだった。


 さらに中村先生は自作の魔道具も山北に渡す。シンを殺す切り札になるだろう。


「山北君のための剣も頼んできましょうか? あなたほどの魔力であれば、普通の剣ではもの足りないでしょう?」


「いえ、結構です……!」


 山北には、すでに剣がある。オークへと転生して魔力が強化された後、自分のために打った剣。この剣で神代シンを血祭りに上げる瞬間が楽しみだ。

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